ストレスを感じたときに「お腹が痛くなる」現象は、多くの人が日常的に経験しています。
ストレスがどのように腸に影響を及ぼし、痛みを引き起こすのか。
そのメカニズムの一端が、兵庫医科大学の最新研究により明らかになりました。
研究の詳細は2025年10月7日付で科学雑誌『Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology』に掲載されています。
目次
- ストレスが腸を攻撃する仕組みとは?
- ストレス対策が“お腹の健康”につながる時代へ
ストレスが腸を攻撃する仕組みとは?
私たちの腸は、日々さまざまな刺激やストレスにさらされています。
特に「過敏性腸症候群(IBS)」は、世界人口の約15%が悩んでいるとされる疾患で、強い腹痛や下痢・便秘などの症状を繰り返すのが特徴です。
しかし、これまでストレスと腸の痛みをつなぐ“直接的な回路”は長らく謎に包まれていました。
今回、兵庫医科大学の研究チームは、「幼少期に強いストレスを受けた動物モデル」を使い、ストレスが腸に及ぼす影響を詳細に調べました。
その結果、ストレスを受けると「交感神経」(緊張やストレス時に活発になる自律神経の一種)が活性化し、腸の粘膜に「好酸球」と呼ばれる免疫細胞が集まることが分かったのです。
好酸球は本来、寄生虫などに対抗するために働く免疫細胞ですが、腸に過剰に集まると“軽度の炎症”を引き起こし、神経を刺激します。
この炎症と神経刺激の結果、腸の「痛み」や「不快感」が引き起こされるのです。
さらに研究では、「エオタキシン-1」という化学物質が重要な役割を担っていることも突き止めました。
ストレスによって交感神経が活性化されると、腸の間葉系細胞からエオタキシン-1が分泌され、それが好酸球を呼び寄せる“招待状”となります。
こうして腸の中で免疫細胞が集まり、炎症が進み、痛みや不快感が増してしまうという“悪循環”が生まれるのです。
ストレス対策が“お腹の健康”につながる時代へ
これまで過敏性腸症候群(IBS)の発症や悪化にストレスが関係していることは経験的に知られていましたが、その分子レベルの「因果関係」が明らかになったのは画期的です。
また、交感神経の活動を薬剤などで抑えると好酸球の集まりが減り、痛みも緩和することが動物実験で示されました。
加えて、IBS患者の大腸組織を調べたところ、同じようにエオタキシン-1の増加が確認されています。
つまり、人間でも同様の仕組みが働いている可能性が高いということです。
この発見は、今後の治療法開発にもつながる重要な一歩です。
交感神経やエオタキシン-1の働きをコントロールすることで、ストレスによる腸の痛みや不快感を和らげる新しい治療薬やアプローチが生まれるかもしれません。
今後は「なぜ間葉系細胞が交感神経の刺激に反応し、どのように炎症を引き起こすのか」といった詳細な分子メカニズムの解明も進められる予定です。
参考文献
ストレスが腸の痛みを悪化させる仕組みを解明 ―交感神経の過剰な働きが好酸球を集め、内臓痛を引き起こすー(PDF)
https://www.hyo-med.ac.jp/files/20251027/807f0957fc29d977ad9aecb53b15cceda9ef8638.pdf
元論文
Sympathetic Overactivation Drives Colonic Eosinophil Infiltration Linked to Visceral Hypersensitivity in Irritable Bowel Syndrome
https://doi.org/10.1016/j.jcmgh.2025.101658
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
 
  
  
  
  