レストランで食事をする際、注文数に影響を与えるのはどのような要素があるでしょうか 。
空腹度合いはもちろんのこと、レストランの照明や内装、料理の盛り付け方などさまざまな要素が関係しているはずです。
ゲッティンゲン大学のティム・ドーリング(Tim Döring)氏らの研究によると、注文を取るスタッフの体型が客の注文数を変えているようです。
彼らは米国のカジュアルレストラン60店でスタッフと客のやり取りを記録し、分析しました。
結果、より細身のスタッフ(BMIが25以下) に注文を受けてもらった客と比較して、より体格の大きいスタッフ(BMIが25以上)に注文を受けてもらった客は、多くのデザートとアルコール飲料を注文したことが分かったのです。
この現象は、スタッフの体型を無意識に見て「この人もこれくらいだから、自分も少しぐらい多めに食べても大丈夫だろう」という安心感を得ることで生じていると考えられています。
研究の詳細は、学術誌「Environment and Behavior」にて2017年4月28日に掲載されました。
目次
- 1日に食べ物について決断する回数は何回?
- 知らず知らずのうちに注文をしている
1日に食べ物について決断する回数は何回?

皆さんは、1日に何回、食べ物に関する決断をしているかご存知でしょうか 。
朝起きて「朝食に何を食べるか」から始まり、ランチの選択、間食の有無、夕食のメニュー、そして「もう一口食べるか」といった小さな決断まで、私たちは驚くほど多くの食の選択を繰り返しています。
コーネル大学のブライアン・ワンシンク氏(Brian Wansink)らは、実際に1日にどれくらいの食べ物に関する決断をしているのかを調べました。
調査の結果、「1日にどれくらいの食べ物に関する決断をしているか」という大まかな問いに対しては、平均15回と回答したのに対し、典型的な1日について、「いつ」「何を」「どれくらい」「どこで」「誰と」食べるかといった詳細に尋ねると、その決断の合計は平均226.7回になったのです。
この結果からわかるのは、私たちが食事に関する決断を、無意識的に、そして驚くほど多く下しているという事実です。
このような無意識に行っている決断は、意識的に行った決断と比べて、レストランの照明やスーパーマーケットのBGM、パン屋の前の焼きたてのパンの香りなど環境に存在する要因に左右されやすいことが想定されます。
例えば、レストランに船乗りとボートの置物を配置することで、魚料理の注文比率を22.4%から41.8%に増加したことを示す研究などが良い例でしょう。
近年、新たに注文を取るスタッフのある特徴が、レストランの客の注文数を変えることが明らかになりました。
それはスタッフの体型です。
ゲッティンゲン大学のティム・ドーリング(Tim Döring)氏らの研究チームは、レストランのスタッフの体型(身長と体重)と客がどの食べ物と飲み物をどれくらい注文したのかを調べました。
調査では、米国を中心に60のレストランで、497組の食事客と店員のやり取りを記録しています。
彼らは、店員と注文客の容姿から身長と体重を推定し、BMIを算出しました。
知らず知らずのうちに注文をしている

分析の結果、高BMIのスタッフが注文を担当すると、客はデザートを約4倍多く注文し、アルコール飲料の注文数も約17.65%増えることが分かりました。
またデザートとアルコール飲料はスタッフのBMIの影響を受ける一方で、サラダやスープはスタッフのBMIによって変わらないことも確認されています。
もちろん注文客のBMIが高いとより料理と飲み物を注文をする傾向がありましたが、注文客のBMIが低い場合も高い場合も、スタッフのBMIが高いとよりデザートを注文をする傾向があったのです。
この現象は、スタッフの体型を無意識に見て「この人もこれくらいだから、自分も少しぐらい多めに食べても大丈夫だろう」という安心感を得ていることで生じている可能性が考えられます。
この現象は「モラル・ライセンシング効果(licensing effect)」と呼ばれています。
しかしスタッフを男女別でより詳しく見てみるとこの現象には違いがありました。
アルコール飲料については性別に関係なくスタッフのBMIが高いと注文数が増えましたが、料理の場合は女性のスタッフのBMIが高くても注文数は少なくなったのです。
なぜ女性のスタッフの場合にはモラル・ライセンシング効果が生じにくいのでしょうか。
それは社会的な理想の体型が関連していると考えられます。
一般的に、社会が女性に求める理想的な体型は、男性よりもスリムである傾向が強いです。
この無意識のバイアスが、客の心理に影響を与えている可能性があります。
それはスリムな女性スタッフを「健康的で規範的」だと無意識に認識する一方で、理想とされる体型から外れた女性スタッフを見ると、無意識のうちに「自分も食べすぎないようにしよう」という抑制的な心理が働くからだと考えられます。
しかしこの研究結果は、肥満の多いアメリカでの調査に基づいています。
そのため、同様の傾向が日本でも見られるかどうかは、一概には言えません。
例えば、ダイエットをしていて食べる量を決めている人にとっては、店員の体型が注文に影響を与えることは少ないでしょう。
しかし、前述した通り多くの人にとって食事の選択は、その場の雰囲気や他者の存在に無意識のうちに左右されるものです。
もし、あなたがお店で何かを注文する際に、いつもより少し多く頼んでしまうことがあるなら、それはもしかしたら、注文を取る店員の体型の影響かもしれません。
参考文献
Diners order more food and drink from larger waiters and waitresses
https://www.bps.org.uk/research-digest/diners-order-more-food-and-drink-larger-waiters-and-waitresses
元論文
The waiter’s weight: Does a server’s BMI relate to how much food diners order?
https://psycnet.apa.org/record/2017-00459-004
In good company. The effect of an eating companion’s appearance on food intake
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0195666314004450
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部