高齢化が進む現代社会で、多くの人が不安を抱く「アルツハイマー病」。
家族や友人の名前が思い出せなくなり、日常生活に支障が出るこの病気は、誰にとっても他人事ではありません。
しかし最近、米マス・ジェネラル・ブリガム(MGB)の大規模研究で、1日3000歩以上のウォーキングという身近な行動が、アルツハイマー病の進行やリスクを低減できる可能性が示されました。
研究の詳細は2025年11月3日付で科学雑誌『Nature Medicine』に掲載されています。
目次
- 1日3000歩の散歩で脳を守れる?
- なぜ「歩くこと」が脳を守るのか?
1日3000歩の散歩で脳を守れる?
アルツハイマー病は、加齢とともに発症リスクが高まる神経変性疾患であり、短期記憶や認知機能の低下を引き起こします。
世界で5000万人以上が影響を受けており、日本でも高齢者の大きな課題となっています。
しかし今回の研究は、「1日3000歩以上のウォーキング」というごく身近な運動が、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性を示しました。
この研究では、50~90歳の認知機能に問題のない296人を対象に、最大14年にわたる長期追跡調査が行われました。
参加者は毎年の認知機能テストを受け、脳内の「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるタンパク質の蓄積度もPET検査で測定されました。
さらにウェアラブル歩数計で日々の歩数が記録され、生活習慣と脳の変化の関連が詳細に解析されました。
その結果、1日3000歩以上歩く人では、座りがちの人に比べてアルツハイマー病の主要な原因となるタウたんぱく質の蓄積や、認知機能低下の進行が大きく抑えられることが明らかになったのです。
さらに5000歩から7000歩歩く人では、認知機能の低下が最大7年も遅れるという大きな効果が確認されました。
一方で、歩数がそれ以下の場合でも、まったく運動しない人に比べて明確な予防効果が見られた点が注目されます。
なぜ「歩くこと」が脳を守るのか?
なぜウォーキングがアルツハイマー病のリスク低減につながるのでしょうか。
そのメカニズムは完全には解明されていませんが、歩くことによる「血流改善」「炎症抑制」「ホルモンや成長因子の増加」など、複数の要因が関与していると考えられています。
また、脳内のアミロイドやタウの蓄積が進みやすい人ほど、運動による進行抑制効果が高いことも示唆されています。
つまり「今から始めても遅くない」「少しずつでも歩くことで脳の老化を食い止めるチャンスがある」ということです。
研究チームのワイ=イン・ヤウ博士は「日々の生活に小さな変化を加え、運動習慣を無理なく続けることが、認知機能を守る最も現実的で効果的な方法かもしれません」とコメントしています。
歩数を記録できるウェアラブル端末なども普及しているため、「今日は3000歩を目指して歩こう」と意識するだけで、大きな違いが生まれるかもしれません。
参考文献
Alzheimer’s Disease Could Be Slowed by Taking as Few as 5,000 Steps a Day
https://www.sciencealert.com/alzheimers-disease-could-be-slowed-by-taking-as-few-as-5000-steps-a-day
Walking 3,000 or more steps a day may slow progression of Alzheimer’s, study says
https://www.theguardian.com/society/2025/nov/03/walking-3000-steps-day-may-slow-progression-alzheimers
元論文
Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease
https://doi.org/10.1038/s41591-025-03955-6
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

