「ダイエットしなきゃ」と思っているのに、こってりした唐揚げやラーメンの誘惑に負けてしまいます。
そんな自己嫌悪を感じがちな人たちに朗報です。
中国・四川大学(Sichuan University)の研究チームが、脂肪を捉えて吸収を抑えるマイクロビーズを開発し、なんと高脂肪食を食べながらでもラットの体重を17%以上減少させることに成功しました。
しかもこのビーズは薬ではありません。
副作用もなく、ただ飲むだけで脂肪の吸収を妨げ、体外に排出してしまうというのです。
この研究成果は、2025年2月28日付で『Cell Biomaterials』誌に掲載されました。
目次
- 脂肪を捉えて排出するマイクロビーズを開発
- ビーズを与えたラットの体重が1カ月で17%減
脂肪を捉えて排出するマイクロビーズを開発
肥満は、世界で8億人以上が悩む現代病です。
その要因にはさまざまなものがありますが、特に高脂肪食によるカロリー過剰摂取は重要なリスクのひとつとされています。
これまで肥満治療には、生活習慣の改善、薬物療法(たとえばオルリスタットやセマグルチド)、外科手術などが用いられてきましたが、それぞれに副作用やコスト、心理的ハードルが存在していました。
今回の研究が注目されたのは、それらに代わる副作用のない物理的アプローチである点にあります。
研究チームが開発したのは、PmFLマイクロビーズ(Polyphenol-mediated Fat-Locking microbeads)と呼ばれる食用カプセルです。
このビーズの構造は非常にユニークです。
まず、緑茶由来のポリフェノールと、ビタミンEをナノスケールで組み合わせ、脂肪と結合する安定したナノ構造を形成します。
これをさらに、アルギン酸(海藻由来の食物繊維)でできたマイクロサイズの多孔質カプセルに格納し、腸まで届く耐酸性の”食べられる粒”として完成させました。
このビーズが体内に入ると、まず胃では収縮して酸に耐える構造を保ちます。
次に腸に到達すると、pHの変化によりアルギン酸コーティングが膨張し、表面積が拡大します。
その結果、食事由来の脂肪滴を効率よく吸着できるようになります。
そして摂取した脂肪は、ビーズ内部のナノ構造に封じ込められていくのです。
最終的には、これらの脂肪が体内に吸収されることなく、便と一緒に安全に排出されます。
このように、PmFLマイクロビーズは薬理作用ではなく、物理・化学的な吸着作用によって脂肪の吸収をブロックする新しいアプローチです。
しかもこのビーズは、食後に飲むだけで効果を発揮します。
では,実験ではどれほどの効果があったのでしょうか。
ビーズを与えたラットの体重が1カ月で17%減
ビーズの効果は、ラットを用いた動物実験で確認されました。
研究チームは、ラットを3つのグループに分けて実験を行いました。
1つ目のグループには通常食、2つ目のグループには高脂肪食のみ、3つ目のグループには高脂肪食に加えてPmFLマイクロビーズを毎日経口投与しました。
この実験は30日間にわたって行われました。
その結果、高脂肪食のみを与えられたラットでは体重が増加しましたが、PmFLマイクロビーズを併用したグループでは、体重が17%以上も減少しました。
加えて、皮下脂肪や内臓脂肪の減少、肝臓への脂肪沈着の抑制、中性脂肪やLDLなどの血中脂質の改善が見られました。
また、腸内の炎症マーカーが低下し、腸のバリア機能の維持にも寄与していたことが報告されています。
さらに血糖値も安定しており、低血糖などの副作用も確認されませんでした。
この結果は、PmFLマイクロビーズは、消化器系に悪影響を与えることなく脂肪吸収を抑制し、体重管理と健康状態の改善を両立できる理想的な手段となり得ることを示唆しています。
しかも薬にありがちな食欲の抑制や代謝への影響がないため、日常の食事を変えることなく自然にダイエットが可能になります。
研究チームは、「私たちのマイクロビーズは、消化管内で脂肪を磁石のように引き寄せ、体に吸収される前に取り除くことができる」と語っています。
ただし、この研究にはまだ課題もあります。
現在はあくまで動物実験段階であり、ヒトにおける安全性や有効性は今後の検証が必要です。
また脂肪の吸収を妨げることによって、脂溶性ビタミンの吸収に悪影響が出る可能性も指摘されています。
さらに長期的な摂取による影響についても、現時点では明らかになっていません。
こうした点を確認するため、研究チームは現在、中国国内のバイオ企業や病院と連携し、26人規模の初期的な臨床試験を進めています。
今後数年以内には、一般向けのサプリメントや食品としての応用も期待されています。
運動も、カロリー計算も、我慢も大切ですが、どうしても継続が難しいのがダイエットの現実です。
もし、食後に1粒飲むだけで脂肪を体外に排出できるような食品があったとしたらどうでしょうか。
“ラクして健康に”を実現する時代がますます近づいているのかもしれません。
参考文献
Plant-based microbeads act as ‘fat magnets’ for drug-free weight loss
https://newatlas.com/disease/obesity/plant-based-microbeads-drug-free-weight-loss/
Fat-trapping microbeads provide drug-free weight loss in rats, study finds
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094206
元論文
Oral polyphenol-based microbeads with synergistic demulsification and fat locking for obesity treatment
https://doi.org/10.1016/j.celbio.2025.100019
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部