恐竜界の王者、ティラノサウルス・レックスは、私たちの想像を超えた能力を持っていたのかもしれません。
もし1億年前の北アメリカで、湖や川のそばにいたTレックスに遭遇してしまったら……あなたはゴムボートで逃げ切れる自信がありますか?
最新の研究や化石痕跡の発見は「Tレックスは実は泳げた」という仮説を後押ししています。
小さな腕を持つ巨大な肉食恐竜は、陸上だけでなく水中でも自在に動き回っていたのでしょうか。
目次
- 泳いだ証拠と浮力の秘密
- 「犬かき」スタイル?実際の復元映像
泳いだ証拠と浮力の秘密
まず、Tレックスが本当に泳げたのかを探る上で、重要なのが化石として残された「泳いだ痕跡(スイム・トレース)」です。
スペインのカメロス盆地やアメリカ・ユタ州では、二足歩行の獣脚類が水中で足を動かしながら進んだとみられる独特な跡が発見されています。
これらの痕跡の一部は、通常の足跡の上に重なって残されており、「水かさが増したことで、歩いていた恐竜たちが途中から泳ぎ始めた」ことを示唆しています。
しかも、こうしたスイム・トレースは1例や2例ではなく、数百、数千単位で報告されているのです。
「10トンもあるTレックスが泳ぐなんて、沈んでしまうのでは?」という素朴な疑問も浮かびます。
しかし、Tレックスの骨の内部構造に注目すると、意外な真実が見えてきます。
Tレックスの骨には「気嚢(きのう)」と呼ばれる空洞が多数あり、これは呼吸器と繋がって空気が送り込まれていました。
これによって骨全体が軽くなり、水中での浮力が増すという特徴がありました。
実際、現生の鳥類やワニにも似たような構造が見られます。
Apple TVのドキュメンタリー『Prehistoric Planet』でも、科学コンサルタントのダレン・ネイシュ博士が「これらの証拠から、T. rexは優れたスイマーだった可能性が高い」と解説しています。
泳ぐことで、川の向こう側の獲物に近づいたり、新しい餌場を開拓したりしていたのでしょう。
「犬かき」スタイル?実際の復元映像
では、Tレックスはどのように泳いでいたのでしょうか?
Tレックスの骨の軽さは水に浮かぶのには有利ですが、その反面、水中に沈んで「潜水」するには向いていません。
スピノサウルスのような水中生活に特化した恐竜は、密度の高い重い骨とオールのような尾を持ち、深く潜って泳ぐことができました。
しかしTレックスの体は、どちらかというと「浮かびやすい=水面近くで泳ぐ」構造だったのです。
参考になるのが、現生鳥類の親戚であるエミューです。
エミューは長い脚で水を蹴り、頭を水面に出したまま泳ぐことができます。
研究者たちは、Tレックスもこれに似た「犬かき」のようなスタイルで、後ろ足の強力なキックを使って進んでいたのではないかと推測しています。
「Tレックスは泳げたのか?」に関する映像がこちら。
※音量に注意してご視聴ください。
小さな前脚は泳ぎにほとんど使われなかったと考えられますが、巨大な体とパワフルな脚力が水をかく推進力になったと考えられます。
もし当時の水辺でTレックスが昼寝しているところを見かけても、「川に飛び込めば助かる」という考えは通用しなかったかもしれません。
参考文献
Could T. Rex Swim?
https://www.iflscience.com/could-t-rex-swim-81697
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

