砂漠に暮らすトカゲ「チャクワラ」は、鼻から“塩”をくしゃみのように勢いよく噴き出す習性があります。
飼育している博物館スタッフを悩ませるこの「鼻水」は、じつは体調不良のサインではなく、チャクワラが砂漠で生き残るために身につけた特別な「体の知恵」でした。
なぜチャクワラは、くしゃみのたびに塩を出す必要があるのでしょうか?
目次
- 「塩まみれの食生活」が生み出す砂漠のジレンマ
- くしゃみで「塩」を出して脱水を防ぐ
「塩まみれの食生活」が生み出す砂漠のジレンマ

チャクワラ(学名:Sauromalus)は、アメリカ南西部やメキシコ北部の乾燥した砂漠地帯に生息する大型トカゲです。
体長は最大で約60cmに達し、岩場や乾いた谷間を拠点に、過酷な高温環境でたくましく生きています。
砂漠に生きる多くの動物たちは、水分を得ることが最大の課題です。
ところが、チャクワラの主な食事は塩分の多いサボテンや多肉植物などの「しょっぱい植物」。
しかも、水を直接飲むことはほとんどありません。
体内の水分は、ほぼすべてを食物に頼って補給しているのです。
ここで問題になるのが「塩分の過剰摂取」です。
植物から摂取するミネラル成分は体に必要不可欠ですが、取りすぎると今度は体内の塩分濃度が上がり、逆に体の水分を失ってしまいます(いわゆる脱水症状)。
実はこの状態こそが、砂漠で命取りとなるリスクなのです。
くしゃみで「塩」を出して脱水を防ぐ
では、どうやってチャクワラは塩分を「排出」しているのでしょうか?
彼らは進化の過程で、鼻の奥に特殊な腺を発達させました。
この腺は、体内の余分な塩分(主にカリウムやナトリウム)を血液から濾し取り、「高濃度の塩水」として鼻へ送り出します。
そして、一定量たまると、まるでくしゃみのように「ハクション!」と勢いよく鼻から噴き出すのです。
このとき排出される「鼻水」は、乾燥すると白い塩の結晶となり、チャクワラの鼻の周りに粉をふいたような跡を残します。
海外では、この“塩まじりの鼻水”を「スナルト(snalt)」(鼻水を意味するsnotと塩を意味するsaltを合わせた造語)と呼ぶこともあるそうです。
この仕組みのおかげで、チャクワラは体に危険なほど塩分が蓄積するのを防ぎ、体内の水分を保つことができます。
さらに、チャクワラは暑さにも強く、デスバレーのような気温49℃にも達する極限環境でも日中に活発に活動します。
天敵に襲われた際は、肺の空気を抜いて体をぺしゃんこにし、岩の隙間に身を潜めるという特殊な防御行動も知られています。
極限環境への適応が、彼らを「砂漠の生存マスター」に押し上げているのです。
チャクワラがくしゃみのようにして鼻から塩を排出するのは、決して気まぐれな行動ではありません。
過酷な砂漠という舞台で「脱水死」という最大のリスクを回避するため、進化が生み出した“命を守る仕組み”だったのです。
参考文献
These Desert Lizards Have to Sneeze Salt to Stay Alive
https://www.sciencealert.com/these-desert-lizards-have-to-sneeze-salt-to-stay-alive
Salt Sneezing Lizards
https://answersingenesis.org/reptiles/salt-sneezing-lizards/?srsltid=AfmBOopq7Sbddro71g7UfrQIGVVbTbuoHDgCur7zhFGoXrEwMki7EM9s
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部