”やりたい”のに”なぜ行動できないのか”8つの原因

多くの人が「自分を変えたい」「新しいことを始めたい」と思いながら、なかなか実行に移せていません。

「やりたいことが分かっているのに、どうして自分は動けないんだろう?」

そんな疑問や悩みを感じたことがある人は多いはずです。

米スタンフォード大学(Stanford University)医学部に務めており、臨床心理士でもあるValerie Hoover博士は、いくつかの研究と数千人の臨床経験から、その原因を分析しています。

「やりたいのに行動できない」理由が分かるなら、それに対処することもできるはずです。

目次

  • 行動できない原因を正しく知る
  • 行動できない“心の壁”も説明できる

行動できない原因を正しく知る

ダイエットや運動、勉強、仕事の新しいタスクなど、「やらなきゃ」と思っているのに、つい先延ばしにしたり、三日坊主で終わったりする。

これは多くの人が経験しています。

Hoover博士によれば、「行動できない原因」は複数あります。そのいくつかを見てみましょう。

1. フリーズ反応――「やろう」と思っても体が動かなくなる

ストレスやプレッシャーがかかったとき、私たちの体は「戦う」や「逃げる」といった反応だけでなく、「フリーズ(凍りつき)反応」と呼ばれる現象を起こすことがあります。

前者が交感神経系が過剰に活性化することが原因であるのに対し、後者は副交感神経が過剰に活性化することが原因です。

このフリーズ反応は緊張で体が固まって動けなくなったり、言葉が出なくなったりするもので、フリーズする状態です。

たとえば、発表の直前に声が出なくなったり、大事な仕事を前に何も手につかなくなってしまうケースが挙げられます。

これらはすべて「体と脳が自動的にブレーキをかけている」現象なのです。

意思が弱いせいではありません。

2. 助けを求められない・適切なサポートが得られていない

何か新しいことに挑戦するとき、「誰かに助けを求めるのはダメなこと」と感じていませんか?

博士は「建物を高く作るには足場が必要」という例えを使い、「周りのサポートは成功に不可欠」だと強調しています。

また、誰かに頼ること自体は素晴らしいですが、「どんなサポートが必要か」をはっきりさせ、それに合った人にお願いすることも大切です。

サポートには次のような種類があります。

  • 具体的な作業の手助け
    例:荷物を運んでもらう、資料作りを手伝ってもらう
  • 共感や励まし
    例:話を聞いてもらう、励ましの言葉をかけてもらう
  • 専門的な知識や経験の共有
    例:詳しい人からアドバイスをもらう
  • 問題の分析や解決策の提示
    例:一緒に計画を立ててもらう

この例が示すように、課題を抱えて困っているとき、同僚や友人に手伝ってもらうことで行動に移しやすくなります。

逆に、「話を聞いてほしいだけ」のときに「すぐ解決策を出す人」に頼むと、モヤモヤが残ることもあります。

自分にとって本当に必要なサポートを明確にして、それに合った人に頼みましょう。

助けを借りることは、決して弱さではありません。

3. 意志力は“有限な資源”

「もっと頑張らなきゃ」と意志の力だけで乗り切ろうとすると、途中で力尽きてしまうことがあります。

博士は「意志力は脳の“やる気スイッチ”に関わる物質(ドーパミンなど)によって増減する、有限な資源」だと説明しています。

たくさんのことを同時に頑張りすぎると、「やる気の残高」が足りなくなり、どれも続かなくなるのです。

無理をせず、時には休んだり気分転換を挟んだりして、意志力を回復させることも大切です。

4. 最初のハードルが高すぎて挫折する――「不快ゾーン」を乗り越えるコツ

新しいことを始めると、最初は「できない」「うまくいかない」と感じる時期が必ずあります。

例えば「ギターの練習を始めたばかりの人が、指が思い通りに動かず音がぐちゃぐちゃになる」「英語を勉強し始めても全然聞き取れず、やる気がなくなる」などです。

こうした「不快な時間」が続くと、ほとんどの人は諦めてしまいます。

でも、上達するにはこの「下手な時期」を乗り越えることが必要です。

「最初はつらくて当たり前」「少しずつ成長することを楽しもう」と自分に言い聞かせるのがポイントです。

行動できない“心の壁”も説明できる

ここからは、心の持ち方や感じ方が影響する「行動できない理由」の4つを紹介します。

5. 感情にコントロールされてしまう

「今日は甘い物を食べない!」と決めていたのに、嫌なことがあった日にはついアイスを食べてしまう経験がありませんか?

実は、強いストレスや不安、怒りなどを感じると、脳の「考える部分(前頭前野)」が働きにくくなり、「感情を司る部分(大脳辺縁系)」に主導権が移ってしまいます。

だから気分が落ち込んだりイライラしたときは、理性より感情が優先されてしまい、計画通りの行動ができなくなるのです。

「今自分がどんな気持ちか」「何に反応しているのか」を意識して振り返ることで、気持ちをコントロールしやすくなります。

6. 変わりたいのに変わりたくない――「アンビバレンス(二重感情)」

「転職してもっと自由に働きたい」と思いながら、「新しい環境が怖い」「失敗したらどうしよう」と迷ってしまう。

このように、「やりたい気持ち」と「ためらう気持ち」が同時にある状態は誰にでも起きます。

これを心理学では「アンビバレンス(二重感情)」と呼びます。

やりたい気持ちもためらう気持ちも、どちらも自然なものです。

行動できない自分を責めず、「今の自分はどちらを大事にしているのか?」と素直に向き合うことが大切です。

7. 「~すべき」に縛られている

「親や先生、会社、世間が“こうすべき”だと言うから頑張る」という状況は、多くの人に当てはまります。

でも「本当にやりたいこと」ではなく「やるべきこと」に追われていると、だんだん続かなくなったり、苦しくなったりします。

そもそも「やりたい」けど「できない」のは、本当に「自分がやりたいと思っていること」でしょうか。

「これは自分の本心なのか?」「他人の価値観に流されていないか?」を見直してみることが、無理なく行動を続ける第一歩です。

8. 心の不調・メンタルヘルスの問題――うつなどが隠れていないか

「やる気が出ない」「何をしても楽しめない」「どうしても動けない」という状態が続くとき、単なるなまけや性格の問題と思い込んでいませんか?

博士は「うつ病などの心の病気が隠れている場合は少なくない」と指摘しています。

うつの主な症状には「気分が落ち込む」「何をしても楽しめない」「集中できない」などがあり、これらは意思の問題ではなく、脳の働きが変化しているサインです。

また、不安障害やパニック障害、強迫性障害など他のメンタルヘルスの問題も、行動を大きく妨げることがあります。

「自分は怠け者だ」「努力が足りない」と責めすぎず、「もしかしたら心の健康に理由があるかもしれない」と一度立ち止まってみることも大切です。

必要なら専門家に相談するのも有効な一歩です。

このように、「やりたいのに動けない」理由は、“根性不足”や“性格の弱さ”ではなく、科学で説明できる脳や心の仕組み、そして環境や価値観の影響にあるかもしれません。

自分を責めず、まずは「なぜ動けないのか?」を知ることから始めましょう。

全ての画像を見る

参考文献

“I Know What I Want to Do: Why Can’t I Do It?”
https://www.psychologytoday.com/us/blog/awakening-motivation-for-change/202510/i-know-what-i-want-to-do-why-cant-i-do-it

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました