”グルテン過敏症”だと思う人の多くは「グルテンが原因ではない」と判明

近年、スーパーやカフェ、レストランで「グルテンフリー」という表示をよく見かけるようになりました。

小麦を避けたい人、特にグルテン過敏症(非セリアック・グルテン過敏症、NCGS)と考えられている人にとっては、こうした表示は安心して食事を選ぶための大切な目印です。

しかし、最新の国際研究によって「グルテン過敏症」と考えている人の症状の多くが、実はグルテン自体によるものではないことが明らかになりました。

この研究は、オーストラリアのメルボルン大学(The University of Melbourne)の研究チームによるもので、2025年10月22日に医学誌『The Lancet』に掲載されました。

目次

  • グルテン過敏症とは
  • 「グルテン過敏症」と感じる人の多くが勘違い!?明らかになった原因とは

グルテン過敏症とは

グルテンは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種です。

パンやパスタ、うどん、ケーキなど、私たちの食生活には欠かせない食材に広く含まれています。

そんなグルテンが体に悪い、というイメージはここ10年ほどで一気に広まり、「グルテンフリー」を選ぶ人が世界中で増えています。

グルテン関連障害には、大きく分けて3つのタイプがあります。

まず一つ目が「セリアック病(CD)」です。

これは、グルテンを摂取することで腸の粘膜に自己免疫反応が起こり、消化吸収障害や慢性的な腹痛、貧血、成長障害などを引き起こす難病です。

血液検査や腸の生検で診断され、生涯にわたる厳格なグルテン除去食が必要であり、米国での罹患率は1%程度と報告されています。

二つ目は「小麦アレルギー」。

これはグルテンだけでなく、小麦に含まれる様々なタンパク質に対してアレルギー反応が起こる状態です。

じんましんや喘息、重症の場合はアナフィラキシーショックを起こすこともあり、やはり小麦製品の回避が必要となります。

そして三つ目が「非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)」です。グルテン過敏症やグルテン不耐性と表現されることもあります。

これはセリアック病でも小麦アレルギーでもないけれど、グルテンを含む食品を食べるとお腹の張りや痛み、疲労感、頭痛、注意力の低下といった症状が現れるというもの。

「自分はグルテン過敏症だ」と考える人は世界の成人の約10%にものぼると言われています。

グルテンフリー市場が世界的に拡大している背景には、自己申告ベースの“グルテン過敏”の人が急増したことも関係しています。

しかし、NCGSは診断のための明確なバイオマーカー(血液検査などでわかる客観的指標)が存在せず、他の疾患を丁寧に除外したうえで、最後に「グルテン過敏症かもしれない」と診断されます。

そこで研究チームは、この曖昧なグルテン過敏症の実態や原因、そして診断や治療の課題を詳しく検証することを目的として、世界中の論文や臨床試験データを総合的に分析しました。

「グルテン過敏症」と感じる人の多くが勘違い!?明らかになった原因とは

国際チームが過去の論文や臨床試験データを厳密に分析した結果、「グルテン過敏症」と自己申告した人のうち、実際にグルテン摂取で症状が再現されたのは、16〜30%程度しかいないことが明らかになりました。

つまり、本当にグルテンが原因で症状が出る人はごく一部であり、残りの多くの人は別の要因で体調不良を感じている可能性が高いというのです。

では、その「別の要因」とは何なのでしょうか?

研究で注目されたのが、「FODMAP(フォドマップ)」と呼ばれる小腸では吸収されにくい短鎖炭水化物です。

FODMAPは大腸で発酵しやすく、人によってはガスや腹部膨満、痛みなどの症状を引き起こします。

これにはタマネギ、牛乳や納豆だけでなくパンなども含まれており、FODMAPが原因なのにグルテンが原因だと勘違いする可能性があります。

また、臨床試験の多くでは、グルテン、偽グルテンをランダムに与えても、症状の出方に明確な違いが見られないことが分かっています。

これは「ノセボ効果」、つまり「グルテンが体に悪い」という思い込みや不安が、実際に体調不良を引き起こす現象が大きく関与していることを示唆しています。

さらに、NCGSの症状や経過は、腸と脳が密接にやりとりする「過敏性腸症候群(IBS)」ともよく似ています。

研究チームは、「最近の研究では、グルテン過敏症だと考えているIBSの患者は、グルテン、小麦、プラセボに対して同様の反応を示しました」と述べています。

このような状況のため、NCGSの診断は依然として難しく、「グルテンだけを除去すれば解決」という単純な話ではありません。

治療においても、食事の調整(必要に応じてFODMAPの制限も含む)と、心理的サポートの両立、そして栄養バランスの確保が重要であると強調されています。

本研究では、「グルテンが体に悪い」という一面的なメッセージを見直し、より個別化された科学的根拠に基づくケアと教育が必要だと提言しています。

また、今後は正確な診断法や検査の開発、食品表示の見直し、一般向けの教育にも力を入れるべきだとされています。

「グルテン過敏症」と考えている人の多くは、実はグルテンそのものが原因ではなく、他の小麦成分や思い込み、腸と脳のやりとりが関係していることが明らかになりました。

自己判断で極端な食事制限に走るのではなく、専門家と相談しながら自分に合った方法を探ることが、健康への近道かもしれません。

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参考文献

Gluten sensitivity: It’s not actually about gluten
https://www.unimelb.edu.au/newsroom/news/2025/october/gluten-sensitivity-its-not-actually-about-gluten

元論文

Non-coeliac gluten sensitivity
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(25)01533-8

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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