ソーラーパネルといえば、太陽光を十分に受け取るために地面とほぼ水平に並べられるものです。
しかし、そんな常識を覆す新たなソーラーパネルが登場しました。
ドイツの企業「SINN Power」が開発したのは、水面に“垂直”に設置するという、今までにない仕組みの太陽光発電システムです。
この「SKipp」と名付けられた新技術は、池や湖、養殖場など水の上にパネルを浮かべて電力を生み出すことも可能です。
目次
- 垂直型ソーラーパネル「SKipp」登場!水面にも浮かべられる
- 垂直型ソーラーパネルのメリットとは?
垂直型ソーラーパネル「SKipp」登場!水面にも浮かべられる
従来のソーラーパネルは、太陽の光を最大限受けるために、地面や屋根の上に斜めや水平に並べて設置するのが一般的でした。
この方法は、日中に太陽が高い位置にある時間帯に最も効率よく発電できます。
しかし、土地の確保が必要で、農地や森林の転用が課題になったり、屋根の形状やスペースによって設置できないケースも多く見られました。
加えて、積雪が多い地域では雪がパネルの上に積もってしまい、発電効率が大きく落ちるという欠点もありました。
そこで、SINN Power社が開発したのが「SKipp(※画像あり)」です。
SKipp最大の特徴は、パネルを“垂直”に立てて並べ、水面にも浮かべられるという点です。
このパネルは、中空のプラスチック樽(バレル)の上に固定されていて、まるで小さなイカダのように水の上にぷかぷか浮かびます。
樽が浮力を持つことで、システム全体を安定して水面に浮かせることができます。
しかも、パネルは風が吹いたときにしなって傾き、風がやむと自然に元の位置に戻る柔軟な構造になっています。
これによって、強風や波、荒天時の損傷リスクを減らすことができます。
システム自体は水面上に浮かんでいますが、アンカーは岸に設置されているため、モジュール全体がしっかり固定され、位置ずれの心配もありません。
SKippは、池や湖、ラグーン、さらには魚の養殖池など、十分な水面があれば設置可能です。
特に、これまで有効活用されていなかった採石場跡の池や人工水面でも導入が進められています。
実際、ドイツ・バイエルン州ギルヒングの採石池では、大規模なSKippシステムが導入されており、現地の工場が必要とする電力の約70%をまかなっています。
このように、SKippは従来の設置方法にとらわれず、新たな発電スペースを切り開いているのです。
では、この垂直型ソーラーパネルのメリットはどんなところにあるのでしょうか。次項で確認しましょう。
垂直型ソーラーパネルのメリットとは?
なぜ「垂直」にパネルを並べるのでしょうか?
その最大の理由は、「両面受光」のバイフェイシャルパネルを使いつつ、太陽からの直接の光と、水面からの反射光を効率よく受け取れるからです。
また、パネルが垂直であれば、朝夕の太陽が低い時間帯でも光をキャッチしやすくなり、冬場や曇天時にも発電量を維持しやすいというメリットがあります。
さらに、積雪の多い地域でも雪が滑り落ちやすい設計なので、同様の環境下でも発電効率の低下を防げます。
設計上、パネル自体が風で傾いても折れることなく元に戻る柔軟性を持っているため、台風や嵐にも強いのが特徴です。
発電性能としては、従来より30%多くパネルを設置できるため、より多くの電力を生み出せると主張されています。
SINN Power社によると、「年間約934トンもの二酸化炭素排出削減効果が見込まれており、気候変動対策としても高い効果が期待されている」とのこと。
また、環境や生態系への影響にも細かく配慮されています。
SKippは垂直型ゆえ、「水面の15%以下」しかパネルで覆わない設計にすることが可能。残りの大部分は開放されたままです。
このため、日光や酸素が水中に届きやすく、水草や魚などの生態系への影響を最小限に抑えています。
さらに、浮体は密閉プラスチック、フレームは耐腐食金属、パネルは多層ガラス+シリコンセルで構成されており、水や風、太陽光による劣化にも強い設計です。
加えて、メンテナンスや拡張性にも優れています。
SKippはモジュール式で、必要な規模に合わせて簡単に拡張や縮小が可能であり、個別の部品交換や修理も素早く行えるため、長期的な運用にも適しているのです。
このように、水面に垂直に浮かぶSKippは、「土地不足」「積雪」「生態系保護」といった従来の課題を解決しつつ、再生可能エネルギーの新しい可能性を切り拓くかもしれません。
参考文献
floating vertical solar panels capture sun’s energy from ponds, lakes, fish farms and lagoons
https://www.designboom.com/technology/floating-vertical-solar-panels-capture-sun-energy-ponds-lakes-fish-farms-lagoons-sinn-power-10-14-2025/
Innovative technologies for a sustainable and economically successful future
https://www.sinnpower.com/en
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部