「強さも軽さも、あきらめなくていい」
そんなかつてない素材が登場しました。
トロント大学(University of Toronto)と自動車部品メーカー Axiom Group Inc. は、共同で新しいグラフェン強化プラスチック「Gratek(グラテック)」を開発。
従来のガラス繊維強化ポリプロピレン(glass‑filled polypropylene)に比べて強度を約20%高め、重さを約18%軽くすることに成功しました。
この成果はカナダの研究支援機関Mitacs(ミタックス)主催の2025 Mitacs Innovation Award(イノベーション賞)も受賞し、大きな注目を集めています。
目次
- グラフェン入りプラスチックが強度と軽さをパワーアップ
- なぜGratekの性能は高いのか?グラフェンを組み込む工夫とは?
グラフェン入りプラスチックが強度と軽さをパワーアップ
自動車産業では、部品を「軽く、強く」することが重要な課題です。
これまではガラス繊維強化ポリプロピレン(GF‑PP)という素材が広く使われてきました。
これはポリプロピレン(PP)というプラスチックにたくさんのガラス繊維を混ぜて強度を上げたものです。
とはいえ、さらに軽く・強くしたいというニーズには応えきれなくなっており、新しい素材への期待は大きくなってきました。
この期待に応えるため、トロント大学の研究チームは、Axiom Groupと共同で研究を行い、GF‑PPにごく少量(全体の1%未満)のグラフェン(graphene)を加える方法に挑戦しました。
その結果生まれたのがGratek(グラテック)です。
Gratekは従来のGF‑PPに比べて、引っ張られる強さ(引張強度)が約20%アップ、重さが約18%軽くなるという、これまでにない性能を持っています。
さらにガラス繊維の使用量を減らせるため、部品の加工で使うドリルや刃物の傷みも抑えられるメリットも確認されました。
こうした実用的な成果が評価され、研究チームはカナダのMitacs Innovation Awardを受賞しました。
では、この新素材Gratekはどのようにして開発されたのでしょうか。
なぜGratekの性能は高いのか?グラフェンを組み込む工夫とは?
Gratekの画期的な性能の裏には、「グラフェン」という素材の驚きの特性、そしてそれを活かすための技術的な工夫があります。
グラフェンとは、炭素原子が蜂の巣(ハニカム)状に並んだ、わずか原子一層分だけの極薄いシート状の物質です。
強度は鋼鉄の100倍以上で、柔らかく曲げることもでき、熱や電気も非常によく通します。
この「夢の素材」をうまく利用できれば、軽くて丈夫な部品を作ることができると考えられてきました。
ところが、実際にプラスチックの中にグラフェンを加えようとすると凝集する傾向があり、逆に壊れやすくなる問題が生じます。
研究チームはこの問題をグラフェン粒子がガラス繊維の表面にだけ結びつくように工夫することで解決しました。
こうすることで、グラフェンが集まってしまうのを防ぎ、ガラス繊維そのものがグラフェンで強化されます。
その結果、ガラス繊維の量が少なくても十分な強さが得られ、結果的に部品を軽くできるという、まさに「一石二鳥」の素材となったのです。
Gratekはグラフェンという最先端素材の力を引き出し、自動車部品の「強さ」と「軽さ」を大きく進化させます。
Gratekは市場ではまだ入手できませんが、Axiom Groupは2025年の末までに大手自動車メーカーと契約する予定です。
参考文献
Graphene-boosted plastic makes auto parts 20% stronger, 18% lighter
https://newatlas.com/materials/gratek-graphene-automobile-plastic/
Axiom’s Commitment to Innovation in Manufacturing: Meet AX Gratek PP40
https://www.axiomplastics.com/axioms-commitment-to-innovation-in-manufacturing-meet-ax-gratek-pp40/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
