【木にナノ鉄を吸収させる】 鉄成分で強化された木材は剛性が260%向上する

サイエンス

木材の良さを保ちながら、鉄のように強い

そんな新しい材料が完成しました。

アメリカのフロリダ・アトランティック大学(FAU)の研究チームは、天然の木にナノサイズの酸化鉄粒子を注入することで、軽さを保ったまま剛性と硬度を飛躍的に高めることに成功したのです。

研究の詳細は、2025年3月12日付の学術誌『ACS Applied Materials & Interfaces』に掲載されました。

目次

  • 木材にナノ鉄を吸収させ、頑丈な新材料を作る
  • ナノ鉄を注入した新木材は剛性と強度が跳ね上がる

木材にナノ鉄を吸収させ、頑丈な新材料を作る

木材には、プラスチックにも金属にもない特有の良さがあります。

軽くて、加工しやすく、温もりがあって、何より再生可能な天然素材です。

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木材のメリットを活かしつつ強化できる? / Credit:Canva

もし、この木が「そのままの姿」で、鉄よりも強くなったら?

そんな夢のような素材づくりに挑戦したのが、FAUの研究チームでした。

彼らが注目したのは、「フェリハイドライト(ferrihydrite)」という鉄の酸化物です。

これは自然界の様々な場所に存在する無毒な鉱物で、酸化の進んだ土壌や河川や湖の中にあります。

そして、これは水酸化カリウムと硝酸鉄を混ぜることでナノサイズで生成できます。

研究者たちは、まずこのフェリハイドライトのナノ粒子を作成し、硬木の一種であるレッドオーク材に対して、真空含浸プロセスを用いることで、木の中に粒子を浸透させていきました

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レッドオーク / Credit:Wikipedia Commons

レッドオークは「環孔材」と呼ばれる構造を持つ木材で、年輪に沿って大きな環状に導管が並んでおり、水や液体を吸い上げる力が強いのが特徴です。

この構造のおかげで、フェリハイドライトの粒子は木材の細胞壁の中にまで効率よく行き渡り、固定させることができました。

今回のプロセスの特徴は、木の構造を壊すことなく、あたかも木そのものがナノ鉄を取り込んだかのような形で、内側から「木を強化する」点にあります。

では、この方法で生まれた木は、いったいどんな性能を持っているのでしょうか?

ナノ鉄を注入した新木材は剛性と強度が跳ね上がる

研究チームが新しい強化木材を分析したところ、その剛性が260.5%、硬度が127%も向上していることが分かりました。

つまり、通常の木材と比較して、3倍以上の「曲がりにくさ」、2倍以上の「傷つきにくさ」を手に入れたことになります。

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新材料のマイクロCT画像 / Credit:FAU

それでいて、木材の重量は「ごくわずかに」しか増加していないと報告されています。

つまり、「軽さはそのまま、強さだけが劇的に向上した」という、非常に効率の良い強化が実現したのです。

また、このナノ粒子は自然界にも存在し、無毒で安全性が高いという点も注目に値します。

毒性や環境影響への懸念なく、実用的な建材としての使用が検討できるのです。

今のところ、破断のしかた自体は未処理の木材と変わらず、これは細胞間の接着が変わっていないためとされています。

しかし、細胞壁自体はしっかりと強化されており、構造材や家具などの強度を要する用途に大きな可能性を秘めています。

軽くて強くて無毒、そして木のぬくもりをそのまま残した新素材。

鉄やプラスチックに代わる持続可能なハイブリッド材料として、未来の建築・インテリア・輸送分野での活躍が今から期待されます。

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参考文献

Iron-fortified lumber could be a greener alternative to steel beams
https://newatlas.com/materials/iron-fortified-wood/

‘Wood You Believe It?’ FAU Engineers Fortify Wood with Nano-Iron
https://www.fau.edu/newsdesk/articles/nano-iron-wood-technology

元論文

Multiscale Mechanical Characterization of Mineral-Reinforced Wood Cell Walls
https://doi.org/10.1021/acsami.4c22384

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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