ナルシシズム傾向が強い人ほど「過度な妄想中毒」に陥りやすいと判明

ストレス

誰しも現実がつらくて、「こうだったらいいのに」「こうならないかなぁ」と空想や妄想に逃げ込むことはあります。

けれど、もしそれが何時間も何日も続き、日常生活に支障をきたすようになったら、それは単なる夢想では済まされません。

そして最近、伊ローマ・サピエンツァ大学(Sapienza – Università di Roma)の最新研究により、ナルシシズム(自己愛)傾向が強い人ほど、過剰な妄想中毒に陥りやすいことが明らかになりました。

この過剰な妄想中毒は専門用語で「不適応性白昼夢(maladaptive daydreaming)」と呼ばれ、ただの妄想癖とは違い、日常生活に支障をきたす精神的な機能障害にまで発展する可能性があるものです。

では、ナルシシズムと妄想中毒の関係性について見ていきましょう。

研究の詳細は2025年4月9日付で学術誌『Psychiatric Research and Clinical Practice』に掲載されています。

目次

  • 「不適応性白昼夢」とは何か?
  • ナルシシズムと妄想の関係とは?

「不適応性白昼夢」とは何か?

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Credit: canva

「白昼夢(daydream)」という言葉は、楽しい空想やひとときの妄想というイメージがありますが、「不適応性白昼夢(maladaptive daydreaming、以下MD)」はその想像を大きく超えた状態を指します。

MDとは、過剰で没入的かつ鮮明な妄想に長時間ふけり、現実生活に支障をきたす心理現象です。

登場人物や物語を勝手に作り上げ、まるで頭の中にもう一つの世界を築くかのような状態に陥ります。

現実の人間関係よりも、空想の中のストーリーに親しみを感じてしまうことも珍しくありません。

たとえば、

・通学や通勤の間、ずっとファンタジー世界に没頭する

・空想の中の自分はスーパースターやヒーローである

・音楽をきっかけに自動的に空想が始まり止められない

といった特徴が見られます。

このような現象は、不安障害、うつ病、ADHD、トラウマなどと併発することも多く、単なる「夢見がちな人」として見逃されがちです。

しかし実際には人口の約2.5%がこのMDによって臨床レベルの支障を抱えているとの報告もあります。

MDはしばしば、心の痛みや現実のつらさから自分を守るための無意識的な戦略として働きます。

とくに「自分は無力だ」「現実の自分に価値がない」と感じている人ほど、空想の中で自分を特別な存在に仕立てることで、自尊心を保とうとする傾向があります。

このような自己イメージの防衛に関係するのが、今回注目されたナルシシズム(自己愛傾向)なのです。

ナルシシズムと妄想の関係とは?

今回の研究は、自己愛性パーソナリティ(ナルシシズム)傾向と不適応性白昼夢の関係を科学的に検証しました。

調査では、18〜60歳の若者を中心とする562人を対象に、不適応性白昼夢尺度(MDS-16)と病的自己愛尺度(PNI)、さらに心理的防衛機制を測定する尺度(DMRS-SR-30)を用いて調査を実施。

心理的防衛機制とは、不安やストレスから自分を守るために無意識のうちに働く心の戦略のこと。

その適応度によって、ポジティブな「成熟型(ユーモア・昇華など)」か、ネガティブな「神経症型(抑圧・置き換えなど)」「未熟型(否認・投影など)」に分類されます。

その結果、以下のことが明らかになりました。

・自己愛傾向が強い人ほど、MDのスコアが高い

・MD傾向が強い人は、「成熟型」ではなく、「未熟型」や「神経症的」な心理的防衛機制に頼る傾向が強かった

・若い人ほどMDに陥りやすいが、性別による差は見られなかった

さらに「ナルシシズム → 防衛機制 → MD」という因果的な連鎖のモデルを統計的に検証したところ、

・未熟な防衛機制(否認・投影など)を通じてMDが強まる

・神経症的な防衛(抑圧など)も中程度に関与

・一方で、成熟した防衛(ユーモア・昇華)はむしろMDを抑える保護因子

という興味深い結果が示されました。

つまり、自己愛傾向のある人が現実のストレスに適応できず、心理的にネガティブな反応をしてしまった結果、「過度な妄想の世界に逃げる」という心理的パターンを強化してしまう可能性があるということです。

このメカニズムは、自己愛性パーソナリティ障害(NPD)の診断基準にもある「誇大妄想的な空想」と重なっており、臨床的にも重要な示唆を与えています。

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私たちは誰しも「こうありたい」という理想の自分を思い描くことがあります。

しかしその理想があまりにも現実と乖離し、空想の世界に逃げ込むようになってしまったとき、それは心のSOSかもしれません。

今回の研究は、自己愛傾向という一見「強そう」に見える性格の裏に、現実と向き合うことの難しさや自己評価の脆さが隠れていることを浮き彫りにしました。

もしあなたや身近な人が、現実よりも空想の世界に安らぎを求めるようになっていたら、その背景には、見過ごされがちな「心の不適応」が潜んでいるかもしれません。

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参考文献

Narcissistic individuals are more prone to maladaptive daydreaming
https://www.psypost.org/narcissistic-individuals-are-more-prone-to-maladaptive-daydreaming/

元論文

What Is the Relationship Between Narcissism and Maladaptive Daydreaming? The Role of Defense Mechanisms as Mediators
https://doi.org/10.1176/appi.prcp.20250018

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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