【閲覧注意】永久凍土のミイラは「最古の飼い犬」ではなく「1万4000年前の絶滅オオカミ」だった

DNA

古くからイヌは、私たち人間の大切なパートナーとして活躍してきました。
けれども、そもそも「いつ」からイヌは人間に飼われるようになったのでしょうか?

これは動物考古学における長年の謎のひとつです。

そんな中、シベリアの永久凍土から発見された2体の「子犬のミイラ」が、過去10年以上にわたり「世界最古の家畜犬かもしれない」と注目されてきました。

しかし、最新の研究によりこの仮説は覆ります。

英ヨーク大学(University of York)を中心とする国際研究チームが、この2体の子犬のミイラを分析し、その正体が「犬」ではなく、家畜化される前に絶滅した古代のオオカミの姉妹であることを突き止めたのです。

この研究成果は、2025年6月12日付の『Quaternary Research』誌に掲載されました。

※本文にはミイラの画像があります。苦手な方はご注意ください。

目次

  • 永久凍土に眠っていた「黒毛の“子犬”」をめぐる10年越しの謎
  • 1万4000年前のミイラは「オオカミ」の姉妹だった!家畜化した初期のイヌではなかった

永久凍土に眠っていた「黒毛の“子犬”」をめぐる10年越しの謎

2011年、シベリアのトゥマット村近郊で、象牙ハンターが永久凍土からよく保存された動物のミイラを発見しました。

その姿はまるで眠っているようで、皮膚や毛、歯、さらには胃の内容物までが残っていました。

その4年後、同じ場所からもう1体のミイラが見つかりました。

2頭とも非常によく似た「黒い毛の子犬」のような外見を持っていたことから、科学者たちはこれらを「トゥマト・パピー」と呼ぶようになります。

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永久凍土から発見された「子犬らしき」ミイラ / Credit:University of York

重要なのは、この2体の発見場所の近くに「人間が加工した痕跡のあるマンモスの骨」があったことです。

このことから、「家畜化された初期の犬ではないか」「これらの子犬は人間とともに暮らしていたのではないか」と推測されてきました。

しかし、外見が犬に似ているからといって、それが家畜化の証拠とは限りません。

そこで今回、ヨーク大学を中心とした研究チームは、このミイラを「包括的かつ多角的」に調べ直すことにしました。

まず、骨のサイズや形状を詳細に測定することで、現代のイヌやオオカミと比較しました。

また胃の内容物を分析し、彼らが何を食べていたかも調べました。

さらに遺伝子解析により、「トゥマト・パピー」が遺伝的に現代のイヌと近い存在なのかも確認されました。

1万4000年前のミイラは「オオカミ」の姉妹だった!家畜化した初期のイヌではなかった

綿密な調査の結果、最初に明らかになったのは、2体のミイラが遺伝的に姉妹であるということです。

年齢はともに生後2か月ほどで、骨の成長具合や胃の中に母乳の痕跡が残っていることからも、まだ離乳の途中だったと考えられます。

次に重要だったのは、DNA解析の結果、この姉妹が現代のイヌとは別系統にあたる、絶滅したオオカミの一種であることが判明したことです。

つまり、外見こそ「子犬」のようでも、彼女たちは「オオカミ」であり、家畜化された犬ではなかったのです。

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ケブカサイのイメージ/ Credit:Wikipedia Commons

さらに驚きの発見が、胃の中から検出されました。

なんと、絶滅したケブカサイ(学名:Coelodonta antiquitatis)の皮膚の一部が未消化の状態で見つかったのです。

成獣であれば現代のオオカミでも歯が立たないような大型動物ですが、幼獣だった可能性が高く、親オオカミが群れで仕留め、子どもに与えたものと考えられています。

それでも、幼いケブカサイでさえ現代のオオカミが狩る獲物としては規格外に大きい存在です。

そのため、この時代のオオカミは現代のオオカミよりも一回り大きく、強力だった可能性を示唆しています。

また、胃の中からはケブカサイの肉だけでなく、多様な食物が確認されました。

このことは、当時のオオカミが肉食に偏らず、雑食傾向のある生き方をしていたことを示しています。

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彼女たちは「イヌ」ではなく「オオカミ」だった / Credit:University of York

では、「人間との関係」はどうだったのでしょうか?

研究者たちは、胃の内容物にマンモスの痕跡がなく、周囲にも人間由来の道具や接触の明確な証拠が確認されなかったことから、「2頭が人間に飼われていたという確かな根拠は見つからなかった」と結論づけています。

1万4000年前、おそらく彼女たちは、巣穴の中で食事を終え、休んでいたのでしょう。

そして何らかの地滑りや土砂崩れにより生き埋めとなり、永久凍土に包まれて奇跡的な保存状態で現代まで残されたのです。

この発見は、単に「トゥマト・パピーは飼い犬ではなかった」ことを示すにとどまりません。

これまでイヌの特徴と思われていた「黒い毛」も、実はオオカミに存在していた可能性があることがわかったのです。

つまり、黒毛=犬化のサインという古くからの仮説も再考を迫られています。

イヌの起源をめぐる物語は、より複雑で、より深いミステリーになりつつあるのです。

それでもいつか、人類とイヌが出会った瞬間が明らかになる日が来ると、私たちは信じています。

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参考文献

Famous Ice Age ‘puppies’ likely wolf cubs and not dogs, study shows
https://www.york.ac.uk/news-and-events/news/2025/research/ice-age-puppies-likely-wolf-cubs/

Famous Ice Age ‘puppies’ likely wolf cubs and not dogs, study shows(EurekAlert)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1086950

元論文

Multifaceted analysis reveals diet and kinship of Late Pleistocene ‘Tumat Puppies’
https://doi.org/10.1017/qua.2025.10

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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