【世界初】カンガルーの体外受精に成功!オーストラリアの絶滅危惧種を救うかも

オーストラリア

オーストラリアの広大な大地を跳び回るカンガルーですが、その繁殖が試験管の中で行われる時代がやってきました。

クイーンズランド大学(The University of Queensland)の研究チームが、世界で初めてカンガルーの体外受精(IVF)胚の作製に成功しました。

これまで有袋類の繁殖は自然に頼るしかありませんでした。

しかし、この研究によって、科学の力で絶滅危惧種を守り、未来へつなぐ道が開かれるかもしれません。

この研究成果は、2025年2月6日にクイーンズランド大学が発表し、学術誌『Reproduction, Fertility and Development』に掲載されました。

目次

  • 絶滅の危機に瀕しているオーストラリアの有袋類
  • 世界初!体外受精カンガルー胚の誕生

絶滅の危機に瀕しているオーストラリアの有袋類

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絶滅の危機に瀕しているオーストラリアの有袋類 / Credit:Canva

オーストラリアでは、コアラやタスマニアデビルなどの有袋類が、生息地の破壊や病気によって絶滅の危機に瀕しています。

例えば、タスマニアデビルは顔面腫瘍性疾患(DFTD)の流行により個体数が激減しています。

またコアラも森林火災や都市開発の影響で急激に数を減らしています。

こうした状況を受けて、有袋類の保全には人工繁殖技術の確立が不可欠だと考えられています。

しかし、有袋類の繁殖は通常の哺乳類とは大きく異なります。

彼らは有胎盤類ほど高機能な胎盤を持っておらず、妊娠期間が非常に短いのです。

そのため赤ちゃんは未熟な状態で生まれ、その後は母親の袋(育児嚢)に入って、数か月かけて成長します。

この独特の生殖システムにより、有袋類に対する体外受精技術は、家畜ほど研究されてきませんでした。

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個体数が豊富な有袋類「オオカンガルー」を用いて体外受精を行う / Credit:The University of Queensland ,Canva

そこで、クイーンズランド大学の研究チームは、この課題を克服するためにオオカンガルー(学名:Macropus giganteus)をモデルとし、初の体外受精に挑戦しました。

オオカンガルーは他の有袋類とは異なり、個体数が非常に多く、有袋類の最初の研究対象として最適だったのです。

世界初!体外受精カンガルー胚の誕生

研究チームは、成熟したカンガルーの卵子と精子を採取し、受精させる「細胞質内精子注入法(ICSI)」を採用しました。

ICSIは、顕微鏡を使い、1つの精子を直接卵子に注入する技術であり、人間の不妊治療や家畜の人工繁殖ではすでに広く使用されています。

今回の実験では、カンガルーの卵子にICSIを施し、その後の発育を観察しました。

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カンガルーの卵子に精子を注入する様子 / Credit:The University of Queensland

その結果、世界で初めてカンガルーの受精卵が試験管内で細胞分裂を開始したことが確認されました。

これは、有袋類の人工繁殖技術における歴史的な一歩です。

研究チームは、今後、受精卵を母体へ移植し、正常に妊娠・出産できるかを検証する予定です。

この技術が確立されるなら、カンガルーだけでなく、絶滅の危機にあるタスマニアデビルやコアラなどにも応用できるかもしれません。

それは、オーストラリアに生息する多くの有袋類の未来を守ることに繋がります。

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参考文献

First IVF kangaroo embryo a major leap for marsupial conservation
https://www.uq.edu.au/news/article/2025/02/first-ivf-kangaroo-embryo-major-leap-marsupial-conservation

Watch: World’s first kangaroo embryo made by humans
https://newatlas.com/biology/first-ivf-kangaroo-embryo/

元論文

Successful production of kangaroo ICSI embryos
https://doi.org/10.1071/RDv37n1Ab28

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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