浮気歴がある、ドラッグを使用している、暴言を吐く、などなど。
私たちは、「この人と付き合えるか」と考える時、「どんなに他が良くても、これがあるとダメ」という交際をためらわせる決定的な欠点が自然と浮かび上がってくるものです。
しかし、今回アメリカのフロリダ州立大学(FSU)の研究チームが示した結果は、こうした“絶対に無理”と思っていたポイントが、ちょっとした心理的な条件で揺らいでしまう可能性があるというものでした。
鍵となっていたのは、「この先しばらくシングルのままだったらどうしよう」というイメージでした。
この研究成果は、2025年9月8日付の『Personal Relationships』に掲載されています。
目次
- 独身期間を想像すると「相手の決定的な欠点」を容認する
- 「独身は望ましくない」という考えの影響を受けると、”交際の基準”を妥協する
独身期間を想像すると「相手の決定的な欠点」を容認する
恋人選びには、人それぞれ「この条件だけはどうしても譲れない」という基準があります。
相手がどれだけ魅力的に見えても、「ここに問題があるなら付き合えない」と判断しているのです。
ところが、実際の恋愛行動では、こうした“譲れないライン”がそのまま維持されるとは限らず、理屈では明確だったはずの基準が、現実の場面で揺らぐこともあります。
研究チームは、このギャップの背景にどのような心理メカニズムが働いているのかに注目しました。
特に、「この人を断ったらしばらく誰とも付き合えない」という未来の見通しが、人の判断基準をどれほど変えてしまうのかを調べようとしました。
さらに、人が独身をどの程度ネガティブに捉えているかという“独身スティグマ”も測定し、判断にどんな影響をもたらすのかを明らかにしようとしました。
研究の第一段階として、研究者たちは408人のシングルの成人を対象にパイロット調査を実施し、46個の欠点について「どの程度交際相手として許容できないか」を評価してもらいました。
この分析から、多くの参加者が頻繁に選び、また強く拒絶した25個の欠点が抽出され、これらが本実験で用いる「交際をためらわせる決定的な欠点」のリストとなります。
例えば、ドラッグ使用、浮気歴、ポリアモリー(複数恋愛)嗜好など、参加者が「この特徴があるなら交際は難しい」と判断した項目が含まれていました。
続く本実験には452人のシングルの成人が参加し、まず参加者は25個の欠点の中から自分にとって最も重大な1つを選びました。
そのうえで、外見的には魅力的だが、その欠点をもつ相手からアプローチされるという状況を想像してもらいました。
その後、研究チームは、参加者をランダムに3つのグループに分け、それぞれに異なる未来の条件を提示。
1つ目のグループには「この人を断ると今後3年間はシングルが続く」と想像させ、2つ目のグループにはそれを「10年間」に設定し、3つ目の統制群には未来について特別な情報を与えませんでした。
そのうえで参加者は、相手とコーヒーに行く、軽いデートをする、カジュジュアルな関係になる、キスをする、真剣な交際を検討するなど、複数の行動についてどれだけ応じる可能性があるかを評価しました。
さらに、参加者が独身をどれほどネガティブに捉えているかを測る独身スティグマ尺度にも回答しています。
こうした調査の結果、3年シングル群と10年シングル群は、どちらも統制群より相手を受け入れやすい傾向を示し、決定的な欠点を持つ相手に対するハードルが下がると分かりました。
一方で、3年群と10年群の間で大きな差は見られませんでした。
では、どうしてこのような結果になるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
「独身は望ましくない」という考えの影響を受けると、”交際の基準”を妥協する
調査結果でまず注目すべきは、3年シングル群と10年シングル群でほとんど差が見られなかった点です。
この結果は「期間の長さ」が判断の決め手ではなく、「一定期間はシングルが続くと確定している」というイメージそのものが、人の基準を下げる要因として働いていることを示しています。
研究チームは、3年という期間自体がすでに多くの人にとって十分長く、その時点で「シングルでいる未来への不安」が強く刺激されたため、10年に延びても心理的な差が生じなかった可能性を指摘しています。
一方、未来について何も提示されなかった統制群との比較では、明確な違いが見られました。
統制群は、選んだ欠点をしっかり理由にして「交際は難しい」と判断していました。
一方で、3年群・10年群では、コーヒーや軽いデート、さらに真剣な交際に至るまで、多くの場面で「受け入れても良い」と回答するケースが増えていました。
つまり、未来の独身期間を想像させられただけで、人は“譲れないはずの条件”に対して柔軟になりやすくなるのです。
さらに、独身スティグマの影響も重要でした。
独身を「望ましくない状態」と考えている度合いが高い人ほど、本来なら拒絶していたはずの欠点を受け入れやすく、より深い関係性に踏み込む可能性も高くなっていました。
今回の研究は、恋愛の判断基準が「相手の特徴」だけで決まるわけではなく、「未来への不安」や「社会的な価値観の影響」を受けて変動することを示しています。
特に、自分がどれほど独身に対してネガティブな感情を内面化しているかが、判断を左右する重要な鍵になっているといえます。
一方で、この研究にはいくつかの限界が存在します。
今回の実験は仮想シナリオを用いており、実際の恋愛行動とは異なる可能性があります。
また、人は現実に「3年間シングル確定」などという確実な未来を知ることはできないことも考慮すべきです。
今後の研究では、より現実に近い状況を模した実験や、未来の不確実さを考慮した条件設定、さらに文化的背景の違いを考慮した調査が求められると考えられます。
こうした研究が進むことで、人が恋愛における基準をどのように形成し、どのような要因で変化させているのかが、さらに詳しく理解されていくでしょう。
参考文献
Singlehood stigma and the fear of being alone linked to more flexible dating standards
https://www.psypost.org/singlehood-stigma-and-the-fear-of-being-alone-linked-to-more-flexible-dating-standards/
元論文
Long Stretch of Singlehood Ahead? Unpacking the Roles of Anticipated Singlehood Duration and Singlehood Stigma in Lowering Dating Standards
https://doi.org/10.1111/pere.70026
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

