「絶滅したダイアウルフの復活」は事実か!?3匹の遺伝子編集生物が元気に育つ【専門家の意見】

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絶滅したはずのダイアウルフが、ついに現代に復活した」──そんな驚きのニュースが2025年、アメリカから飛び込んできました。

報道によると、バイオテクノロジー企業Colossal Biosciencesによって、約1万3千年前に絶滅したダイアウルフのDNAをもとに作り出し生物が、健康に育ちつつあるというのです。

彼らはこの動物に「ロムルス」「レムス」「カリーシ」と名付け、世界初の“デ・エクスティンクション(脱絶滅)”成功例として華々しく発表しました。

しかし、果たしてこれは本当に「ダイアウルフの復活」と言えるのでしょうか?

それとも、まったく別の“何か”が生まれたに過ぎないのでしょうか?

目次

  • 「絶滅したダイアウルフが復活した」という報道が広まる
  • 「復活したダイアウルフ!?」が成長――彼らの主張は正しいのか

「絶滅したダイアウルフが復活した」という報道が広まる

ダイアウルフ(Aenocyon dirus)は、更新世の北アメリカ大陸に君臨していた大型肉食獣です。

見た目こそ現代のオオカミ(Canis lupus)に似ていますが、実際には異なる存在でした。

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ダイアウルフの化石標本 / Credit:Wikipedia Commons

彼らの体重は平均で約68kg、頭胴長約125cm、尾長約60cm、体高約80cmとオオカミよりも大きく、どっしりとした体つきであったと推定されています。

顎の力も極めて強力で、大型の草食動物を狩るのに適した構造をしていました。

化石記録によれば、主にマンモスやバイソンなどの死骸を漁っていたと考えられています。

しかし気候変動と大型獣の絶滅により、ダイアウルフ自身も約1万3千年前に地上から姿を消しました。

その後はカリフォルニア州ロサンゼルスののタールピットなどで大量の化石が見つかり、古生物学者の関心を集めてきました。

こうした中、2021年に設立されたスタートアップ企業Colossal Biosciencesが「絶滅種の復活」をビジネスとして掲げ、「ダイアウルフ・プロジェクト」を本格始動させたのです。

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遺伝子編集を施した生物が誕生。「ダイアウルフの復活」と報道される / Credit:Colossal Biosciences

彼らは古代DNAを収集・解析し、その情報をもとに現存する動物(今回はオオカミ)に遺伝子編集を施して、できる限りダイアウルフの姿・特性に近づけようとしました。

そして2024年10月、このプロジェクトで誕生したオスの双子に「ロムルス」「レムス」、2カ月後に誕生したメスに「カリーシ」という名がつけられました。

この真っ白で可愛らしい赤ちゃんたちの誕生は、「絶滅したはずのダイアウルフが、ついに現代に復活した」と大きく報道されました。

しかし、当然ながら疑問が残ります。

本当にそれは「ダイアウルフの復活」と言えるのでしょうか?

それとも、ただの“ダイアウルフ風”の新種生物なのでしょうか?

次は、その科学的実態に迫ってみましょう。

「復活したダイアウルフ!?」が成長――彼らの主張は正しいのか

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誕生した生物は元気に成長 / Credit:Colossal Biosciences

Colossal Biosciences社が採用した技術は、最先端の遺伝子編集技術をベースにしています。

13,000年前と72,000年前のダイアウルフの化石から得られた遺伝子配列をもとに、現存のオオカミのDNAのうち20箇所を改変しました。

例えば、遺伝子編集では毛色や体の大きさ、耳や頭蓋骨の形状に関係する複数の遺伝子が編集されました。

これにより、見た目や行動特性が古代のダイアウルフに似た個体が3匹誕生しています。

彼らは白い毛皮、大きな体・歯・顎、広い顎、筋肉質な脚、特徴的な遠吠えをもっています。

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オオカミよりも大きくどっしりとした姿に / Credit:Colossal Biosciences

現在、それぞれの個体は健康で元気に成長した姿を見せています。

特に「ロムルス」は高い知能と社会性を示しているといいます。

この発表に対して、SNSでは「ジュラシック・パークが現実に!」「次はサーベルタイガーか?」などと盛り上がりを見せました。

一方で科学者たちは慎重な態度を崩していません。

多くの研究者は「これはあくまで“ダイアウルフの遺伝子を参考にした改変種”であり、純粋なダイアウルフの復活ではない」と指摘します。

実際、現存するオオカミをベースにしているため、遺伝子全体の大部分は現代種のままです。

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ダイアウルフの復活か、それとも遺伝子編集されたオオカミの雑種か / Credit:Colossal Biosciences

つまり、仮に見た目が似ていたとしても、遺伝的にはオオカミに確実に近い存在であり、新しく誕生した3匹は「遺伝子編集されたオオカミの雑種」だというのです。

とはいえ、科学者たちはこの出来事を全く無視することもできません。

ニュージーランド・オタゴ大学(University of Otago)のマイケル・ナップ氏は「これはダイアウルフの復活ではありません。しかし、これらのオオカミの誕生が遺伝学における大きな進歩であることは否定できません」と述べています。

今回の発表は多くの議論を呼んでいますが、Colossal Biosciences社は前進を続けています。

もしかしたら近いうちに、また「新たな絶滅種が復活した」という報道がなされるかもしれません。

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参考文献

Is the dire wolf back from extinction – or is it just a gimmick?
https://newatlas.com/biology/theres-no-business-like-de-extinction-business-the-dire-wolf-lives/

Colossal Announces World’s First De-Extinction: Birth of Dire Wolves
https://www.businesswire.com/news/home/20250407444322/en/Colossal-Announces-Worlds-First-De-Extinction-Birth-of-Dire-Wolves

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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