アメリカのジョージア大学(UGA)などで行われた研究によって「クールさ(かっこよさ)」が文化を超えて6つの特性で説明できることが明らかになりました。
これまで「クール」という言葉は漠然としており、文化や地域によって異なるイメージを持つと考えられてきましたが、この研究はむしろ世界中で「クールさ」のイメージが驚くほど共通していることを初めて科学的に実証しました。
しかしなぜクールの概念は文化を超える力があったのでしょうか?
研究内容の詳細は『Journal of Experimental Psychology: General』にて発表されました。
目次
- 『クール』の歴史と人々が求める理由
- 文化を越えて一致する『クール』の条件とは?
- 私たちはなぜ『クールな人』を求めるのか?
『クール』の歴史と人々が求める理由

私たちは日々の生活の中で、SNSや街角、学校や職場で「クールな人」を見かけることがあります。
「この人、なぜか惹かれる」「なぜか目が離せない」と感じたことはありませんか?
多くの場合、そんな「クールな人」には、外見や持ち物だけでなく、他の人とは違う特別な雰囲気や態度があります。
けれども、そもそも私たちはなぜそれを「クール」と感じるのでしょうか?
そして、その感覚は時代や国を超えても共通しているものなのでしょうか?
実は「クール(cool)」という言葉には古い歴史があります。
もともと1940年代のアメリカで、アフリカ系アメリカ人のジャズミュージシャンやビートニクと呼ばれる若者たちが使い始めた言葉だとされています。
当時の「クール」は、苦しい状況や社会の圧力に対しても動じることなく、自分らしさを貫き、静かな反骨精神を持つ態度のことを指しました。
それは一種の反体制的な表現であり、既存の常識や価値観に囚われない自由な生き方の象徴でした。
その後、この言葉は世界中に広まりました。
1950年代や60年代の映画や音楽、そしてファッションを通じて「クールさ」は一般的な概念となり、現代ではほぼ全世界で通じるほど一般化しています。
しかし一方で、多くの人々が使うようになり、商品や企業の広告にも頻繁に使われるようになったことで、「クール」の概念が本来持っていた反骨精神や尖った部分が弱まったという意見もあります。
それでも研究者は、「クールさはその本質を失ったわけではなく、むしろ時代に合わせて変化し、社会的な影響力を強める新たな機能を獲得している」と指摘しています。
とはいえ、「クール」という言葉の意味は、人によって少しずつ異なります。
ある人にとっては「クールな人」は誰にでも好かれる善良な人気者ですが、別の人にとっては少し危険で反抗的、あるいは独特な個性を持つ人かもしれません。
つまり「クール」の定義は曖昧で、私たちが「なぜクールだと感じるか」についても明確な基準がありませんでした。
そこで今回の研究研究者たちは「クールな人」に共通する価値観や性格特性を明らかにしようと考えました。
私たちが無意識に感じ取っている「クールさ」とは、具体的にどんな要素によって決まるのでしょうか?
文化を越えて一致する『クール』の条件とは?

私たちが無意識に感じ取っている「クールさ」は、一体どんな要素から生まれるのでしょうか?
その答えを得るため研究者たちはまず、世界各地のさまざまな国に住む人々にアンケート調査を行うことにしました。
研究者たちが対象にしたのは、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、南アフリカ、スペイン、インド、トルコ、メキシコ、中国(香港を含む)、チリ、韓国、ナイジェリアの13か国、約6,000人もの人々でした。
研究期間は2018年から2022年にわたり、幅広い文化圏や年齢層の人々が調査に協力しました。
研究者は参加者に、自分が実際に知っている人の中から「非常にクールだと感じる人」「まったくクールではないと感じる人」、さらに「非常に善良だと思う人」「あまり善良ではない人」をそれぞれ思い浮かべてもらいました。
そして、それぞれの人物がどんな性格や行動傾向を持っているかを詳しく答えてもらいました。
その評価項目には、性格の5つの要素(外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性)や、基本的な価値観を測る心理学的な指標が使われました。
その結果、研究者たちも驚くような共通の「クールな人のイメージ」が世界中で浮かび上がりました。
国や文化が違っていても、「クールな人」として挙げられた人物には共通した6つの性格特性があったのです。
クールな人に共通な6つの特性
外向性: 社交的でエネルギッシュに振る舞い、周囲に明るい雰囲気をもたらす
快楽性: 人生を楽しみ、快い感覚や体験を積極的に追求する
力強さ: 自信に満ちていて影響力があり、周囲を引きつけるカリスマ性がある
冒険心: 新しいことやリスクを厭わず挑戦し、スリルや未知の体験を求める
オープンさ: 心が開かれており、新しいアイデアや価値観を柔軟に受け入れる
自律性: 他人の許可を待たず自分の信念やスタイルを貫く独立独歩の姿勢
これら6つの特徴を持つ人が世界中どこでも「クールだ」と評価されたのです。
反対に、「クールではない」とされた人々には、内気で引っ込み思案であったり、保守的すぎて変化を嫌う、あるいは自分の考えをはっきり示さない傾向が見られました。
さらに研究チームは、「善い人」と「クールな人」を比較することで、クールな人がただの善良な人気者ではないことも明らかにしました。
善い人とされる人物は、協調的で真面目、温厚で伝統的な価値観を大切にするなど、一般的に「模範的で信頼できる人」というイメージでした。
一方で、クールな人には、必ずしも模範的とは言えないような反骨的で快楽的、時に型破りな魅力があることが多かったのです。
もちろんクールな人が嫌われるというわけではなく、多くの人からある程度好かれていることが条件ですが、「クールであること」は必ずしも「善い人」と同じではなかったのです。
さらに驚くべきことに、こうした「クールな人の条件」は、調査対象となったどの国でもほぼ変わりませんでした。
これはクールさというものが、世界中で共通の意味を持つ普遍的な概念に成長したことを示しているのかもしれません。
それでは、なぜ国や文化を越えて、「クール」と感じる人物像がここまで一致しているのでしょうか?
私たちはなぜ『クールな人』を求めるのか?

