「選択し、自分をコントロールする」ことが制御不能な世界における”最大の力”

ストレス

私たちは、いつ何が生じるか分からない、「保証のない世界」で生きています。

気候変動、感染症の流行、経済不安、家族の病気や失業、次に何が起こるかを誰も予測できません。

そんな中で、自分で選択し、コントロールする力を十分に発揮させることは、混沌とした世界において心の安定を保つために欠かせない要素です。

この重要性を指摘するのは、米レバノン・バレー・カレッジのメンタルヘルスカウンセリングの専門家シンシア・ベジャー氏です。

この記事では、彼女の見解をもとに、「選択・コントロール」がどのように人生に影響するのかをひもときながら、日常の中でその力をうまく活かすための心理的テクニックを紹介します

目次

  • 制御不能な世界で「自分だけはコントロールできる」
  • 「自分をコントロールする力」を磨く4つのテクニック

制御不能な世界で「自分だけはコントロールできる」

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嵐の中、無意識にハンドルをぎゅっと握ってしまうもの / Credit:Canva

強い雨が降る中で運転しているとき、私たちは無意識のうちにハンドルをぎゅっと握りしめます。

もちろん、雨を止めることも、風の向きを変えることも、他の車を動かすこともできません。

それでも私たちは「何かしている」という感覚を得るために、コントロールしようとします。

この「握りしめる」という行動は、心理学的には安全や安心を得ようとする防衛本能です。

人は、世界に「予測不可能なこと」や「自分の意思では変えられないこと」が多すぎると、不安を抱きます。

その不安を和らげる手段として、少しでも自分が支配できる範囲を探して、そこにエネルギーを注ぐのです。

過去の研究もこの傾向を裏付けています。

1976年にエレン・ランガーとジュディス・ローディンが行った研究では、老人ホームの入居者に「どこに植物を置くか」「どの食事を選ぶか」といった小さな選択を与えるだけで、身体的健康や寿命に好影響が見られました。

また、1975年の別の研究では、何をやっても報われない状況に置かれた動物は、次第に行動を起こさなくなり、うつ状態に陥ることが明らかになりました。

これは人間にも当てはまり、「何もできない」「どうせ無理だ」と感じると、自尊心が損なわれていきます。

だからこそ、人は「少しでも自分が選べるもの」にすがります。

失恋をして心が乱れているときに、クローゼットを整理したり、SNSの写真を削除したりするのは、その象徴です。

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自分で決めてコントロールすることが、心身に安定をもたらす / Credit:Canva

「自分には、まだ決められることがある」

その感覚が、人を前に進ませる原動力になるのです。

一方で、こう自問することは重要です。

「自分は自分が立てた予定やルーティンにとらわれすぎていないだろうか」

「自分を守るためのコントロールが、知らぬ間に自分を縛ってはいないだろうか」

コントロールは両刃の剣です。

適切なコントロールは人生を前向きに進める力となりますが、度を越すと私たち自身を縛る「檻」になってしまいます。

ルールに固執しすぎたり、完璧を求めすぎたりすると、柔軟性を失い、他者とのつながりも損なわれます。

「自分を守るはずのコントロール」が、「自分を孤立させる檻」になるのです。

そのため、コントロールをすべて否定するのではなく、それとの付き合い方を理解し、扱い方に柔軟性を持つことが大切です。

では、どうすればコントロールを上手く活用できるでしょうか。

「自分をコントロールする力」を磨く4つのテクニック

では、コントロールを健全に保ち、私たちの味方にするにはどうすれば良いのでしょうか?

シンシア・ベジャー博士は、以下の4つの心理的テクニックを提案しています。

1. 「コントロールできること/できないこと」を仕分ける

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天気は制御できないが、傘をさすかどうか、予定を変更するかどうかはコントロールできる / Credit:Canva

これは一見すると単純な作業に思えますが、非常に強力です。

たとえば、天気を変えることはできませんが、傘を持って外出することはできます。

もしくは、予定を延期するか、室内イベントに切り替えることもできるかもしれません。

友人とのピクニックが雨で中止になった場合でも、自宅で一緒に映画を観るプランに切り替えることで、時間を有意義に使うことができるというわけです。

このように、「これは自分にできることか?それとも違うか?」と問うだけで、思考が整理され、行動の指針が明確になります。

2. 「白黒思考」を手放し、「両方」思考を身につける

人は「全部うまくいかなければ失敗」と考えがちです。

しかし、人生はもっとグラデーションのあるものです。

「悲しみと感謝が同時にある」

「失ったけれど得たものもある」

このように、相反する感情や現実が同時に存在しても良いのです。

「両方ある」という思考の柔軟さが、極端な感情に振り回されるのを防いでくれます。

3. ルーティンを持つ、でも固執しない

毎朝の散歩、週末の読書、夜のストレッチなど、これらは生活にリズムと安心感をもたらします。

しかし、それが「やらなきゃ不安」「休むと罪悪感」となってしまうと本末転倒です。

「この習慣は自分に安心感を与えているか?それともストレス源になっているか?」と問い直してみましょう。

必要に応じて、軽くしたり、別のものに変えたりする柔軟性が大切です。

4. 「反応」ではなく「対応」を選ぶ

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周囲は変えられない。でも自分がどう「対応」するかは決められる / Credit:Canva

怒りや不安を感じたとき、即座にメールを返したり、言い返したりしたくなることがあります。

でも一呼吸置くことで、より意図的な「対応」ができるようになります。

たとえば、誰かに厳しいことを言われたとき、「すぐに何かを言い返す」よりも「少し時間を置いて冷静に話す」方が関係性が良くなるかもしれません。

次の自問は役に立ちます。

自分は対応しているのだろうか。それともただ反応しているだけなのだろうか

ここまでで、自分を正しくコントロールする4つの方法を考えました。

人生は、自分ではどうにもならないことの連続かもしれません。

それでも、「どんな姿勢で向き合うか」は、常に私たち自身が選べることです。

「嵐を止めることはできなくても、自分の舵を握ることはできる」

それが、私たちにとっての最大の力なのです。

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参考文献

In a Chaotic World, Your Greatest Power Is Self-Control
https://www.psychologytoday.com/us/blog/meaningful-connections/202507/in-a-chaotic-world-your-greatest-power-is-self-control

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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