「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明

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首を圧迫して快感を高める——いわゆる「首絞めセックス」「チョーキング」が若年層を中心に広がりを見せています。

SNSやポルノなどで「リスクはあるが、正しいテクニックと合意があれば安全に楽しめる」といった情報が数多く流布され、実際にこうした行為を取り入れるカップルも増えているのが現状です。

しかし、オーストラリア・メルボルン大学で行われた研究は、この行為は想像以上に深刻な危険を伴うと警鐘を鳴らしています。

たとえ軽く首を押さえるだけであっても呼吸や血流が阻害される可能性は否定できず、脳へのダメージや遅発性の障害が発生するリスクを完全には排除できないというのです。

いわゆる「安全策」——たとえば圧力のコントロールや合図の設定、パートナー間の信頼関係など——も、残念ながらそうしたリスクをゼロにはできないと研究者たちは指摘しています。 

研究内容の詳細は『Archives of Sexual Behavior』にて発表されました。

目次

  • 首を圧迫して得る快感――若者に急増する“危険な嗜好”
  • 首絞めセックスの“4つの誤解”
  • “安全にできるはず”は幻想か――リスクを正視する必要性

首を圧迫して得る快感――若者に急増する“危険な嗜好”

「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明
「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明 / Credit:Canva

首を圧迫して意図的に呼吸を制限する「首絞めプレイ(チョーキング)」は、近年SNSやポルノを通じて若年層を中心に急速に広がりつつあります。

もともとBDSMコミュニティでは呼吸をコントロールする「ブレスプレイ」の一種として知られており、長らく「危険だが刺激的な行為」とされてきました。

しかし、近年はもはや一部の嗜好では留まらず、学術的にも見逃せないほど一般化が進んできたのです。

その背景には、「首絞めプレイ」を行うことで得られる可能性のある“快感”に注目が集まっていることが挙げられます。

たとえば、脳への酸素供給が断続的に減少するとアドレナリンなどが放出されるため、性的興奮を高めるのではないかとする説もあります。 

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また首まわりは迷走神経など多くの神経が集まる敏感な部位であり、軽度の圧迫刺激が人によっては快感や陶酔感を増強する要因になり得るという見解があることも知られています。 

一方で、首という生命維持に直結する箇所を圧迫する行為は「心臓の鼓動を手のひらで止めかける」ようなもので、わずか数秒のミスでも重大なダメージを与えかねません。

血液や酸素の供給が絶たれれば脳細胞は急速に損傷を受け、後からじわじわと障害が出る遅発性の症状も報告されています。

さらに呼吸停止や心停止、最悪の場合は死亡に至るリスクも否定できず、BDSMコミュニティでは古くから「最も危険な行為のひとつ」と警鐘が鳴らされてきました。

とはいえ、その危険性と快感が“表裏一体”であるかのように語られるため、「正しいテクニックと信頼関係、そして同意さえあれば大丈夫」という“安全神話”も根強いのが現状です。

こうした「首絞めプレイ」の急速な拡大と、“安全神話”がどのように広まっているのかは学術的にも大きな関心事となっています。 

実際、ポルノ映像やSNSでは「適切な力加減なら問題ない」といった情報が拡散されやすく、多くの若者が「やり方次第で安全に楽しめる」と安易に考えてしまうケースが増えています。

ところが、首絞めの実態やリスクに関する科学的知見は十分に共有されているとは言い難く、医学的・心理的影響を正しく理解せずに行う人が少なくありません。

そこで今回研究者たちは、オーストラリアの18~35歳の若者を対象にアンケート調査を行い、彼らが首絞めセックスをどのように“安全”と捉え、そのリスクと快感をどのように評価しているのかを明らかにすることにしました。

首絞めセックスの“4つの誤解”

「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明
「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明 / Credit:Canva

今回の研究は、オーストラリア国内の18~35歳を対象に、大規模なオンラインアンケートを行うところから始まりました。

アンケートを通じて「首絞めセックス(チョーキング)」に関する経験や考え方を尋ねたところ、5,000人を超える回答が集まり、その中で安全性やリスクについて述べていた約1,500人分の自由記述を詳しく分析したのです。

まず理解しておきたいのは、回答者のバックグラウンドが実に多様だったという点です。

首絞めセックスを頻繁に取り入れているという人もいれば、「試したことはあるが怖くてやめた」「動画では見たことがあるけれど、自分では抵抗がある」など、体験の有無や意見は千差万別でした。

ところが、分析を進めると、そうしたバラバラな声の中にいくつかの共通パターンが浮かび上がってきたのです。 

研究チームはこれを大きく4つのテーマに整理しています。

1つ目のテーマ:「首絞めは適切に行えば“安全”だ」という認識。 

多くの回答者が「とにかく強く圧迫しなければ大丈夫」「軽く首に手を添えるだけなら問題ない」といった言葉で表現し、「首絞めは危なく見えてもテクニック次第で安全にできる」と考えていました。