今回の研究によって、「クールさ」とは世界中で共通して理解される、明確な6つの性格特性によって決まっている可能性が示されました。
つまり私たちが何気なく「あの人、かっこいいな」と感じる感覚には、実は文化や世代を超えた共通の理由があったのです。
なぜ私たちは、これほど「クールな人」に惹きつけられるのでしょうか?
研究者たちは、クールな人々は単に外見や態度が魅力的なだけではなく、社会全体に新しいアイデアや価値観をもたらす重要な存在だと言います。
人々が「クールでありたい」と願うのは、単に周りから良く見られたいというだけでなく、自分自身が新しい時代をリードする一人になりたいという潜在的な欲求があるからかもしれません。
つまり、「クールな人」とは社会の常識や慣習に挑戦し、新しい道を切り開く先駆者のような存在なのです。
しかし、この研究から見えてきた重要なポイントは、「クールであること」と「善い人であること」は必ずしも一致しないということです。
多くの人は、「良い人」や「親切で信頼できる人」が好まれると思っていますが、クールな人というのは必ずしも常識的で模範的な人物像に収まるわけではありません。
むしろ、多少の型破りさや大胆さを持っていて、既存のルールや常識に縛られない自由な魅力を持つことが重要なのです。
とても真面目で親切な人でも、独特の個性や自由な精神が欠けていれば「クール」とは感じられないでしょう。
逆に、少しルーズでも個性的で大胆な人が「なんだか魅力的だ」と感じられることもあります。
これはつまり、「クールさ」とは社会的な好感度以上に、その人が持つ独自性や新鮮な価値観に深く結びついているということを意味しています。
今回の研究結果は、さらに興味深い傾向も明らかにしました。
かつて「クール」といえば、どこか無口でニヒルな、感情を表に出さない人物像が一般的でした。
しかし現代では、むしろ人前で堂々としており、周囲に明るくエネルギッシュな雰囲気を与える人がクールだと感じられる傾向にあります。
つまりクールさというのは時代と共に変化し、今や「静かにキメる」よりも「明るく魅せる」スタイルの方が支持されるようになったということです。
また、クールな人の社会的役割も重要です。
クールな人は必ずしも権力やお金があるわけではないのに、その独自の魅力によって周囲から一目置かれる非公式なリーダーのような存在になっています。
彼らの大胆で個性的な態度やスタイルが周囲の人に影響を与え、結果として新しい文化や流行を生み出していくことがよくあります。
つまりクールな人は社会の新しいトレンドをつくり出す原動力であり、文化や社会全体を前進させる可能性を持つ人々なのです。
ただし、クールさには一定のリスクも伴います。
クールな人が型破りな魅力を持つ一方で、度が過ぎた行動や常識を逸脱した振る舞いは「クール」ではなく「危険だ」「問題だ」と受け取られることもあるからです。
例えば、テスラの創業者イーロン・マスク氏がかつてインターネット番組でマリファナを吸って物議を醸した出来事がありました。
彼はもともと型破りでクールな人物として知られていましたが、この行動が「行き過ぎ」と見なされた結果、会社の評価や株価が下がる事態になりました。
クールさは、その魅力があるがゆえに、バランスや文脈を誤ればむしろ社会的評価を落とすリスクもあるのです。
それでは、私たちは結局どうすれば「クール」になれるのでしょう?
今回の研究結果を知ったとしても、「明日からクールになるぞ!」と意識しすぎると、逆に自然さを失って空回りしてしまうかもしれません。
実際のところ、「自然体で、自分の好きなことに正直に、自信を持って生きること」こそが本当のクールさを生むと考えられます。
周囲の目を気にして自分らしさを失うのではなく、余裕を持って自分のスタイルを楽しんでいる人が、結果的に周りから「素敵で魅力的な人」と思われることが多いのです。
今回明らかになった「クールな人」の6つの特性は、一見すると普通の人には難しい「尖った」資質のように感じられるかもしれません。
しかし、これらは裏を返せば、誰でも心がけ次第で育てられる「人間的な魅力の本質」なのです。
肩書きや財産、外見だけに頼らず、内面から湧き上がる自信や冒険心、柔軟な精神を持つこと。
そうした自分らしさを大切に生きることが、結局のところ本当の意味での「クール」なのかもしれません。
私たちも、自分の中にある「クールな要素」を磨いていけば、いつか誰かにとってのクールな人になれる日が来るのではないでしょうか。
元論文
Cool people.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/xge0001799
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部