深海の闇には、私たちが想像もできないような不思議な生物がひそんでいます。
その中でも今回、南太平洋のクック諸島近海で撮影に成功した「カオナシ深海魚」は、研究者も思わず驚きの声を上げるほどのインパクトを持つ存在です。
まるで顔が消えてしまったかのような姿は、私たちの常識を大きく覆します。
では、実際に撮影されたカオナシ深海魚の映像を見てみましょう。
目次
- カオナシ深海魚はどんな魚?
- 激レアなカオナシ深海魚の最新映像!
カオナシ深海魚はどんな魚?
カオナシ深海魚は、正式に「ティフロヌス・ナサス(Typhlonus nasus)」という学名で、アシロ科というグループに属します。
その最大の特徴は、外見からは目や鼻、口といった顔のパーツがほとんど認識できないことです。
正面から見ても「顔」がどこにも見当たらず、まるで“カオナシ”のような姿をしています。

この不思議な進化の背景には、彼らが生息する「アビサルゾーン」と呼ばれる海底約4000〜5000メートルの暗黒世界があります。
この深度では太陽光が一切届かず、周囲は完全な闇。
光を感知するための大きな目はほとんど役に立たず、むしろエネルギーの無駄です。
そのため、カオナシ深海魚は進化の過程で目が皮膚の奥深くに小さく隠れるなど、顔の器官そのものが著しく退化しました。
さらに、口は頭の下側に隠れていて、鼻孔が2対あるものの、外からは非常に分かりにくい構造です。
体長は最大約46センチメートルにも達し、体色は淡い色合いで、ヒレは黒ずんでいます。
こうした特徴が組み合わさることで、「顔のない魚」という唯一無二の見た目が生まれました。
この魚は1873年に最初に記録されて以来、深海という環境の特殊さもあり、めったに人間の目に触れることがありませんでした。
2017年にオーストラリア近海で再発見された際には、「新種では?」と研究者を驚かせましたが、文献調査の結果、過去に報告されたTyphlonus nasusであることが確認されました。
このような外見的特徴は、洞窟に棲む「目なし魚」と同様、光のない環境で生きる生物がたどる進化のひとつの解答だといえるでしょう。
激レアなカオナシ深海魚の最新映像!
そんなカオナシ深海魚が今回、南太平洋のクック諸島近海を探査する調査船「E/Vノーチラス」の最新ミッションで、リモート操作の水中探査機によって鮮明に撮影されました。
映像では、海底をゆっくりと泳ぐ不気味な影が捉えられています。
カメラが近づくにつれ、その輪郭が徐々に明らかになり、まさしく顔のないオタマジャクシのような姿が現れました。
研究者たちはこの“異形”に、思わず感嘆の声をあげています。
実際の映像がこちら。
この映像が特に貴重なのは、深海での発見そのものが稀少であることに加え、「生きて動く姿」がしっかり記録された点にあります。
実際、過去150年近くの間で目撃例はごくわずか。
海底のごく限られたエリアでしか発見されていないため、生態そのものもほとんど謎に包まれてきました。
今回の観測で撮影された個体は、やがてカメラの前からゆっくりと姿を消しましたが、調査チームはその後も複数の「カオナシ深海魚」を確認することに成功しています。
この発見は、私たちが知らなかった深海の多様性と進化の不思議さを、改めて強く印象づけてくれます。
参考文献
Watch: Rare Footage Captures Freaky Faceless Cusk Eels Lurking On The Deep-Sea Floor
https://www.iflscience.com/watch-rare-footage-captures-freaky-faceless-cusk-eels-lurking-on-the-deep-sea-floor-81150
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部