「過剰な空想好き」は新たな分類の精神疾患かもしれない

ADHD

皆さんは普段、どれくらい「空想」や「妄想」にふけっているでしょうか?

ちょっとの隙間時間や寝る前に空想することはいたって普通ですが、人によっては、1日に何時間も空想の世界に没頭してしまうこともあるかもしれません。

ただ過度な空想好きは集中力の欠如や、人間関係の構築に影響するため、「不適応性白昼夢(Maladaptive daydreaming、MD)」という一種の症状名が付けられています。

これはまだ正式な精神疾患としては認識されているわけではなく、たいていの場合、「注意欠如・多動症(ADHD)」とまとめて診断されることがほとんどです。

しかし、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学(Ben-Gurion University of the Negev)の研究チームは、MDが、ADHDに見られる注意欠陥とは違うことから、両者を区別すべきである、と主張しています。

この議論は2025年現在も続いていますが、MDとADHDの空想には、どんな違いがあるのでしょうか?

研究の詳細は、2022年3月31日付で学術誌『Journal of Clinical Psychology』に掲載されています。

目次

  • MDとADHDの空想は何が違うのか?
  • MDの症状はADHDでは説明しきれない

MDとADHDの空想は何が違うのか?

ADHDの人の中には、空想に耽ることを原因とした注意欠陥が確認されています。

では、社会生活に支障を来すレベルの空想好き(MD)の人は、ADHDであると見なすべきなのでしょうか?

しかし研究チームによると、MDとADHDの空想には、以下の違いがあるといいます。

まず、MDは「意図的・意識的に」過剰なほど詳細な空想に自己を没入させるものです。

それにより、注意力が阻害され、日常的な認知機能に支障が出たり、不安症や孤独感といった精神疾患を起こします。

一方のADHDは、今行っているタスクと無関係な思考に「自動的・散発的に」注意が移るものです。

そのため、ADHDにともなう空想は「マインド・ワンダリング(mind wandering、心がぶらつく状態)」と表現する方が適切であると指摘されます。

本研究主任のニリト・ソファー=デュデク(Nirit Soffer-Dudek)氏は「もし、あなたの空想が、一時的な心の迷いから生じる注意散漫であるならADHDを、精巧な物語や鮮明な風景の中に強迫的に惹きつけられるならMDを示す」と説明します。

MDとADHDの空想の違いは意識的か無意識的か
MDとADHDの空想の違いは意識的か無意識的か / Credit: jp.depositphotos

両者は確かに、注意力が低下するという点で症状に重なる部分がありますが、デュデク氏は、以前の研究と今回の研究の結果を合わせて、「MDとADHDは区別すべきである」と指摘します。

まず、以前の研究では、MD症状を示す40人の患者を集め、一人一人に詳細な臨床診断を行いました。

すると、77%がADHDの基準を満たしていたものの、大半は「不注意のみ(多動性なし)」を示しています。

またアンケート調査によると、患者は、課されたタスクに集中できない理由について、「自発的に空想にはまった結果だ」と回答しており、彼らの症状の多くは、ADHDと見なすより、MDによってよりよく説明されました。

これらの点から、デュデク氏は「MDとADHDのラベリング(区分け)が不正確なのではないか」と考えました。

MDの症状はADHDでは説明しきれない

そして今回の研究では、先と反対に、ADHD患者におけるMDの割合を調べることで、両者が異なる精神疾患であるかどうかを確かめました。

「もし両者が独立した疾患であれば、ADHD患者の間でも同様にMDの割合が高くなる、とは考えられないから」と、デュデク氏は話します。

実験では、ADHD患者98人に、MDおよびADHDの症状、心理的苦痛の尺度などを評価するオンライン質問票に回答してもらいました。

その結果、ADHD患者においてMDの基準を満たしたのは、わずか20〜23%だったのです。

この割合は、先に報告されたMD患者におけるADHDの発生率(約77%)よりもはるかに低くなっています。

これについて、デュデク氏は「MDがADHDでは説明できないユニークな特徴を持ち、2つの構成要素が異なることを示唆する」と指摘。

その上で、「MDは独立した精神現象であり、しばしば注意の欠陥を生じ、場合によってはADHDの基準を満たすこともあるが、必ずしもその逆ではない 」と結論しています。

加えて、ADHDとMDの両方の基準を満たした参加者は、うつ病と孤独感が高く、自尊心の低下を示していましたが、その症状の高まりは、ADHDの症状の重さでは説明できず、MD独自の影響が示されました。

このことからも、ADHDとMDを区別し、それぞれに合った適切な診断と精神療法が必要となる可能性があります。

この主張については、最近の研究(2025年)でも、「没入的空想は単なる注意散漫とは異なるものだ」という主張がなされていてこの議論が続いています。

MDのような過剰空想は精神を不安定にさせる危険性も
MDのような過剰空想は精神を不安定にさせる危険性も / Credit: canva

空想そのものは病気でもなんでもなく、むしろ、人類が発展するための武器と言えます。

しかし、空想も過剰になりすぎると、目の前の事に集中することが難しくなり、リアルな人間関係の構築を忌避してしまうようになります。

これが不安やうつ病、孤独感やコミュニケーション障害を引き起こします。

もし、自分の力では空想が制御できなくなっていると感じたら、一度、医師の診断を受けた方が良いかもしれません。

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参考文献

Study suggests maladaptive daydreaming should be classified as a unique mental disorder, distinct from ADHD
https://www.psypost.org/2022/04/study-suggests-maladaptive-daydreaming-should-be-classified-as-a-unique-mental-disorder-distinct-from-adhd-63025

元論文

Could immersive daydreaming underlie a deficit in attention? The prevalence and characteristics of maladaptive daydreaming in individuals with attention-deficit/hyperactivity disorder
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jclp.23355

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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