スケルトン頭を持つ深海魚「デメニギス」、スケスケにするメリットとは?

動物

深海世界は、私たちの想像をはるかに超える異形の生物たちの楽園です。

その中でも、ひときわ異様な姿で知られているのが深海魚の「デメニギス」

彼らは他の魚には見られない、頭部がスケルトンになっており、中の目玉や軟組織が透けて見えるのです。

では、デメニギスが頭をスケスケにするメリットはどこにあるのでしょうか?

目次

  • スケスケ頭の持ち主「デメニギス」とは?
  • なぜ頭がスケスケなのか? メリットとは

スケスケ頭の持ち主「デメニギス」とは?

デメニギス(学名:Macropinna microstoma)は、ニギス目デメニギス科に属する深海魚です。

体長は約15センチメートルと小さく、静かに海中を漂うその姿から「幽霊魚(spook fish)」とも呼ばれます。

主な生息地は、北太平洋を中心とする深海域。

とくに水深600〜800メートルの薄暗い海の中に棲息しています。

この水深では太陽光がほとんど届かず、生物の生存環境としては非常に過酷な領域です。

外見でまず目を引くのは、まるでガラスのドームのように透明な頭部でしょう。

この透明な部分の中にある、2本の緑色の筒状の目がデメニギスの本物の眼球です。

こちらが実際に撮影された貴重なデメニギスの泳ぐ姿。

※ 視聴の際は音量にご注意ください。

デメニギスの行動も独特です。

平たい胸ビレを使って、水中でほとんど動かずに“ホバリング”のように静止し、浮遊するプランクトンやクラゲ、甲殻類などを狙って捕食します。

その小さな口は精密な餌の選別に適しており、大きな消化器官を通じて多様な獲物を処理できる構造を備えています。

発見自体は1939年にまでさかのぼりますが、長らくその頭部の透明構造は知られていませんでした。

なぜなら、海から引き上げる際に圧力変化でそのドームが壊れてしまうため、生きた状態で観察されることがほぼなかったからです。

転機が訪れたのは2004年。

米モントレー湾水族館研究所(MBARI)のリモート探査機が、ついに生きたままの個体を深海で観察し、2009年にはその透明な頭の構造が初めて映像として世界に公開されました。

なぜ頭がスケスケなのか? メリットとは

では、なぜデメニギスの頭は「透明」である必要があったのでしょうか?

その答えは、極限の環境に適応した「目の性能」と深く関係しています。

まず注目すべきは、デメニギスの眼が“筒状”であることです。

この形は上方からの光を集めるのに特化した構造です。

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デメニギスのイメージ画/ Credit: ja.wikipedia

深海では、わずかに差し込む太陽光や、生物発光による光しか存在しません。

そのわずかな光を効率的に捉えるため、デメニギスは常に“上を見て”暮らしています。

そして、その目を守るための構造が、あの液体で満たされた透明ドームです。

このドームはただの外皮ではありません。

刺胞動物(クラゲやイソギンチャクなど)の毒針から眼球を保護しながら、同時にレンズのように光を屈折・集光させる役割も果たしていると考えられています。

つまり、透明なドームは「防御」と「視覚強化」という2つの重要な機能を兼ね備えているのです。

さらに2009年の観察では、眼球を上だけでなく前方にも動かせることが確認されました。

これはクラゲに寄生している小型の獲物を狙う際に、角度を変えて追跡する能力を意味します。

動かないように見えて、その視線は実にアクティブなのです。

このように、デメニギスのスケルトンのような頭部は、単なる“奇妙なデザイン”ではなく、深海という極限環境に適応するための洗練された機能の集合体なのです。

深海で生きる生物たちは、進化の“常識”を裏切る存在ばかりです。

その中でも、デメニギスは透明な頭部という異例の戦略を選び、生き抜いてきました。

私たちの目に「奇妙」に映るものこそ、実は自然界において最も合理的で、最も美しい解答なのかもしれません。

スケルトンの頭を持つこの小さな魚は、今日も光なき深海で、静かにそしてしたたかに生き続けています。

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参考文献

This Fish Has a Weird See-Through Head With Its Eyes On The Inside. Here’s Why.
https://www.sciencealert.com/this-fish-has-a-weird-see-through-head-with-its-eyes-on-the-inside-heres-why

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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