コレステロールは私たちの体内でどのように結晶化し、病気の原因となるのでしょうか?
米ヒューストン大学(University of Houston)の研究チームが、この疑問に答える画期的な研究を発表しました。
チームはコレステロールの結晶化の様子をリアルタイムで撮影することに初めて成功したのです。
この発見により、動脈硬化や胆石といった病気のメカニズムがより詳しく解明される可能性があります。
研究の詳細は2025年3月3日付で学術誌『PNAS』に掲載されました。
目次
- コレステロールは「結晶化」すると危険
- コレステロール結晶をリアルタイムで撮影!
コレステロールは「結晶化」すると危険
コレステロールと聞くと「健康に悪いもの」というイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、コレステロール自体は体にとって必要不可欠な成分です。
細胞膜の構成要素となって髪や皮膚をなめらかにしたり、ホルモンやビタミンDを作る材料にもなっています。
ところがコレステロールが過剰に体内に蓄積されて結晶化すると、これが病気の元になってしまうのです。
例えば、動脈硬化では、血管内にコレステロール結晶が蓄積し、血流を妨げることで心疾患や脳卒中を引き起こします。

また、胆嚢(たんのう)内でコレステロールが結晶化すると胆石になり、激しい痛みの原因になります。
ただ、これまでの研究では、コレステロールがどのように結晶化するのか、その具体的なプロセスはほとんどわかっていませんでした。
そのため、コレステロールの結晶化を防ぐ治療法の開発が難航していたのです。
しかし研究チームは今回ついに、コレステロールが結晶化するプロセスをリアルタイムで捉えることに初成功しました。
コレステロール結晶をリアルタイムで撮影!
チームはコレステロールがどのように結晶化するのかを直接観察するために、特殊な顕微鏡技術を用いました。
まず、人間の体内の環境を模倣するために、水とイソプロパノール(脂質の代替物)を混ぜた溶液を使用しています。
この環境の中で、コレステロールがどのように結晶を形成するのかをリアルタイムで観察することができました。
実際の映像がこちらです。

撮影された映像では、コレステロール結晶が「層状」に成長していく様子が確認されました。
また、結晶の各層が互いに相互作用すると、成長速度が遅くなることも明らかになりました。
これまでの仮説では、コレステロールの結晶は単純に成長するものと考えられていましたが、実際には異なるメカニズムが働いていることが分かったのです。
この研究結果は、コレステロール結晶の形成を抑える新しい治療法の開発につながる可能性があります。

今回の研究は、コレステロール結晶の成長を初めてリアルタイムで観察し、その成長パターンを明らかにした点で非常に画期的です。
この発見をもとに、将来的にはコレステロールの結晶化を抑制する新たな治療法が開発される可能性があります。
例えば、特定の薬剤を用いて、結晶の成長を抑えることで動脈硬化や胆石のリスクを低減できるかもしれません。
また、食生活や生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的な予防策が生まれることが期待されています。
参考文献
UH Professors First to Take Images of How Cholesterol Forms Crystals in the Body
https://uh.edu/news-events/stories/2025/march/03112025-rimer-vekilov-crystal-cholesterol.php
元論文
Direct observation of cholesterol monohydrate crystallization
https://doi.org/10.1073/pnas.2415719122
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部