昔は「子供は欲しくない」と言うたびに、まわりから驚いた顔をされたり、「そのうち気が変わるよ」と言われることがよくありました。
けれど今、子どもを持たない人生を自分で選ぶ人が増えています。
心理療法士ケイティ・ギリス氏(Kaytee Gillis, LCSW)は、なぜ現代の大人たちが「子どもを持たない」選択をするのか、その理由を社会や心理の面から解説しています。
目次
- 変わる社会の価値観と「心の健康」に対する見方
- 経済的な理由と「子どもがいない人生」への肯定感
変わる社会の価値観と「心の健康」に対する見方
近年、子どもを持たないことを選ぶ人が増えています。
かつては「結婚して子どもを持つのが当たり前」という雰囲気が強く、特に女性には「母親になるべき」と期待されていました。
しかし今は、「結婚しない」「子どもは持たない」という生き方も普通になり、まわりからの目も以前ほど気にならなくなっています。
この変化の背景には、社会の価値観の変化があります。
昔と違い、「親になることだけが幸せではない」と考える人が増えています。
たとえば「仕事や趣味、旅行など自分のやりたいことを大切にしたい」「自分で自分の生き方を決めたい」と考える傾向が強まっています。
実際にアメリカの調査でも、子どもを持たない人の多くが「ただ欲しくなかったから」と答えており、自分らしい人生を選ぶことが大切にされています。
また、ジェンダー観の変化も見逃せません。
「女性は母親になるもの」という昔の考え方は弱まり、子どもを持たないという選択も、男女ともに同じくらい身近なものになってきました。
さらに、心の健康や過去の家庭経験も大きな理由の1つになっています。
「まだ自分の心は十分に安定していない」と感じたり、「昔の家庭環境でつらい思いをしたから、自分は子どもを持たない」と考えるたりする人は少なくありません。
社会全体で「心のケア」や「トラウマ」について語られる機会が増え、自分自身を大切にする風潮が広がってきました。
最近の研究では「親になるかどうかと、人生の満足度や幸せに大きな差はない」という結果も出ています。
つまり、親にならなくても自分らしく幸せを感じることができる時代になってきたのです。
経済的な理由と「子どもがいない人生」への肯定感
子どもを持たない理由には、経済的な現実も大きく影響しています。
現代は家賃や住宅ローン、教育費、保育費、医療費など、子育てにかかるお金がどんどん増えています。
当然ながら、「自分の生活や将来のための貯金で精一杯」「子どもを育てる余裕がない」と感じる人も多くなっています。
彼らにとっては、「子どもは持たないほうが経済的に安心」なのです。
実際、アメリカのピュー・リサーチ・センターの2024年の調査でも「子どもがいないことで、好きな物を変えたり、趣味や自分の時間を楽しんだりできる。将来のためにも貯蓄しやすい」と感じる人が増えていることが分かっています。
さらに近年は、「必要な医療や制度が整っていないなら、子どもは持たない」という考え方も人々に浸透しているようです。
加えて、メディアを通して「子どもがいない人生」もポジティブに捉えられる社会的な雰囲気が広がっています。
以前はドラマや映画で「家族=子どもがいて幸せ」という描かれ方が多かったのですが、今では『フレンズ』や『セックス・アンド・ザ・シティ』など、子どもがいなくても自分らしい人生を楽しむ大人たちが自然に描かれるようになりました。
SNSでも、さまざまな「子どもを持たない大人」が自分の生活を発信し、ロールモデルとなっています。
子どもを持つかどうかは、今や誰もが自分で選べる時代です。
どちらを選んでも、自分らしい幸せや充実感を見つけることができます。
もしあなたが今「本当に子どもが必要なのか」と迷っているなら、それは自分の人生を自分で選ぶ自由があるからこその悩みなのかもしれません。
参考文献
Why Are More Adults Choosing to Remain Child-Free?
https://www.psychologytoday.com/us/blog/invisible-bruises/202507/why-are-more-adults-choosing-to-remain-child-free
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部