【時間か質か】豪ACTは「飼い主は愛犬と1日3時間過ごす義務」の草案を発表

オーストラリア

愛犬との時間を大切にしている人は多いでしょう。

朝の散歩、夜のリラックスタイム、一緒に過ごすそのひとときは、飼い主にとってもペットにとってもかけがえのないものです。

ですが、もしその時間が「法律で義務づけられる」と聞いたら、戸惑うことでしょう。

2025年6月、オーストラリアの首都特別地域(ACT)政府が発表した動物福祉に関する新しい草案が、まさにそんな衝撃をもたらしています。

草案では「飼い主に毎日3時間の愛犬との接触を義務付ける」ことがガイドラインとして提案されており、現在議論を呼んでいます。

この草案に対して見解を示したのが、アデレード大学(University of Adelaide)獣医学者スーザン・ヘイゼル氏です。

彼女はこの3時間ルールに対し、「重要なのは量ではなく、質である」と明確に指摘しています。

目次

  • 豪ACTが「愛犬との触れ合い最低3時間の義務」草案を提出
  • 愛犬との触れ合いでは「時間より質」が大切!?

豪ACTが「愛犬との触れ合い最低3時間の義務」草案を提出

まず、今回の提案がなされたACT(Australian Capital Territory)について触れておきましょう。

ACTはオーストラリアの首都キャンベラを含む行政区で、政治の中心地であると同時に、法律や社会制度の先進的な取り組みがなされる「実験的地域」としても知られています。

この地域ではすでに2019年に「動物は感受性ある存在である」ことを認めており、動物の福祉に対する高い意識が根付いています。

ここで言う「感受性」とは、動物が喜びや痛み、恐怖、愛情といった感情を持つという意味です。

そうした理念に基づいて提示されたのが、今回の「飼い主に1日最低3時間の愛犬との接触を義務化する」というガイドライン草案です。

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「愛犬との触れ合い3時間義務」の草案に賛否の声溢れる / Credit:Canva

犬は非常に社会的な動物であり、実際に現代の犬の多くは、長時間孤独にされることで強いストレスを感じてしまいます。

ある研究では、全犬の14〜29%が「分離不安」による問題行動を示すと報告されています。

これは無駄吠えや家具の破壊、脱走などの形で現れます。

さらに、十分な運動や交流がない犬は肥満、落ち込み、退屈などにも苦しむことが知られています。

こうした事情を踏まえ、ACTは「1日3時間」という具体的な時間を提示することで、飼い主に犬とのふれあいの重要性を明確に伝えようとしているのです。

しかし、この草案は一般市民の間で賛否両論を巻き起こしています。

多くの飼い主は「愛犬を大切にしたい」と考えていますが、それが数値目標として義務化されることに対しては、戸惑いの声も少なくないのです。

では具体的に、どのような声があるのでしょうか。

そしてこうした時間の義務化よりも大切なことはあるのでしょうか。

愛犬との触れ合いでは「時間より質」が大切!?

ACTの草案に対して最も多く挙がった疑問は、「そもそも、全ての人が毎日3時間も犬と過ごす時間を取れるのか?」という現実的な問題です。

共働き家庭や高齢者、子育て世代にとっては、3時間の確保は簡単ではありません。

加えて、犬の年齢や性格によっても、求められる接触のスタイルは大きく異なります。

例えば、1歳の若い犬であれば長時間の散歩や活発な遊びを喜ぶかもしれませんが、12歳のシニア犬では、静かな室内でのんびり過ごす方がストレスが少ないでしょう。

さらには、数分でも飼い主と離れることで強い不安を感じる犬もいれば、数時間ひとりで過ごすことが平気な犬もいます。

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愛犬との触れ合いで大切なのは「時間より質」!? / Credit:Canva

こうした多様性を無視して一律の「3時間」を設けることに対し、スーザン・ヘイゼル氏は「数より質」の重要性を強く訴えます。

彼女の指摘によれば、犬とのふれあいで本当に重要なのは、その犬にとって心地よく、安心できる交流であることです。

ただテレビを見ながら無関心に隣に座っているだけの3時間よりも、短くても全力で一緒に遊んだり、静かに撫でてあげる時間の方が犬の心に届くかもしれません。

ヘイゼル氏は、「必ずしも3時間を達成できなくてもいい。できる範囲でいいから、犬と意味ある時間を持つことが大切」と語ります。

ときにはスマホを置き、目の前の愛犬としっかり向き合う時間を持つ。

それが、犬にとっては何よりの幸せなのです。

このように、ACTの草案は賛否を含みながらも、犬の福祉について私たちが深く考えるきっかけを与えています。

私たちは、「自分は愛犬の気持ちを、本当に理解しているのだろうか?」と考え続ける必要があるのかもしれません。

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参考文献

The ACT wants dog owners to spend 3 hours a day with their pet. But quality, not quantity, matters most
https://theconversation.com/the-act-wants-dog-owners-to-spend-3-hours-a-day-with-their-pet-but-quality-not-quantity-matters-most-260694

This project is open for feedback
https://yoursayconversations.act.gov.au/welfare-dogs-act

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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