「最近、うちのネコが夜中に大声で鳴くようになった」「トイレを失敗することが増えた」
高齢猫を飼っている人の中には、こんな変化に戸惑った経験があるかもしれません。
実は近年の研究で、ネコも人間と同じように年をとると「認知症」になることがわかっています。
研究によれば、15歳以上のネコの半数以上に認知症の兆候が見られるとされ、決して珍しい病気ではありません。
そこで今回はネコがかかる認知症の正体と、飼い主が注意すべき「8つのサイン」を紹介します。
目次
- ネコもかかる認知症とは?
- 猫の認知症が疑われる8つのサイン
ネコもかかる認知症とは?

「猫認知機能不全症候群(feline cognitive dysfunction syndrome、通称:猫の認知症)」は、加齢によってネコの脳の働きが衰えることで起こる病気です。
人間でいえばアルツハイマー病や認知症に相当し、行動や性格に変化が表れるのが特徴です。
この病気は、他の病気(腎臓病や関節炎など)では説明できない行動の変化として現れます。
例えば、夜鳴きが増える、家族との関わり方が変わる、方向感覚を失うといった症状です。
ある研究では、15歳以上の猫の半数以上が認知症の兆候を示していたと報告されました。
さらに11〜14歳の猫の約28%が少なくとも1つの症状を持っていたことも確認されています。
つまり「高齢だから仕方がない」と見過ごされがちな変化の裏に、認知症が潜んでいる可能性は十分にあるのです。
さらに驚くことに、症状は7歳前後のまだ若い猫にも現れることがあります。
人間の中年期に軽度の認知症が始まるのと同じように、ネコの脳も思っている以上に早い段階から変化を始めているのです。
猫の認知症が疑われる8つのサイン

猫の認知症は、まず行動のちょっとした変化として現れます。
次の「8つのサイン」は、獣医師に相談すべき重要な目安です。
1. 異常な鳴き声
これまでと違って頻繁に鳴いたり、夜中に大きな声で鳴き続けるようになります。飼い主を呼ぶような切迫した声が増えることもあります。
2. ふれあい方の変化
以前よりも甘えん坊になって飼い主に付きまとう、逆に距離をとって不機嫌そうに振る舞うなど、交流の仕方が大きく変わることがあります。家族を認識できないような様子を見せることもあります。
3. 睡眠パターンの変化
夜に落ち着きがなくなり、昼間に長時間眠るようになるなど、昼夜逆転の傾向が出ます。
4. トイレの失敗
トイレの場所を忘れたり、トイレ以外の場所で排泄してしまうことがあります。他の病気のサインでもありますが、認知症でも典型的に見られる症状です。
5. 方向感覚の喪失
壁をじっと見つめる、家具の裏で動けなくなる、ドアの間違った側に立つなど、混乱した行動が増えます。これは人間の認知症患者の徘徊や迷子に似ています。
6. 活動量の変化
これまでより活発になったり、逆に動かなくなったりします。遊びや探検に興味を失い、毛づくろいを怠ることもあります。
7. 不安そうな様子
以前は平気だった人や環境、音に対して不安を示すことがあります。ベッドの下や棚の上に隠れるなど、逃避行動が目立つようになります。
8. 学習能力の低下
これまで覚えていたルール(トイレや食器の場所など)を忘れたり、新しいことを学ぶのが難しくなります。
これらのサインは1つだけでなく、複数が同時に現れることも多いため、見過ごさずに観察することが大切です。
ケアの工夫と今後の研究
ネコの認知症は、人間や犬の研究から得られた知見をもとに理解が進められていますが、まだ研究は十分ではありません。
現時点では根本的な治療法はなく、進行を遅らせたり生活の質を改善するケアが中心となります。
環境の工夫
軽度の症状であれば、脳を刺激する遊びやおもちゃを使った「狩りごっこ」、かくれんぼなどで探索を促すことが有効とされています。
こうした活動は神経を活性化させ、進行を遅らせる効果が期待できます。
ただし、重度の認知症の猫に環境を大きく変えると、かえって混乱や不安を招き、症状が悪化する場合があります。
状態に応じた慎重な配慮が欠かせません。
食事の工夫
ビタミンEやCなどの抗酸化物質、必須脂肪酸を含むサプリメントが脳の炎症を抑え、進行を遅らせる可能性が示されています。
ただし科学的に効果が確認されているのは犬での研究であり、ネコでの有効性はまだ不明です。
特に犬用サプリメントにはネコに有害な成分(αリポ酸など)が含まれることがあるため、必ずネコ用に認可されたものを使う必要があります。
ネコの認知症は珍しい病気ではなく、加齢とともに多くの猫が経験する可能性があります。
行動の小さな変化を「年のせい」と見過ごさず、早めに気づいて獣医に相談することが、愛猫の快適な老後を守る第一歩となるでしょう。
参考文献
Your Cat Can Get Dementia Too – Here Are 8 Signs to Look Out For
https://www.sciencealert.com/your-cat-can-get-dementia-too-here-are-8-signs-to-look-out-for
元論文
Amyloid-Beta Pathology Increases Synaptic Engulfment by Glia in Feline Cognitive Dysfunction Syndrome: A Naturally Occurring Model of Alzheimer’s Disease
https://doi.org/10.1111/ejn.70180
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部