「小さいことでキレ過ぎ」人は何歳から怒りのコントロールが上手くなるのか?

心理学

Xの投稿などを見ていても、小さいことで怒り過ぎじゃない?と感じることは多いかもしれません。

しかし歳を取ると人は落ち着く印象もあります。

ヤクザ映画で若い頃は過激武闘派だった人物が歳をとって好々爺になったという定番の設定があるのもこの印象によるものでしょう。

実は、年齢を重ねることによって、怒りの感じ方やその扱い方が変化するということは、科学的にも裏付けられつつあります。

しかし、大体いくつくらいから人の心は落ち着くものなのでしょうか?

この興味深い変化について、アメリカ・ワシントン大学(University of Washington)の研究チームは、特に女性の怒りのコントロールが上手くなる時期について調査を行いました。

女性は更年期など体の変化も精神状態に影響するため、この問題を追うことがかなり難しいとされています。彼らは10年近く女性を追跡し、どのような変化が起きるかを詳細に分析したのです。

この研究の詳細は、2025年7月に学術誌『Menopause』に掲載されています。

目次

  • 女性は怒りっぽい?
  • 「怒りを感じても、ぶつけなくなった」

女性は怒りっぽい?

Credit:canva

若い頃は怒りっぽかった人でも、歳を重ねると怒りの表出は控えられるようになり、穏やかな人物になる人が多くなる印象があります。

しかし、人が怒りのコントロールが上手くできるようになるのは、どのくらいの年齢からなのでしょうか?

男性の場合は、怒りの表現や、そのコントロールの状態の変化は比較的わかりやすい傾向があります。

男性の場合、40代以降を中心に怒りの頻度や強度が下降し、自己制御力が向上する傾向が報告されていて、脳波(ERP)研究では、若者は怒り顔などのネガティブ表情に強い反応を示す一方で、高齢男性(60代以降)では怒りへの反応が鈍くなる傾向が確認されています。

しかし女性の場合、「怒っている自分が“感情的”に見られるのでは」と不安に思い、その場で直接表現するのではなく、後から友人に愚痴をこぼしたり、SNSで不満を書き込んだりといった、間接的な表現に頼るケースが多いとされ、怒りの状態が分かりづらい傾向があります。

また、40代〜50代にかけて、月経の不安定さや更年期症状など、ホルモンバランスの大きな変化に直面し、これが感情や怒りの変化にも影響するため、年齢により怒りなどの感情のコントロールがどのように変化するかを明らかにするのは複雑な問題となっています。

そこでアメリカ・ワシントン大学(University of Washington)の研究チームは、こうした問題意識に基づいて女性の怒りのコントロールは年齢でどの様にコントロールされていくのかを明らかにしようと調査を行ったのです。

研究では、35歳から55歳の女性271人を対象に、更年期のステージごとに怒りの感情がどのように変化するのかを、心理学的な尺度を用いて精密に測定しました。

参加者たちは、ホルモン状態や月経の状況から5つの段階――「プレ更年期(閉経前)」「更年期移行期の前半」「更年期移行期の後半」「閉経直後」「閉経後」――に分類され、それぞれの時期における怒りの強さや表現方法、コントロールの程度などが評価されました。

怒りの評価には、以下の5つの心理尺度が用いられました:

  • ステート・アンガー(State Anger):その瞬間に感じている怒りの強さ

  • トレイト・アンガー(Trait Anger):普段から怒りを感じやすい傾向

  • 怒りの表出(Anger-Out):怒りを他人に向けて爆発させる傾向

  • 怒りの抑圧(Anger-In):怒りを我慢して内側に押し込める傾向

  • 怒りの制御(Anger Control):怒りを冷静に扱い、適切に反応できる力

さらにこの研究では、参加者の年齢や更年期の段階だけでなく、睡眠の質、喪失体験(身近な人の死など)、社会的支援の有無といった心理社会的な要因も統計的に調整することで、「単に年齢を重ねたから怒りが減る」という単純な解釈に留まらない分析が行われています。

このように、怒りという複雑な感情に対して、多角的かつ科学的にアプローチした点が、今回の研究の大きな特徴です。

「怒りを感じても、ぶつけなくなった」

Credit:canva

結果として明らかになったのは、女性たちは加齢とともに「怒りを感じにくくなり」「怒りをぶつける傾向が減り」「怒りを上手に扱う力が高まっていく」という一連の変化でした。

今回の研究では、「怒りを感じる頻度や強さ」だけでなく、それをどう表現するかも詳しく分析されました。

それによると、中年期の女性は、怒りを爆発させるような表現(Anger-Out)は次第に減り、冷静にコントロールする力(Anger Control)は年齢とともに向上していました。

つまり、「すぐに声を荒げる」「相手にぶつける」といった直接的な怒り方は少なくなり、より穏やかに対応できるようになっていたのです。

とはいえ、この変化だけを聞くと、怒りを感じても外に出さず、心の中に押し込める傾向(Anger-In)が強まっただけではないか? という疑問が浮かびます。

しかし、データ上では年齢に応じて、心の中に押し込める傾向(Anger-In)が増加するという事実は見られませんでした。

これは、「年齢を重ねたからといって、怒りをただ我慢するようになった」ということではなく、うまくコントロールして対処する力が育ったことを示しています。

そのため、若い頃のように、怒りを表出しづらいために、「仲間内で悪口を言って発散する」「SNSなどで間接的に吐き出す」などの行動も減少する傾向があると考えられます。

女性は更年期で感情が不安定になりがちということはよく言われるため、この時期に怒りのコントロールが上手くなっているという報告は矛盾するように感じる人もいるかもしれません。

確かに、怒りの強さそのもの(ステート・アンガーやトレイト・アンガー)は、更年期の移行期にやや高まる傾向がありました。

しかし、これはホルモン変化や心身の不安定さに伴う一時的なものと考えられています。それを過ぎて閉経を迎えると、怒りの強さは徐々に下がっていき、より穏やかな感情の安定期へと移行していくことが研究からは示されました。

つまり、更年期を「通過すること」自体が、感情的な成熟と安定につながっているとも解釈できるのです。

なお、この研究は女性のみを対象としているため、男性との比較は直接行われていません。ただし、他の研究では男性の怒りは中年期以降も減少しにくく、表出のコントロールも女性ほど高まらない傾向があることが示されています。

感情は鍛えられる――“怒り”との上手な付き合い方

怒りは、誰にとっても厄介で、時に破壊的な感情です。

けれどもそれは、自分の大切な価値観が侵害されたときに湧き上がる、いわば「心のアラーム」でもあります。

それを否定したり無理に抑え込むのではなく、年齢とともにその扱い方を覚え、感情とのつき合い方が変わっていく――今回の研究は、そんな変化を科学的に示したものといえるでしょう。

「前は腹が立って仕方なかったのに、最近は不思議と落ち着いて対応できる」

そんな自分の変化に気づいたとき、それはきっと“心の成長”のサインなのかもしれません。

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参考文献

Women’s Anger Management Improves in Midlife, Study Finds
https://www.newsweek.com/women-get-better-managing-their-anger-midlife-2093567

元論文

Anger, aging, and reproductive aging: observations from the Seattle Midlife Women’s Health Study
https://doi.org/10.1097/GME.0000000000002587

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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