サイコパスと呼ばれる性格傾向の人々は、一般的に「人の気持ちが分からない」と語られます。
しかし実は、彼らがもつある特性が、他人の考えや気持ちを正確に推測する力に役立っている可能性があります。
イギリス・リバプール大学(University of Liverpool)の研究チームは、成人を対象にサイコパス傾向と他者の心を推測する力(心の理論)との関係を詳しく調べました。
その結果、サイコパス的な「冷酷さ・卑劣さ(meanness)」が高い人ほど、他人の心を冷静かつ論理的に読み取る力に長けていることが分かりました。
この発見は、2025年7月20日付の『Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry』誌に掲載されています。
目次
- サイコパスは「人の心」を理解しているのか
- サイコパスの冷酷さが、他人の心を把握する上で“ドライな正確さ”を生む
サイコパスは「人の心」を理解しているのか
「サイコパス」と聞くと、多くの人は「他人の気持ちがわからず、冷たい人」というイメージを思い浮かべるかもしれません。
犯罪心理や精神医学の分野でも、こうした特徴を持つ人がどのように他者を理解しているのかは長らく議論の的でした。
ある研究では「サイコパス傾向が高い人は他者の感情や意図を正確に解釈するのが難しい」ことが示唆されていますが、別の研究では逆の結果が得られる場合もあるのです。
こうした混乱が見られるのはなぜでしょうか?
まず、サイコパス傾向もひとくくりではないことに注目できます。
現代の心理学では、サイコパス傾向を「大胆さ・恐れのなさ(Boldness)」「冷酷さ・卑劣さ・共感性の欠如(Meanness)」「衝動性・脱抑制(Disinhibition)」の3つに分けて考えます。
そして従来の研究では、サイコパス傾向を持つ人が社会的な状況で「どんな間違い方」をするのかは詳しく調べられていませんでした。
たとえば、「相手の気持ちを深読みしすぎて間違う」のか、「あまり考えずに読み違える」のかまで区別されていなかったのです。
そこで今回の研究では、そうした課題を克服するために、92人の健常な成人(18〜37歳)を対象としました。
研究チームはまず、サイコパス傾向を測定する質問票を用いて、参加者の「冷酷さ」「大胆さ」「衝動性」のスコアを算出。
さらに知能指数や自閉傾向、性別も測定し、分析の際に影響が出ないよう調整しました。
そして、社会的認知を調べる課題(MASC)を実施しました。
これは4人の友人たちが食事をする短編映像を視聴し、その時々の登場人物の考えや気持ちを推測するクイズ形式の課題です。
たとえば「今この人は何を思っている?」「どんな感情?」といった設問に複数回答えます。
この課題では、ただの正解・不正解だけでなく、「深読みしすぎる間違い」と「読みが浅すぎる間違い」の2種類の誤答も記録されるため、より精密に参加者の“心の読み方のクセ”を評価できます。
サイコパスの冷酷さが、他人の心を把握する上で“ドライな正確さ”を生む
研究の結果、「冷酷さ(meanness)」のスコアが高い人ほど、他人の心を正確に推測する(心の理論)課題で正答数が多いことが分かりました。
特に注目すべきは、「深読みしすぎる」エラーが少なかった点です。
これは、余計な思い込みや感情を交えず、相手の言動を論理的に読み取る力が高いことを意味します。
また、冷酷さのスコアが高くても、「読みが浅すぎる」エラーが増えるわけではありませんでした。
つまり、「冷酷さ」特性の高い人は、必要なだけ相手の気持ちや考えを推測し、的外れな深読みや先入観で間違うことが少ないと判明したのです。
彼らは、「冷静かつドライな読み取りの達人」ともいえる存在だったのです。
ちなみに、他のサイコパス傾向(大胆さ、衝動性)と他者の心を推測・理解する能力には明確な関連は見られませんでした。
この点からも、「冷酷さ」だけが“他人の心を論理的かつ正確に読む”能力に強く結びついていることが示唆されます。
この発見は、これまでの「サイコパスは他人の気持ちがわからない」というイメージとは異なる、新たな側面を浮き彫りにします。
そして研究チームは、この力が必ずしも「他人を思いやるため」だけに使われるとは限らない点にも注意を促しています。
冷酷さの高い人に他人の考えや弱点を見抜く力があるからといって、共感するとは限りません。
その力を時に自己利益のためや、場合によっては他人を操作するために使っているかもしれないのです。
今後は、より幅広い年齢層や文化、さらには重度のサイコパス傾向を持つ人も対象に含めた研究が必要です。
もしかしたらあなたのまわりにも「他者の心を理解し、操作している」サイコパスな人がいるかもしれません。
参考文献
Researchers studied psychopathy and mind-reading ability. One result was particularly surprising.
https://www.psypost.org/researchers-studied-psychopathy-and-mind-reading-ability-one-result-was-particularly-surprising/
元論文
Psychopathic meanness is associated with fewer over-mentalizing errors
https://doi.org/10.1016/j.jbtep.2025.102054
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部