「講義を記録しない」「読書をしない」大学生が10~20%!読解力も低いと判明

スマートフォンやタブレット、パソコンの普及によって、紙のノートや本に触れる機会が減少しています。

そんな中、そのことが学生の学力や思考力にどのような影響を及ぼしているのかが懸念されています。

東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授と、一般社団法人 応用脳科学コンソーシアム(CAN)、および複数の民間団体が共同で、大学生を対象とした全国規模の調査を行いました。

その結果、講義を記録しない人が10%、本や新聞・新聞を全く読まない人が20%もいると判明。読解力も低いと分かっています。

読み書きの習慣と読解力の関係を科学的に分析したこの研究成果は、2025年9月1日に『プレスリリース』として公表されました。

目次

  • 現代の大学生の「読む」「書く」習慣を調査
  • 「記録しない」「読書しない」大学生は2割!読解力の低下につながっている

現代の大学生の「読む」「書く」習慣を調査

この研究の出発点となったのは、教育現場における「紙離れ」「読書離れ」です。

近年、授業の記録はノートからタブレットやPCへと移行し、活字文化もSNSや動画コンテンツに押されている状況が続いています。

しかし、学習の基盤とも言える「書くこと」と「読むこと」が軽視されることで、脳の働きにどのような変化が起きるのかについては、これまで明確なエビデンスがありませんでした。

この問題に取り組んだのが、東京大学の酒井邦嘉教授率いる研究チームです。

彼らは一般社団法人 応用脳科学コンソーシアム(CAN)と共同で、全国の大学生・大学院生・短大生(18-29歳)1062名を対象とした調査を2025年3月から8月にかけて実施しました。

調査は、NTTコム リサーチのアンケートモニターを通じて行われています。

調査内容は多岐にわたります。

例えば、講義中の記録習慣、予定管理のスタイル、日常のメモや日記、SNSの使用など「書く」行動に関する情報が調査されました。

また、本・新聞・雑誌をどの程度読むか、紙と電子の使い分け、読書時間、読書ジャンルなど「読む」行動についても詳細に問いました。

また、読み書きの習慣が読解力にどのような影響を及ぼすかを測定するため、調査対象の一部には「文章読解・作成能力検定(文章検)」準2級の問題が課されました。

これは高校卒業〜大学初年次レベルの読解力を測るもので、理解力の指標として信頼性の高い試験です。

では、現代の大学生の「読む」「書く」習慣に関してどんなことが判明したのでしょうか。

「記録しない」「読書しない」大学生は2割!読解力の低下につながっている

調査の結果、非常に興味深い事実が明らかになりました。

まず、大学等の講義で「記録をしない」と回答した学生は10%(107名)日常の予定を「紙にも電子にも記録しない」と答えた学生は24%(255名)に達していました。

また、本や新聞・雑誌を「まったく読まない」と答えた学生も20%(221名)存在していたのです。

これは、学習に不可欠と思われてきた「書くこと」「読むこと」が、意外にも多くの学生の中で実践されていないことを示しています。

さらに深刻なのは、こうした習慣の有無が、学生の読解力に明確な差を生んでいる点です。

たとえば、講義内容を記録している学生の文章検の正答率は57%でしたが、記録しない学生は32%にとどまりました。

この32%というスコアは、ランダムに選択肢を選んだ場合とほぼ同じレベルであり、図や文章の内容がほとんど理解できていない状態であることが示唆されます。

同様に、読書習慣の有無によっても差が見られました。

日常的に本や新聞・雑誌を読む学生の正答率は56%であったのに対し、読まない学生(50名)は39%だったのです。

そして読む・書くの両方を実践している学生ほど、読解力が高くなるという累積効果も統計的に明らかになりました。

なぜこのような差が生じるのでしょうか?

研究者たちによれば、「読むこと」は外部情報の“入力”であり、「書くこと」はそれを再構成する“出力”です。

これらの行動は、脳の言語ネットワークを活性化させるとともに、記憶・想像・推論といった複数の認知プロセスを連動させる働きがあります。

つまり、「読む」「書く」という行為は単なる学習手段ではなく、脳の中で知識を“構造化”するための重要な手段なのです。

だからこそ、大学生の「読む」「書く」の習慣が、読解力に大きな影響を及ぼしていたのです。

ちなみに調査では、「紙の使用率」と「記録スタイル」の関係にも注目が集まりました。

基本的にはどちらのスタイルでも内容を要約して記録する人が最多でした。

しかし、その中でも講義記録で紙を100%使用している学生は、内容を詳細に記録する傾向が強く、逆に電子機器を多く使う学生は印象に残った部分だけを記録する“最低限スタイル”にとどまる傾向がありました。

こうした傾向からも、深い理解や丁寧な情報処理の違いが生じている可能性があります。

この研究は、教育方法の見直しを迫るだけでなく、「読む・書く」という人類の根源的な行動が、現代の学習においても依然として決定的に重要であることを、脳科学的観点から再確認させてくれるものでした。

読むことと書くこと。

それは単なる学習行動ではなく、知性を育てる“脳の営み”なのです。

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参考文献

【研究成果】デジタル時代の学生に対し読み書きの実態を調査 ~「書く」ことと「読む」ことの累積効果が明らかに~
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20250901140000.html

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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