たとえば「気管を潰さずに首の側面だけを押さえれば大丈夫」という自己流の対策を挙げる人もいたのです。

しかし、このような意見の背景には「実際にどの程度の力がどんな影響をもたらすか」についての科学的知識が不足している可能性があると、研究者たちは見ています。

2つ目のテーマ:「圧力のコントロールが鍵」という考え方。

首絞めを“安全”だと信じる人々の多くが、「圧力(力の強さ)や時間をうまくコントロールすれば大丈夫」と述べていました。

「短い時間だけ絞めてすぐに緩めればセーフ」「首の正面ではなく左右を押さえるようにすれば平気」という自己流ルールに頼るケースも少なくありません。

しかし、専門家によれば短時間であっても酸素が十分に行き渡らなくなる可能性はあり、遅発性の脳ダメージが起こるリスクをゼロにはできません。

回答者の多くはそうした医学的リスクを深く認識していないか、あるいは「自分だけは平気だろう」と楽観視している傾向がうかがえます。

3つ目のテーマ:「同意(コンセント)があれば安全」という声。 

「首を絞める」という行為は非常にリスクが高いにもかかわらず、多くの回答者が「パートナーが同意していれば問題ない」と考えていました。

あらかじめ口頭で「首絞めしてもいい?」と確認したり、セーフワードを設定するなど、一見すると対策が取られているように見えます。

ただし「気づいたら急に首を押さえられ、驚きと恐怖で声を上げられなかった」というケースや、「実際には雰囲気に流されて抵抗しづらかった」という報告もあるのが現実です。

つまり、“同意”や“セーフワード”という概念自体は知っていても、それがいつもうまく機能するわけではない状況が浮かび上がりました。

4つ目のテーマ:「信頼関係があれば怖くない」という認識。 

首を絞められる側から見れば、「本当にこの人に命を預けられるのか」という不安が大きく、そこを“長い付き合いで細かなサインを把握できる相手なら大丈夫”と捉える人も多く見受けられました。

しかし「どれだけ気心の知れたパートナーでも、その日の体調や力加減次第で取り返しのつかない事故が起こり得る」という声もあり、信頼関係さえあれば完全に安全というわけではありません。

こうした4つのテーマを総合すると、多くの若年層が首絞めプレイを「なんとか安全にできる」と考えつつも、実際のリスクや医学的知識の不足、さらには同意形成のあいまいさなど多くの問題点が併存していることがわかります。 

研究チームが指摘しているのは、参加者の多くが「危険なのは知っているけれど、今まで大丈夫だったから問題ない」という考えに陥りがちな点です。

これを“安全神話”と呼ぶことができ、たとえいくつかの対策を講じても呼吸や血流を直接コントロールする以上、大きなリスクは常に残るとしています。

“安全にできるはず”は幻想か――リスクを正視する必要性

「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明
「首絞めセックス」で人々は奇妙な勘違いをしていると判明 / Credit:Canva

今回の調査から見えてきたのは、首絞めセックス(チョーキング)をめぐる“安全”への認識が、実際には非常に曖昧で危うい土台の上に成り立っているという事実です。

多くの回答者が「力加減を調整すれば大丈夫」「信頼できるパートナーなら安全」「事前に合意を取れば問題ない」といった考えを示していましたが、それらが科学的・医学的根拠に基づいているかは疑わしい場合が多いといえます。

実際、これまでの研究でも首まわりへの圧迫が脳に及ぼす影響には“遅れて症状が出る”可能性が指摘されています。 

一時的な酸素不足が神経細胞に微細な損傷を与え、後から頭痛や集中力低下、さらには記憶障害などにつながるケースがあるという報告もあるのです。

また、血管や気道のわずかな損傷が時間差で呼吸困難や声帯の不調を招くこともあり、日常生活の中では首絞めプレイが原因だと気づかれにくいともいわれています。

さらに「パートナーとの合意」や「信頼関係」はセックス全体において重要な要素ですが、首絞め行為に伴う大きなリスクを劇的に下げるわけではありません。

合意があったとしても不測の力加減や体調の変化で事故に至る可能性は否定できず、BDSMコミュニティでも古くから「首絞めは最も危険な行為の一つ」として知られてきました。

今回の調査結果が示唆するのは、多くの若者が「首絞めは危険」と認識しつつも「うまくコントロールすれば大丈夫」と考える、いわゆる“安全神話”に陥りやすい現状です。

たとえば、ごく軽く触れる程度の“ソフトチョーキング”なら平気だと思い込んだり、SNSやポルノ動画で見た手法がそのまま使えると勘違いしたりするケースが散見されました。 

しかし医学的には「首への負荷がどれほど軽そうに見えても、事故を完全に回避する保証はない」という見解が強く、事実上“絶対安全”を担保できる方法は存在しません。

では、こうした誤解やリスクをどうすれば減らせるのでしょうか。

研究者たちはまず、正確な情報提供と教育の必要性を強調しています。

現在、若者が首絞めセックスに関する知識を得る場はSNSやポルノなどに偏っており、そこで語られるテクニックや安全策は科学的根拠に乏しい場合が多いからです。

また、BDSMの専門家や医療従事者からも「リスクが高すぎて推奨できない」という声が根強く、医学的見地から安全を保証できる基準は確立されていません。

さらに、首絞めセックスを含む“性的リスク行為”全般において、同意や信頼以前に「どのような危険があり、それをどう最小限にするか」を学ぶ機会を作る必要があると考えられています。

日本でも性的同意の重要性が認識されつつありますが、その枠組みに「高度に危険なプレイ」をめぐるリスク啓発をどう組み込むかは、まだ大きな課題といえます。 

総じて、首絞めセックスは「最も慎重に向き合うべき行為の一つ」であり、自分と相手の命に関わる重大なリスクがあることを忘れてはいけません。

今回の研究が強調するように、たとえ同意や信頼があっても深い理解と対話が欠ければ危険を軽視しがちです。

首絞め行為のリスクをより正確に伝え、医学的知識や応急処置の必要性などを包括した情報が広く共有されることが、今まさに求められているといえるでしょう。

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元論文

Choking/Strangulation During Sex: Understanding and Negotiating “Safety” Among 18-35 Year Old Australians
https://doi.org/10.1007/s10508-025-03097-3

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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