私たちは日常のなかで、知らず知らずのうちに“微小な異物”を吸い込んでいる可能性があります。
その正体は、目には見えないほど小さなマイクロプラスチック粒子です。
仏トゥールーズ大学(Université de Toulouse)の最新研究によって、私たちは1日に約7万個ものマイクロプラスチック粒子を呼吸とともに体内に取り込んでいる可能性が示されました。
研究の詳細は2025年7月30日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- 空気に漂う見えない“プラスチック粉塵”
- 1日約7万個を吸い込むという現実
空気に漂う見えない“プラスチック粉塵”

研究者らは今回、家庭の室内や車の車内において空気中のマイクロプラスチックを採取し、その成分と量を精密に分析しました。
用いられたのは「ラマン分光法」という高精度の計測技術で、直径1マイクロメートル(1µm)までの超微細な粒子を識別できるのが特徴です。
測定の結果、住宅の室内空気1立方メートルには平均で528個、車内には2,238個ものマイクロプラスチックが漂っていることが判明しました。
さらに分析された粒子の94%は直径10µm(マイクロメートル)未満。
これは肺の末端まで到達可能な“吸入性粒子”のサイズであり、健康被害のリスクが強く懸念されるサイズ帯です。
また、住宅ではプラスチック包装などに多く使われる「ポリエチレン(PE)」が最も多く検出され、車内ではナイロン(ポリアミド)が最多でした。
これは家庭用品や衣類、車内のシートや内装など、私たちの身の回りの人工物が空気中に微粒子として散っていることを示しています。
1日約7万個を吸い込むという現実
この調査結果をもとに研究チームは、人間が日常生活の中でどれほどのマイクロプラスチックを吸い込んでいるのかを推定しました。
成人の場合、1日に吸入する空気の量は平均16立方メートル。これに空気中の粒子濃度を掛け合わせると――なんと約68,000個のマイクロプラスチックを吸い込んでいるというのです。
しかもこの数値は、従来の推定値(10〜20µm以上の粒子しか計測できなかった)よりも100倍以上高いという点も衝撃的です。
では、体に入ったマイクロプラスチックはどこへ行くのでしょうか?
直径10µm以上の粒子は、気道の粘液にからめ取られ、最終的に飲み込まれるか咳とともに体外に排出されると考えられています。
一方、10µm未満の超微細粒子は肺胞まで到達し、場合によっては血中に入り込み全身をめぐる可能性もあります。
それらの粒子は単なる“異物”ではなく、内分泌かく乱物質や有害な重金属を含むこともあるため、慢性的な炎症、免疫異常、がんリスクの増加など、さまざまな健康被害との関連が指摘されています。
ただこの点に関しては科学的な実証データはまだなく、健康にどのような悪影響を及ぼしているかどうかは定かでありません。

今回の研究によって明らかになったのは、私たちが“無意識のうちに”マイクロプラスチックを大量に取り込んでいるという厳然たる事実です。
そしてこれは一部の特殊な環境ではなく、ごく日常的な空間――自宅や通勤の車内――で起きていることなのです。
将来的には空気清浄機や換気のあり方、内装素材の選び方にまで、マイクロプラスチック対策が求められる時代がやってくるかもしれません。
参考文献
Study Reveals The Shocking Amount of Plastic We Breathe in Every Day
https://www.sciencealert.com/study-reveals-the-shocking-amount-of-plastic-we-breathe-in-every-day
元論文
Human exposure to PM10 microplastics in indoor air
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0328011
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部