1978年、ドイツ南西部ホルツマーデンの採石場で見つかった1体の海棲爬虫類の化石。
その化石は、ほぼ完全な骨格を保ちつつも、長らく博物館の倉庫に眠り続けていました。
しかし今、独シュツットガルト州立自然史博物館(SSMNH)の研究によって、新種のプレシオサウルス類と判明し、新たに「プレシオネクテス・ロンギコルム(Plesionectes longicollum)」との学名が与えられています。
この発見は、約1億8300万年前のジュラ紀初期に生きていた海洋爬虫類の多様性を見直す大きなきっかけとなりそうです。
研究の詳細は2025年8月4日付で科学雑誌『PeerJ』に掲載されています。
目次
- 半世紀の沈黙を破った「新種の首長竜」
- 激変の時代を生き抜いた未知の海洋種
半世紀の沈黙を破った「新種の首長竜」
プレシオネクテス・ロンギコルムの化石は、1978年に発見されて以来、簡単な報告以外にはほとんど調査されず、約50年間も詳細な分析が行われないままでした。
シュツットガルト州立自然史博物館に保管されていた標本(SMNS 51945)は、非常に保存状態が良く、化石化した軟組織の痕跡まで確認できるほどでしたが、これまで正確な分類ができていなかったのです。

今回の研究で注目されたのは、その“首”の異常な長さでした。
なんと頸椎が43個以上も連なっており、首の長さは全身の約40%を占める1.25メートルにも及びます。
これは同時代の他のプレシオサウルス類と比べても極めて長い首の長さです。
さらに背骨上部の突起が異常に低く、首から背中にかけてのシルエットが他の近縁種とは明らかに異なることも判明しました。
チームはこの独特な骨格構造に注目し、「これは既知のどの種にも当てはまらない」として、新属・新種としての記載に踏み切ったのです。
また、この標本がまだ成体ではなかった(骨学的には未成熟)にもかかわらず、特徴が明確だったことも、新種と認定する決め手となりました。
体長は約3.2メートルと推定され、ジュラ紀の他のプレシオサウルス類と比べても十分に大型でした。
激変の時代を生き抜いた未知の海洋種
プレシオネクテス・ロンギコルムが生きていたのは、地球史でも特に重要な時代、トアルシアン期(約1億8300万年前)です。
この時期、地球ではトアルシアン海洋無酸素事変(Toarcian Oceanic Anoxic Event, TOAE)と呼ばれる大規模な環境変動が起きていました。
火山活動によって大量の二酸化炭素が放出され、海水温が急激に上昇、酸素が欠乏した海では多くの生物が絶滅に追い込まれました。
この結果、海水温は緯度によって異なるものの、1~6℃上昇したとされています。
最盛期には、トアルシアン期の表層海水温は平均21℃に達していました。
そうした“海の危機”の最中に、この新種の首長竜は海を泳いでいたのです。
同チームのダニエル・マジア(Daniel Madzia)氏は、今回の発見について「地球の重要な時期における海洋生態系の進化のパズルに新たなピースを加えるものです」と説明しています。
参考文献
New ancient marine reptile species discovered in Germany’s famous Jurassic fossil beds
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093140
New long-necked marine reptile species discovered in Germany’s famous Jurassic fossil beds
https://phys.org/news/2025-07-necked-marine-reptile-species-germany.html
元論文
An unusual early-diverging plesiosauroid from the Lower Jurassic Posidonia Shale of Holzmaden, Germany
https://peerj.com/articles/19665/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部