カッコウたちは21種類の鳥から「お尋ね者」として警戒音を共有されている

コミュニケーション

托卵がどれだけ嫌われているかがわかる結果です。

オーストラリアのクイーンズランド大学(UQ)やアメリカのコーネル大学(Cornell)などの国際共同研究チームが行った新たな研究によって、世界各地の少なくとも21種類の鳥が、特殊な警戒音をカッコウなどの托卵鳥に対して共有し、異なる種同士でも協力して敵を追い払っていることが明らかになりました。

このワイニング音は、「発する側が学習で習得し、聞く側は生まれつき本能的に理解して即座に行動する」という特異な性質を持っています。

世界の鳥たちはなぜこの特殊な鳴き声を選び、種を超えた協力行動をするようになったのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月3日に『Nature Ecology & Evolution』にて発表されました。

目次

  • 種を超えた「お尋ね者」となった托卵鳥
  • 種を超える『対托卵』警告音の進化
  • 鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性

種を超えた「お尋ね者」となった托卵鳥

種を超えた「お尋ね者」となったカッコウ
種を超えた「お尋ね者」となったカッコウ / Credit:川勝康弘

私たち人間は、普通は自分で子どもを育てるものですよね。

それは鳥の世界でも同じことです。

しかし、カッコウやコウウチョウなどの鳥の一部には、「托卵」という驚くべき行動をとる種がいます。

托卵とは、自分では巣を作らず、こっそりと他の種類の鳥の巣に卵を産みつけ、その鳥に子育てを任せてしまう、ずる賢い方法です。

托卵鳥のヒナは、宿主の卵よりも先に孵ってしまうことがよくあります。

すると、自分より後から孵った宿主のヒナを巣の外へ押し出したり、親鳥が運んできたエサを独り占めしたりします。

このため宿主の鳥は、多くの場合、自分の子どもを一羽も育てられず、大切な子孫を失ってしまうことになります。

托卵鳥は宿主の親鳥を直接襲ったりはしませんが、子どもを育てる機会を奪ってしまう点で、宿主にとっては重大な脅威なのです。

こうした被害を避けるために、宿主鳥たちは長い進化の中でさまざまな工夫を発達させてきました。

例えば、産みつけられた卵を見分けて巣から捨てたり、托卵鳥が近づいてきたら集団で追い払ったりします。

特に集団で敵を追い払う行動は「モビング」と呼ばれます。

これは仲間同士が協力し合うことで、より効果的に托卵鳥を追い払える仕組みです。

しかし、托卵鳥だけに特別な警報音を出し、それで仲間を集めて攻撃する鳥は世界でも極めて珍しく、これまで実験で明確に確認された例はわずか2種のみでした。

その一つが、オーストラリアに暮らすスーパーフェアリーレンが使う「ワイニング」という音です。

このワイニングという音が面白いのは、「生まれつき出せる鳴き声ではない」という点です。

フェアリーレンの若い鳥は、先輩の鳥が托卵鳥に対してこの声を出すのを見て、その状況を覚えて真似をしていきます。

これは私たちが旗あげゲームを見て、合図を覚えるのと似たプロセスです。

しかし、このワイニングを聞いた周囲の他の鳥たちは、本能で即座にその意味を理解し、一斉に托卵鳥を攻撃し始めるのです。

つまり、鳴き声を「発する側」は学習が必要ですが、「聞く側」は生まれつき理解できるという、非常に不思議なコミュニケーション方法を使っているのです。

しかも、こうした特殊な警報音を使うスーパーフェアリーレンと、北米に住むキイロアメリカムシクイは、系統的にも生息する地域も全く違うにもかかわらず、共通して托卵鳥専用の警報音を使っています。

では、なぜこれほど離れた鳥たちが、似たような警報音を進化させたのでしょうか?

もしかしたら、世界の他の宿主鳥たちも、こうした特殊な「警報シグナル」を共有し、種を超えて協力し合っている可能性があるのではないか?

この大胆な仮説を実証するために、研究チームは世界的な調査と実験を行ったのです。

種を超える『対托卵』警告音の進化

種を超える『対カッコウ警告音』の進化
種を超える『対カッコウ警告音』の進化 / Credit:川勝康弘

研究チームは、托卵の被害を受けている複数大陸にまたがるの鳥の鳴き声を詳しく調べました。

特に注目したのが「ワイニング(きしむような特殊な鳴き声)」という声です。

すると驚くことに、オーストラリアやアジア、アフリカなど世界各地に生息する少なくとも21種の鳥が、それぞれの地域の托卵鳥に対して、よく似たワイニング音を出していることがわかったのです。

これらの鳥は系統的にも生息地的にも遠く離れているのに、なぜほぼ同じ音を使うのでしょうか?

