「ドローンってそんなに長時間飛べるの?」と驚いた方もいるかもしれません。
2025年7月26日、アメリカの航空企業SiFlyが開発した電動ドローン「Q12」が、3時間11分53秒もの連続飛行に成功し、ギネス世界記録に認定されました。
この記録は、5〜20kgクラスの電動マルチロータードローンにおいて世界最長とされ、「Longest duration flight of an electrically powered prototype multirotor drone」という正式名でギネスに登録されています。。
ではこの歴史的偉業の背景には、いったいどんな技術と目的があったのでしょうか?
目次
- ドローンのジレンマに挑んだSiFly社の大型ドローン
- SiFly社のドローンが3時間11分の連続飛行に成功!ギネス世界記録へ
ドローンのジレンマに挑んだSiFly社の大型ドローン
まず、ドローンの飛行時間について一般的な認識を確認しておきましょう。
私たちが日常的に目にするドローン、たとえば空撮や農薬散布、物流などに使われる多くの機体は、平均で20分から40分程度しか飛行できません。
その原因は主に「バッテリー容量と重量のトレードオフ」にあります。
バッテリーを大きくすれば長く飛べますが、そのぶん機体が重くなり、推進力を多く使ってしまいます。
逆に機体を軽くすると今度はバッテリー容量が足りなくなり、飛行時間が短くなるというジレンマが存在します。
この「限界」に挑んだのが、SiFly社の開発チームです。
彼らは、これまでの航空工学の常識を覆すため、さまざまな先進技術をQ12に組み込みました。
最大の革新は、電気自動車(EV)にも使われる21700リチウムイオンセルを用いた高密度バッテリーパックの採用です。
これにより、従来よりも多くの電力を蓄えつつ、過熱や劣化のリスクを抑えた安全な運用が可能となりました。
さらに、大型のローター(プロペラ)を搭載し、空気抵抗を最小限に抑えつつ、推力効率を大幅に向上。
この設計により、同クラスの電動ドローンと比べて、4倍の飛行時間、10倍の飛行距離、5倍のペイロード(積載量)を実現しています。
加えて、機体から発せられる騒音は同クラス機体のわずか10分の1。
これにより、住宅地や医療施設付近など静音性が重視される場所でも、実用性が飛躍的に高まりました。
こうした先進的な技術の数々は、SiFlyが掲げる「ドローンを社会のインフラへ進化させる」という理念のもとで一体化され、航空工学の限界を突破する革新機となりました。
そして、こうした革新の成果がついに“実績”として結実したのが、今回のギネス世界記録です。
次章では、実際にどのようにしてこの記録が達成されたのか見ていきましょう。
SiFly社のドローンが3時間11分の連続飛行に成功!ギネス世界記録へ
実際に記録が樹立されたのは、カリフォルニア州にある広大なアマラル牧場(Amaral Ranches)。
2025年7月26日、Q12は高度約50メートルを時速約50kmで自律飛行し続け、3時間11分54秒という前人未踏のフライトを成功させました。
従来の記録を約1時間も上回ったのです。
記録達成を監視・認証したのは、NASAの航空宇宙エンジニアやAppleの技術者を含む8人の証人。
彼らがギネスワールドレコーズの基準に基づいて記録を精査し、公式記録として登録されました。
この飛行記録のすごさは、単なる“飛び続けた時間”の話ではありません。
SiFlyのCEOブライアン・ヒンマン氏は次のように語っています。
「この世界記録は単なる持久力の証明ではありません。
ドローン技術の可能性そのものを根本的に変えるものなのです」
今回の偉業を成し遂げたQ12には、今後さまざまな分野での活躍が期待されています。
たとえば、広大な農地を一度の飛行でカバーする高精度な農業モニタリング、通信インフラの維持や災害時の調査などにおける長時間の空中監視、さらには人が立ち入れない危険地帯での探査・物流支援といった用途がすでに想定されています。
また、静音性が高く、都市部での運用にも適しているため、将来的には医療物資の緊急輸送や都市インフラの点検など、公共サービスの分野でも導入が進む可能性があります。
特にQ12のような“長時間飛行が可能な電動ドローン”は、これまで燃料駆動型でしか実現できなかった任務を、より安全で経済的に遂行できる手段として注目されています。
コスト面でも、中国製品と比較しても十分に競争力があり、今後世界中でその導入が加速するかもしれません。
人類が空を“日常的に使いこなす”未来が、予想以上に早くやってくるかもしれません。
参考文献
American-made drone snags Guinness World Record for longest flight
https://newatlas.com/drones/guinness-record-drone/
SiFly Shatters Guinness World Record with 3-Hour Electric Drone Flight
https://www.prnewswire.com/news-releases/sifly-shatters-guinness-world-record-with-3-hour-electric-drone-flight-302532680.html
Longest duration flight of an electrically powered prototype multirotor/drone (5 – 20 kg)
https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/679489-longest-duration-flight-of-an-electrically-powered-prototype-multirotor-drone-5
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部