あなたは子どもの頃、学校まで歩いたり自転車で通ったりしていましたか?
その経験は、もしかしたらあなたの子どもにも影響しているかもしれません。
フィンランドのユヴァスキュラ大学(University of Jyväskylä)の研究チームは、「親が子どもの頃に歩いて、または自転車で学校に通っていたかどうかが、その子ども世代の通学行動にも影響している」ことを明らかにしました。
研究の詳細は、2025年6月3日付の『European Journal of Public Health』誌に掲載されました。
目次
- 徒歩や自転車など「自分の力で学校に通う」習慣が、子どもの健康を支える
- 親が「徒歩・自転車」通学だと、子供も同じ方法で通学しやすくなる
徒歩や自転車など「自分の力で学校に通う」習慣が、子どもの健康を支える
「Active Commuting to School: ACS(アクティブな通学)」とは、歩行や自転車など自分の力で学校に通うことを指します。
近年、世界的に子どもの身体活動量の低下が問題視されており、その解決策の一つとしてACSが注目されています。
運動不足による生活習慣病リスクは早くから積み重なっていくため、日常の中で無理なく活動を取り入れられるACSは、公衆衛生の観点から非常に重要です。

ところが、この30〜40年でACSの割合は世界的に減少しています。
要因としては、都市構造の変化、学校統廃合による通学距離の延伸、交通安全への懸念などが挙げられます。
研究チームは、この減少傾向を逆転させるためには、なぜ・誰が・どのようにACSを選択するのかという背景を理解する必要があると考えました。
特に、親が子どもの行動に与える影響は幼少期ほど大きく、親の過去の経験や価値観は「暗黙のモデル」として受け継がれる可能性があります。
これを「世代間伝達(intergenerational transmission)」と呼びます。
今回の調査は、660組の親子を対象に、1980年代のフィンランドで小・中・高校生だった親(G1)と、その子ども世代(G2)の通学習慣を同じ年齢帯で比較。
世代ごとに通学距離、性別、居住地(都市か農村か)、親の学歴や世帯収入といった社会経済的要因も考慮しました。
親が「徒歩・自転車」通学だと、子供も同じ方法で通学しやすくなる
分析の結果、親世代が子どもの頃に自転車や徒歩で通学(ACS)していた場合、その子どももACSを選ぶ確率が控えめながら有意に高いことがわかりました。
親の通学の影響を子供も受けるのです。
研究チームは、この点、次のように語っています。
「親自身の徒歩や自転車通学通学に対する経験や態度は、子ども自身の通学をどのよにサポートするかに影響します。
子どもが歩いたり自転車に乗ったりして通学することに慣れていて、それを前向きにとらえている人は、その習慣を次の世代に伝える可能性が高くなるのです」
そしてこの親の影響は特に小学生時代で強くなり、中高生になると友人関係や部活動など、親以外の要因が増えて影響力は弱まります。

とはいえ、最も強い影響因子は世代を問わず「通学距離」であり、3kmを超えるとACS率が大きく低下しました。
学校まで1km未満の子どもはほぼ全員が徒歩や自転車通学をしていましたが、4kmになるとその割合は半分以下に減少しました。
加えて、研究チームの予想どおり、1980年代の親世代の方が現代の子ども世代よりもACS率が高かいことも分かりました。
都市化や学校の統廃合、保護者の送迎文化などが要因の一部となっているはずです。
この研究から得られる示唆は明確です。
短い通学距離と安全な環境を確保することがまず第一に重要であり、それがACSの普及に直結します。
また、親自身が日常的に歩きや自転車を利用する姿を見せることが、子どもの行動にも波及していきます。
さらに、こうした通学スタイルを幼少期から習慣として身につけることが、将来にわたって健康的な生活を支える基盤となります。
たとえば引っ越しや学校選びの際、「安全に歩いて通える距離かどうか」を重視するだけで、子どもの将来の健康にプラスの影響を与えられるかもしれません。
もしかしたら、そうした選択が孫の健康にまで影響を及ぼす可能性さえあります。
この研究は、私たちに「日々のちょっとした選択」が世代を超えて受け継がれることを教えてくれました。
参考文献
Did you walk or cycle to school as a child? Your children are likely to follow in your footsteps
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094104
元論文
Continuity of active commuting to school across two generations: the Cardiovascular Risk in Young Finns Study
https://doi.org/10.1093/eurpub/ckaf084
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部