「最も黒い布」を開発、極楽鳥の羽毛から着想（画像あり）

私たちが普段着ている黒い服を、今よりさらに暗くできるでしょうか。

黒い染料や素材は数多くありますが、光そのものを吸い込み、方向が変わっても黒さを保つ布を作ることは容易ではありません。

こうした中、アメリカのコーネル大学（Cornell University）の研究チームが、自然界の“究極の黒”を持つ鳥に着目し、世界で最も暗い布の開発に成功しました。

鍵になったのは極楽鳥の一種、オオウロコフウチョウ（Lophorina magnifica）が持つ特殊な羽毛構造で、この仕組みを人工的に再現することで反射率わずか0.13％という極限の黒さを実現しています。

この成果は2025年11月26日付の『Nature Communications』に掲載されています。

極楽鳥から学び、「最も黒い布」の開発に成功

今回の研究が目指したのは、既存の超黒素材が抱える欠点を克服しながら、自然が作り出した「光を飲み込む黒」を布地で再現することでした。

超黒素材として知られるベンタブラック（Vantablack）は極めて低い反射率（最大99.965%）を持ちますが、高価で加工が難しく、柔軟性に乏しいため、衣服として利用することは困難でした。

また多くの人工の超黒素材は観察角度に弱く、正面では非常に暗く見えても、斜めから光が当たると黒さが薄れるという問題があります。

そこで研究チームが注目したのは、自然界にすでに「光を内部に閉じ込めてしまう羽毛構造」が存在していることでした。

フウチョウ科（「極楽鳥」の別名で知られる）のオオウロコフウチョウ（Lophorina magnifica）の羽毛は、黒色のメラニン色素に加え、微細な突起や溝が階層状に並ぶ構造を持ち、光を内部で何度も反射させて外に戻さない仕組みを備えています。

この構造によって羽毛はごくわずかしか光を跳ね返さず、正面から見ると光が消えたような深い黒が生まれています。

この黒さは単なる色素の効果ではなく、構造そのものが光を閉じ込めることで生まれています。

研究チームは、この自然界の仕組みこそが人工素材の弱点を補い、新しい布地に生かせると考え、「Ultra-Black（ウルトラブラック）」の布を開発することにしました。

ウルトラブラックは一般に反射率が0.5％未満の極端に暗い素材を指し、魚類や蝶類、そしてフウチョウ科の鳥など、自然界のさまざまな生物に見られます。

そして今回、開発された布「ウルトラブラック・ウール（UBW）」は平均反射率0.13％を記録し、これまで報告されている中で、「最も黒い布」となりました。（画像はこちら※プレスリリース）

さらにUBWは角度によって見え方が変わらず、正面でも斜めでも深い黒を保ち続けることが確認されました。

これは自然界のオオウロコフウチョウの羽毛でも完全には達成していない特徴であり、人工技術が自然のしくみをうまく生かしつつ、一部ではそれを上回った例として注目されて例だと言えます。

では実際に、「最も黒い布」はどのような工程で作られているのでしょうか。

研究チームは一般的なメリノウールを基材とし、自然界の光吸収構造を再現するために2段階の加工を施しました。

まず布全体をポリドーパミンで染色し、メラニンに近い黒色が繊維内部にまで浸透するように処理しました。

この工程は後に表面を削るプラズマ処理で色が薄くなることを防ぐためにも必要で、布全体を均一に暗く保つ役割を果たしました。

次に布をプラズマ処理し、表面をナノレベルで削ることで極めて細い繊維をつくり、それらが倒れて束状になった構造、さらにナノメートルサイズの微細な孔を形成しました。

これらの微細構造が組み合わさることで光が繊維内部で何度も散乱し、外に逃げにくい“光の迷路”が布の表面に生まれるのです。

その結果、UBWは角度に依存しない強力な光吸収性能を示し、極端に低い反射率を実現することができました。

この加工を施しても、「布地としての柔らかさ」や「通気性」は維持されており、圧縮や折り曲げによる黒さの劣化もほとんどありませんでした。

さらに洗浄処理を数回加えても黒さが大きく変化せず、実際の衣服としての利用可能性が示されています。

研究チームはこの技術を羊毛だけでなく絹や綿にも応用できると考えており、すでに特許出願の準備を進めています。

この最も黒い布であるUBWは、光の吸収が非常に効率的であるため、望遠鏡やカメラ内部の迷光防止、太陽熱を利用する装置、熱迷彩技術、舞台演出や展示芸術など、多様な領域で応用が期待されています。

自然の知恵と人工技術が交わることで生まれた今回の成果は、私たちが日常で使う布が持つ可能性を大きく広げてくれるかもしれません。

参考文献

Bird-of-paradise inspires darkest fabric ever made
https://news.cornell.edu/stories/2025/12/bird-paradise-inspires-darkest-fabric-ever-made

元論文

Ultrablack wool textiles inspired by hierarchical avian structure
https://doi.org/10.1038/s41467-025-65649-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー編集部