地球にはこれまで、想像を超えた生き物が数多く登場してきました。
その中でも、現代の私たちが最も驚かされるのは「ありえない」姿をした古生物の存在です。
その古生物の化石は2006年、中国・遼寧省で発見されました。
なんと、それは1億2500万年前の地層から見つかった「頭が2つ」あるトカゲのような爬虫類だったのです。
通常の個体でも全身が化石として残るのは珍しいのに、双頭の個体が化石化するのは前代未聞のことでした。
この発見の報告は2006年12月に科学雑誌『Biology Letters』に掲載されています。
目次
- 超レア現象「バイセファリズム」の化石化
- なぜこんな個体が誕生し、化石として残ったのか?
超レア現象「バイセファリズム」の化石化
今回見つかった双頭の化石は、学術的には「バイセファリズム(bicephalism)」という、いわゆる“多頭性”の一例です。
バイセファリズムは、発生段階で胚の体軸が分かれてしまうことで、1匹の個体に2つの頭や首が生じる現象とされています。
現代でも、ごく稀に双頭のヘビやカメ、トカゲなどが生まれることが報告されていますが、ほとんどの場合、通常個体ほど長く生き残ることはできません。
しかし、化石記録において「双頭」の生物が見つかることは、さらに稀な奇跡です。
【実際の化石の画像がこちら】
そもそも化石になるには「ちょうどいい条件下で死ぬ」ことが求められ、保存状態も厳しく選ばれます。
例えば、死んだ直後に泥の中に飲み込まれて、低酸素状態に置かれ、微生物などによって分解されないことなど。
そのため、通常の姿ですら化石化は難しいのに、“発生異常”を持った個体が化石となり、現代まで残る確率は天文学的に低いといえるかもしれません。
論文では、この化石は「コリストデラ目(Choristodera)」と呼ばれる古代爬虫類の仲間の幼体で、肩のあたり(肩帯)で体軸が2つに分かれ、それぞれに首と頭がついていたことが詳細に記載されています。
胚か新生児段階の極めて小さい個体(体長7cmほど)だったため、大人になる前に命を落としたと考えられています。
化石は薄い堆積物に包まれ、骨の配置や堆積物の付き方から「人為的な改変や捏造」ではないことも慎重に検証されました。
なぜこんな個体が誕生し、化石として残ったのか?
「双頭トカゲ」はなぜ生まれたのでしょうか?
現生動物の例からも、遺伝的な異常や発生時の偶発的なトラブルが重なることで、ごく稀に体軸の一部が分岐し、2つの頭や首が生じることが知られています。
しかし、化石からは発生時の詳細な環境や遺伝的な背景を特定することはできません。
また、今回発見された個体は非常に未熟な段階で化石化したため、成長後にどうなったのか、どれほどの期間生きていたのかはわかっていません。
ただ一つ確かなのは、この個体が生きていた当時の遼寧省は、火山灰や湖沼に覆われた特殊な環境で、生物の死骸が急速に埋もれて保存されやすい“化石ホットスポット”だったということです。
羽毛のある恐竜や古代の魚類など、世界的にも保存状態が抜群な化石が数多く発掘されている場所です。
今回の双頭トカゲも、偶然にもその保存に最適な環境にいたことで、1億年以上の時を越えて姿を残したのです。
著者らは、この化石が「世界最古のバイセファリズムを示す証拠」として極めて価値が高いと評価しています。
通常の生態だけでなく、こうした異常個体も古生物学的な記録として残ることが、生命の多様性や発生の不思議を物語っているのです。
参考文献
Check Out This “Truly Exceptional” Fossil Of A Two-Headed Reptile That Lived 125 Million Years Ago
https://www.iflscience.com/check-out-this-truly-exceptional-fossil-of-a-two-headed-reptile-that-lived-125-million-years-ago-81076
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部