映画のワンシーンのように、高速で走る車の上に飛び乗ることがどれだけ危険で難しいことか、よくご存じでしょう。
それは人間だけでなく、最新のドローンであっても同じことです。
たとえ自律飛行ができる高性能な機体でも、時速100kmを超える車の屋根に安全に「ピタッ」と着陸するのは、現実には極めて難しい技術なのです。
カナダのシャーブルック大学(University of Sherbrooke)の研究チームは、走行中の車両にドローンが確実に着陸できる新しい方法を開発しました。
この成果は2025年9月24日付の『Journal of Field Robotics』誌に掲載されました。
目次
- 「走る車への着陸」はなぜ難しい?跳ね返りとスリップをどう越えるか
- 時速110kmで走る車両にピタッと着陸することに成功
「走る車への着陸」はなぜ難しい?跳ね返りとスリップをどう越えるか
ドローンは今や農業、物流、災害対応など幅広い現場で使われていますが、実は「着陸」での失敗が少なくありません。
「走行中の車両」へ降りる場合、その難しさはさらに跳ね上がります。
車が高速で走っていると、ドローンには強烈な風圧がかかります。
この風に対抗するため、機体は大きく前傾して飛ぶことになり、そのままの姿勢で降りようとすると、プロペラが屋根に接触してしまったり、着地時の安定性が大きく損なわれたりします。
また従来のドローンの脚は、固い素材でできていて、内部に十分な衝撃吸収構造がありませんでした。
そのため、車の速度があるラインを超えると、着地の瞬間に跳ね返ったり、脚が壊れたり、滑り落ちたりする事故が頻発します。
これまでの研究でも、車両が50km/hを超えると、着陸の成功率が著しく低下することが分かっています。
この課題を乗り越えるためには、衝撃吸収と滑り防止の両方を同時に実現し、高速でも安定して降りられる制御技術が必要でした。
そこで今回の研究では、三つの新技術が導入されました。
1つ目の「ショックアブソーバー」は、脚の内部に摩擦ディスクを組み込んだ特殊な構造です。
着地の瞬間にこのディスク同士が回転して摩擦を生み、着地時の衝撃エネルギーを一気に吸収することができます。
2つ目の技術は、プロペラの回転方向を一時的に逆転させ、着地直後にドローンを下向きに押し付ける力を生み出すというもの。
この働きによって、滑り落ちやすい高速走行中の車両の屋根でも、ドローンはしっかりとその場にとどまることができるのです。
さらに3つ目のとして、上空から車両を追尾し、高速で垂直に降下したのち、着地直前で機体を水平に戻す制御技術も実装されました。
この制御によって、プロペラが屋根に接触するリスクを回避しつつ、4本の脚で衝撃を均等に受け止めることが可能になります。
では、三つの技術を組み合わせた結果、どんな成果が得られたでしょうか。
次項には、実験の様子を記録した動画もあります。
時速110kmで走る車両にピタッと着陸することに成功
実験では、重さ2.4kgの専用ドローン(クワッドコプター)が用いられました。
そして時速10kmから110kmまで速度を変えながら、トラックの屋根に設置した特製の着陸台へ、自動制御で合計38回の着陸テストが行われました。
その結果、跳ね返りや滑り落ち、脚の破損といったトラブルは一度も発生せず、全ての着陸で100パーセントの成功を達成しました。
さらに、横風や車両の揺れ、センサーのわずかな誤差など、現実の環境下で起こりうる様々な外乱にも、この新しい着陸システムは高い耐性を示しました。
この成果によって、ドローンの回収や補給のために、わざわざ車両を停止させる必要がなくなります。
たとえば、災害現場で走行中の救援車両にドローンが物資を直接届けたり、ドローンがバッテリーを温存するために車両に「便乗」して次の現場まで移動するといった新しい運用方法が考えられます。
また、着陸のタイミングや制御の許容範囲が格段に広がったことで、高度なAIや特別なセンサーを用いなくても、現場での安全なドローン運用が現実的になりました。
さらに走行中の車両から空撮ドローンが飛び去り、車両や周囲を上空から撮影。再び戻ってくるという新たな撮影方法も可能になります。
「跳ね返らない着陸」を工学的に実現したことで、ドローン運用の自由度と信頼性が大きく向上したのです。
今後は車両だけでなく、鉄道や船舶など他の高速で移動するプラットフォームへの応用も期待されています。
参考文献
Comin’ in hot – dauntless drone can make 110-km/h landings on trucks
https://newatlas.com/drones/dart-drone-landing-truck/
元論文
Friction Shock Absorbers and Reverse Thrust for Fast Multirotor Landing on High-Speed Vehicles
https://doi.org/10.1002/rob.70069
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部