チンパンジーが「アルコール食で宴会」している様子を初発見!

アルコール

西アフリカの熱帯雨林で、世界初となる光景が目撃されました。

英エクセター大学(University of Exeter)の報告によると、チンパンジーが自然発酵してアルコールを含んだ果実を仲間と集まって共食する様子が撮影されたのです。

発酵食は計10回にわたり撮影され、常に仲間たちと分け合って食べていました。

チンパンジーは毎回食料を仲間と分け合って食べるわけではありません。

そのため、研究チームは「アルコールを含む食料は仲間と一緒に食べる」という特別なルールが霊長類の祖先の頃から存在し、これが現代人の「宴会文化」の発達にもつながっている可能性があると指摘しています。

研究の詳細は2025年4月21日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されました。

目次

  • アルコールは仲間と一緒に摂取するのが決まり?
  • 「宴会文化」の起源は霊長類の祖先にあった⁈

アルコールは仲間と一緒に摂取するのが決まり?

宴会といえば、人が集まり、食べて、飲んで、語り合う楽しいひとときです。

しかし今回の研究によれば、こうした行動の原型は、人類の遠い祖先に遡るのかもしれません。

今回の調査は、2022年4月から7月にかけて行われました。

対象となったのは、西アフリカ・ギニアビサウ共和国にあるカンタンヘス国立公園に暮らすチンパンジーたちです。

彼らは人に慣れていない野生のチンパンジーであるため、恐がらせないように固定カメラを3カ所に設置して、定点撮影を行いました。

その結果、調査期間中に70回の食事行動が記録され、うち10回が自然発酵した果実を食べていたのです。

しかも発酵した果実を食べるときは、決まって複数頭が集まって一緒に分け合っていることが確認されました。

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発酵した果実を食べるチンパンジーたち/ Credit: University of Exeter – Wild chimps filmed sharing ‘boozy’ fruit(2025)

チンパンジーが食べ残した果実を採取して調べたところ、アルコール度数は最も高いものでも0.61%程度でした。

この濃度自体は比較的低いですが、チンパンジーたちは日々の食事の60〜85%を果実でまかなっており、その中には発酵した果実も多分に含まれています。

そのため、微量のアルコールが積み重なって、最終的にはかなりのアルコール量を摂取している可能性があるといいます。

しかしそれでも「チンパンジーが発酵果実の摂取で酔っ払うことはないだろう」と研究者は指摘しています。

「宴会文化」の起源は霊長類の祖先にあった⁈

今日では世界中のいたるところで「お酒」が飲まれているように、人類は飲酒が大好きな生き物です。

ひとりで晩酌することもあるでしょうが、お酒を飲むときは大抵、仕事仲間や友人、家族と集まって楽しみます。

これが人間に特有の「宴会文化」として世界中に定着しているものです。

宴会文化はこれまで人類が独自に発達させてきた慣習と考えるのが普通でした。

しかし研究チームは、今回の発見から「宴会文化の起源は遠い霊長類の祖先に遡れるのではないか」と、一つの可能性として提案しています。

というのも、これまでの研究で「アフリカ類人猿の共通祖先において、エタノールの代謝能力が大きく向上した証拠」が見つかっており、霊長類の祖先の時点でアルコールを摂取・分解できるような体になっていたことがわかっています。

そこに今回の調査で、チンパンジーが発酵果実を食べるときは決まって仲間と一緒に分け合っていたことから、アルコールを含む食べ物は意図的に仲間と食べるルールが霊長類の祖先の時代からあった可能性が浮上しています。

研究主任のキンバリー・ホッキングス(Kimberley J. Hockings)氏も「この行動は『宴会』という行動様式の進化の初期段階を示しているのかもしれない」と指摘しました。

つまり、人類に特有の「お酒は一緒に楽しむ」という習慣の起源は、人間が生まれるずっと前の祖先にまで遡れる可能性があるのです。

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宴会文化の原型なのか?/ Credit: University of Exeter – Wild chimps filmed sharing ‘boozy’ fruit(2025)

では、なぜアルコールは決まって仲間と一緒に摂取しようとするのでしょうか?

これについて研究者は「社会的な絆を強化するためだろう」と推測しています。

アルコールにはドーパミンやエンドルフィンの分泌を促す作用があり、人間では「幸福感」「リラックス」「親密感の増加」といった効果をもたらします。

チンパンジーにも同様の神経系が存在するため、アルコールによる一時的な安心感や快感が、仲間同士の信頼感を高める役割を果たしている可能性があります。

これは人間の「飲みニケーション」にも通じる行動です。

ただ今回の調査報告はまだ、チンパンジーが発酵した果実を一緒に食べる様子が初めて撮影されただけであり、これが宴会文化の始まりであるとか、社会的な絆の強化行動であるとは断言できません。

それでもこのチンパンジーの行動は、宴会文化の原型を示すものとして、研究者たちは大いに注目しています。

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参考文献

Wild chimps filmed sharing ‘boozy’ fruit
https://news.exeter.ac.uk/faculty-of-environment-science-and-economy/wild-chimps-filmed-sharing-boozy-fruit/

Watch boozing chimps share alcoholic fruit. Is this how social drinking started?
https://www.livescience.com/animals/land-mammals/watch-boozing-chimps-share-alcoholic-fruit-is-this-how-social-drinking-started

元論文

Wild chimpanzees share fermented fruits
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.02.067

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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