恋人や夫婦の関係は、特別なイベントでのみ深まるのではありません。
むしろ毎日の小さな積み重ねが大切です。
アメリカの心理学者マーク・トラバース博士(Mark Travers Ph.D.)は「1日1分の行動」が、パートナーとの信頼や安心感を育てると説明しています。
本記事では、その具体的な方法や科学的な根拠、また習慣化のコツについてお伝えします。
目次
- 毎日の“1分”でパートナーとの関係を深める方法
- “1分”でも効果的な理由
- 習慣化のコツ
毎日の“1分”でパートナーとの関係を深める方法
多くの人が「関係を良好に保つには旅行や記念日などの特別なイベントが重要」と考えがちです。
しかし実は、毎日繰り返す“ちょっとした習慣”こそが二人の絆を支える土台になっています。
トラバース博士によると、そうした行動は「1日たった1分」でも効果があるようです。
その1分は“スマホやテレビを見ながら”ではなく、“相手にだけ集中する1分”であることが大切です。
では、具体的にどんな方法でしょうか。
ハグや手をつなぐ
仕事や学校から帰宅したタイミングで「1分間だけハグをする」ことができます。
20秒のハグでもストレスホルモンが下がり、オキシトシンという絆を強めるホルモンが増えることが研究で示されています。
1分間しっかりと抱きしめ合えば、体も心も安心しやすくなります。
感謝やねぎらいを伝える
寝る前、布団に入る前の1分間を「今日あなたに感謝していること」をお互いに伝え合う時間にできるでしょうか。
「ありがとう」「助かった」「今日のあなたの笑顔に救われた」など、どんな小さなことでもOKです。
日々の感謝を言葉にすることで、関係の“雰囲気”が批判や不満から“つながり”に変わっていきます。
朝の短い気遣い
出かける前の1分間で「今日、あなたが気になっていることは?」「どんなサポートができそう?」などと尋ねてみてください。
相手への思いやりが伝わるだけでなく、お互いの心の状態を共有できます。
そして1日を通して、「自分はひとりじゃない」という安心感が生まれます。
言葉なしの1分
話す気分じゃない日や、疲れている日もあります。
そんなときは「無言で手をつなぐ」「額を合わせて静かに過ごす」「一緒に深呼吸する」など、“存在を感じ合う1分”でも十分効果があります。
どの方法を選んでも共通するのは、「この1分、ちゃんとあなたを見ているよ」「あなたが大事だよ」と毎日伝える意志があることです。
では、こうした「1分間」の積み重ねに効果はあるのでしょうか。次項で確認しましょう。
“1分”でも効果的な理由
「たった1分で関係が本当に変わるの?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。
しかし、心理学の研究ではこの“1分”に大きな意味があることが示されています。
感情の“貯金”を増やす
アメリカの心理学者ジョン・ゴットマン博士は「emotional bank account(感情の銀行口座)」という考え方を提唱しています。
毎日の小さな“ポジティブなやりとり”が「預金」となり、不満やケンカが「引き出し」になるイメージです。
そして彼の研究によると、この預金が多いほど、多少の衝突があっても関係はすぐ修復できるようになります。
日々の「ありがとう」「ハグ」が、この預金を増やす役割を果たすのです。
また、ゴットマン博士の理論では、日々のポジティブな関わりが多いほど、関係は安定するとされ、しばしば「5対1」という比率(5回のポジティブな関わり:1回のネガティブな関わり)が理想とされています。
そのため「1分の習慣」は、毎日”感情の銀行口座”へと1回分を預金することになります。
“つながりのサイン”に気づき応える
人は一日に何度も、無意識のうちに「ちょっと話したいな」「見てほしいな」といった小さな“つながりのサイン”を出しています。
ゴットマン博士の調査では、うまくいくカップルほどこうしたサインに反応しやすく、別れるカップルはサインを見逃しがちだったそうです。
たとえば、関係が長く続いたカップルは86%の確率で相手のサインに応じていましたが、離婚したカップルではたったの33%でした。
”1分の行動”を毎日設けることで、「少なくとも1回は必ずお互いのサインに応える時間」を保証できます。
これは日々のすれ違いによる距離の広がりを防ぐ働きがあります。
ミクロ習慣が心と体に及ぼす効果
心理学者バーバラ・フレドリクソン博士の研究では、「小さな幸せの瞬間」でも心と体、さらには脳に良い影響を与えることを示しています。
1分でも良い習慣が続くと、関係の回復力や親密さが高まりやすくなるのです。
では、こうした毎日の行動を習慣化するにはどうすれば良いのでしょうか。
習慣化のコツ
理論や効果がわかっても、「毎日ちゃんとやる」ことは意外と難しいものです。
ここでは、1分の行動を三日坊主にせず続けるコツを紹介します。
1. 既存のルーティンにくっつける
毎朝、寝る前の決まった時間、家を出る前など、普段の行動に1分儀式をセットで加えると、忘れにくくなります。
たとえば「歯磨きしたら、そのまま1分手をつなぐ」と決めるだけでも効果的です。
2. 完璧を目指さず、とにかく“1分だけ”を守る
「今日は忙しくて無理…」という日も、内容や雰囲気にこだわらず、とにかく1分間は何かしら一緒にやるようにしましょう。
たとえ会話がなくても、手をつなぐだけ、隣に座るだけでも大丈夫です。
時には、「その1分が機械的で感情が伴っていないように思える日」もあるでしょう。
大切なのは“続けること”です。
3. 忘れないための仕組みを作る
スマホのリマインダーやアラームをセットしたり、冷蔵庫や鏡など目につく場所に「1分儀式」と書いた付箋を貼るのもおすすめです。
また、どちらかが忘れたら「今1分だけいい?」と声をかけ合うのも習慣化のコツです。
トラバース博士が勧める、たった1分でも、毎日「ちゃんとあなたを見ているよ」「あなたは大切だよ」と伝える習慣は、長い目で見て関係の安心感や親密さ、回復力を大きく育てます。
たとえ特別なイベントがなくても、日々の“1分”が2人の絆を守る力になるのです。
そんな新しい習慣を、ぜひ今日から始めてみてください。
参考文献
How to Improve Your Relationship in 1 Minute
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202510/how-to-improve-your-relationship-in-1-minute
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