研究チームは、この不思議な現象を詳しく分析しました。

まず、ワイニング音の特徴を音響分析という手法で調べました。

分析結果によれば、どの鳥もこの声を出すときには「周波数(音の高さ)」や「波形(音のパターン)」が非常に似ていました。

まるで世界の人が同じ笛を吹いて互いに合図しているような、不思議な状況です。

こうした似た声が世界各地で進化した理由について、研究チームは「音と意味が収れんし、似た鳴き声に進化した可能性がある」と説明しています。

つまり、鳥たちがそれぞれ独立して進化しながらも、同じような「音」を使うことが敵の托卵鳥に対抗するのに有効だったため、結果として世界中の鳥が似た「笛」を吹くようになったのだと推測されています。

このワイニング音は特に、托卵鳥と宿主(托卵される側の鳥。この記事では被害鳥)が複雑に入り組んだ地域ほど多く使われていることもわかりました。

托卵鳥と宿主が複雑に絡み合う地域では、約20種もの鳥がこの声を使っていました。

一方、関係が単純な地域では6種しか確認されず、その差は約3倍にもなったのです。

これは托卵鳥への対抗策として、「種を超えた協力」が重要になる地域ほど、似た声が広まりやすいことを示しています。

では実際、このワイニング音は鳥たちにどのような影響を与えているのでしょうか?

これを確かめるため、研究チームはオーストラリアで実験を行いました。

スーパーフェアリーレンとその近縁種の巣の近くに托卵鳥の模型を置き、反応を観察したところ、鳥たちはすぐさまワイニング音を出して攻撃的な行動を始めました。

さらに、この音を聞きつけた周囲の異種の鳥も次々と集まり、助っ人が急増しました。

例えばある種では、托卵鳥の模型に集まった他の種の鳥の数は、ヘビや無害な鳥の模型を置いた時に比べて約8倍も多くなったのです。

さらに研究チームは、録音したワイニング音をスピーカーから流す実験も行いました。

その結果、この音を聞いた場合には通常の警戒音よりも明らかに多くの鳥が集まりました。

特に鳥たちはスピーカーのすぐそばまで積極的に近づき、その反応は通常の警戒音とは質的に違う、より強い行動でした。

最も興味深い発見は、このワイニング音が、異なる種類の鳥同士でも問題なく通じるということでした。

研究チームがオーストラリアと中国でそれぞれの地域の鳥に、異なる地域の鳥が出したワイニング音を聞かせると、鳥たちは見知らぬ種のワイニング音にも同じように強く反応し、協力行動をとりました。

つまりワイニング音は「種を超えて通用する共通言語」として、鳥たちの間に深く浸透している可能性があるのです。

また北米では、普段この音を使わないキイロアメリカムシクイでも、アジア産のワイニング音に自分の警戒音と同じ程度に反応しました。

ただし対照との有意な差はなく、研究チームは解釈には慎重です。

それでも、この結果はワイニング音が鳥類間で広く共有される、本能的な反応を引き出す重要なシグナルである可能性を強く示唆しています。

こうした結果から、ワイニング音は単なる音ではなく、「托卵鳥という特定の敵を指し示す機能的な合図(シグナル)」であることが明らかになりました。

音の発信タイミングこそ仲間を見て学習しますが、その意味自体は種を超えて本能的に理解されるという、非常に珍しく興味深い二段階のコミュニケーションであることがわかったのです。

鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性

鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性
鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性 / Credit:Canva

この研究から見えてきたのは、鳥たちが種を超えて音による協力をしているという驚くべき実態です。

これまで多くの研究では、危険を知らせる警戒音はそれぞれの種が独自に発達させたものだと考えられてきました。

しかし、今回の発見はその常識を大きく揺さぶるものでした。

まったく異なる種類の鳥同士でも、共通の脅威に対して同じ音の合図を使い協力することができるという可能性が示されたのです。

それは、異なる国や言語を持つ人々が、一つの合図だけで危険を察知し、一緒に動けるようなものです。

こうした共通の音の進化には、自然界の生き物が持つ高いコミュニケーション能力や、生き残るための工夫が凝縮されています。

つまりこの現象は、動物同士の協力戦略という枠を超え、人間の言語のルーツを考えるうえでも大きなヒントになるのです。

かつてダーウィンは、人間の言葉は本能的な「悲鳴」や「叫び」などの声をもとに、やがて意味を持つ単語に発展したのではないかと考えました。

今回明らかになった鳥の「ワイニング音」も、まさにこの仮説に近い性質を持っています。

もともとは生まれつき出せる単なる鳴き声(本能シグナル)だったものを、鳥たちは成長の中で学習によって意味を与え、特定の状況で使うようにしているのです。

これは、人間の言語が生まれた仕組みに似た「本能」と「学習」が結びついた中間的なコミュニケーション方法といえます。

もちろん、この研究結果には注意が必要です。

今回は特定の鳥類(托卵鳥と宿主鳥)のみを調べているため、すべての鳥類や他の動物に同じ現象が当てはまるかどうかは今後さらに調べる必要があります。

また、北米での実験では明確な差が出ていない例もあり、鳥の種類や地域によってこの音があまり強く機能しない可能性もあります。

そのため研究者たちは、「世界的に共通した性質がある」とは断定せず、「世界的な傾向が見られる」と慎重に表現しています。

それでも今回の発見は、自然界で動物たちがどのように種を超えて協力するかを理解する手がかりであり、さらに人間の言語がどのように生まれ進化してきたかという謎に迫るヒントにもなります。

今後、鳥以外の動物でも同じような現象が見つかれば、私たちが思っている以上に生き物たちが巧妙なコミュニケーションを駆使して協力していることが明らかになるかもしれません。

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参考文献

Birds’ vocal warnings provide new insight into the origins of language
https://www.eurekalert.org/news-releases/1100354

元論文

Learned use of an innate sound-meaning association in birds
https://doi.org/10.1038/s41559-025-02855-9

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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