「自分の知識や考えが間違っているかもしれない」と考えられる人は、どれだけいるでしょうか?
当然のようで難しいこの態度は、「知的謙虚さ」(Intellectual humility) と呼ばれています。
じつは最近の研究で、この知的謙虚さが人間関係にも大きな影響を与えていることが明らかになりました。
特にカップルでは長時間を共に過ごすため、意見が食い違ったり、そこから言い争いに発展したりすることが少なくありません。
しかし知的謙虚さを持っている人は、こうした難しい時でも、良好な関係を作ことができます。
研究を実施したのは、アメリカのイーロン大学(Elon University)の研究チームです。
詳細は、2025年3月27日付の『Journal of Research in Personality』誌で発表されました。
目次
- 他者に理解を示す「知的謙虚さ」とは
- 知的謙虚さはパートナーとの関係性を深め、衝突を避けるのに役立つ
他者に理解を示す「知的謙虚さ」とは
知的謙虚さとは、簡単に言えば「自分は間違っているかもしれない」と受け入れられる心の柔軟さのことです。
これは単なる自己否定ではなく、自らの認識の限界を認め、他者から学ぼうとする姿勢を含みます。
しかし、知的謙虚さはこれまでの心理学研究ではあまり注目されてきませんでした。
コミュニケーション能力や共感性といった他の性質や特性が研究される一方で、知的謙虚さが人間関係にどのように作用するかを詳細に検証した研究は数少なかったのです。

そこで今回、イーロン大学(Elon University)の研究チームは、恋愛関係における知的謙虚さの効果を調査することにしました。
彼らは、アメリカ南東部から74組の異性愛カップル(21~61歳)を募集。
調査を行い、まず「知的謙虚さ」を測定する標準化された質問票を用いて、各参加者のスコアを算出しました。
また、「パートナーとどのような問題で対立したか」「その際、自分の感情や行動はどうだったか」といった質問に答えてもらい、それらのデータを詳細に分析しました。
さらに、衝突後の満足度や関係修復の成否も評価し、知的謙虚さとの相関関係を探りました。
こうした実験設計により、知的謙虚さが日常のリアルな人間関係の中でどのように機能しているかを明らかにすることができました。
知的謙虚さはパートナーとの関係性を深め、衝突を避けるのに役立つ
研究の結果、知的謙虚さは個人だけでなく、パートナーにも大きな影響を与えることがわかりました。
特に男性の知的謙虚さが高いと、男性自身だけでなく、パートナーである女性側の関係満足度も高まる傾向が見られました。
謙虚な男性はパートナーとの強い絆を感じており、パートナーからも、「親しみやすく、口論に発展することが少ない」と見られる傾向にありました。

一方で、女性の知的謙虚さは、パートナーに対しての満足度や衝突の頻度には大きな影響を及ぼしませんでした。
ただし、女性自身の認識には違いが現れました。
知的謙虚さの高い女性は、自分が衝突時により建設的にふるまっていると報告しています。
また、「パートナーが理解を示そうとしたり、妥協を試みようとしている」と信じる傾向にありました。
ただし、両者が高い知的謙虚さを持っている場合に、特別に相乗効果が生まれるわけではありませんでした。
知的謙虚さのレベルの高いパートナーが一人でもいれば関係は改善しますが、二人ともが謙虚だからといって、さらに劇的に良くなるわけではなかったのです。
研究者たちは、「自分の見解が間違っている可能性を認めること」が、恋愛関係においてより多くの満足、好意、愛情をもたらすとまとめています。
(ただし、この研究は自己報告に基づくため、今後は行動観察による客観的な検証が必要です)
「自分は間違っているかもしれない」と考える人は、自分もパートナーも幸せにすることができます。
そのような知的謙虚さを育てることは、恋愛関係のみならず、広く人間関係全般をより豊かにするためのカギとなるかもしれません。
参考文献
People with intellectual humility tend to handle relationship conflicts better, new study finds
https://www.psypost.org/people-with-intellectual-humility-tend-to-handle-relationship-conflicts-better-new-study-finds/
元論文
Intellectual humility in romantic relationships: Implications for relationship satisfaction, argument frequency, and conflict behaviors
https://doi.org/10.1016/j.jrp.2025.104598
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部