「パクチー」が苦手な人は遺伝子変異を起こしていた!

健康

パクチー(コリアンダー)は、好き嫌いがハッキリしやすい食材です。

好きな人は独特の爽やかな香りに惹かれますが、ダメな人は「石鹸みたいな味」とか「カメムシのような匂い」とよく表現します。

同じものを食べているのに、どうしてこれほど風味に違いが出るのでしょうか?

実はそれは生まれつきの遺伝子に原因があり、パクチー嫌いの人だけが敏感に感じ取ってしまう匂い成分があるのです。

またパクチー嫌いの発生率は人種によっても違うことが分かっています。

詳しく見ていきましょう。

目次

  • パクチーとコリアンダーは同じ植物
  • 「パクチー嫌い」になりやすい人種は?

パクチーとコリアンダーは同じ植物

先に断りなく「パクチー(コリアンダー)」と表記しましたが、2つは同じ植物を指します。

地中海沿岸を原産地とするセリ科の一年草で、葉や茎はハーブ(香草)として、乾燥させた種子はスパイスとして使用されます。

パクチーはタイ語でコリアンダーを意味し、日本では主に香草として使うときに「パクチー」と呼ばれることが多いです。

反対にコリアンダーというと、カレーなどに入れるスパイスとして使うときの呼び名となっています。

葉っぱはハーブに、種子はスパイスに使われる
葉っぱはハーブに、種子はスパイスに使われる / Credit: canva

以下では表記を「パクチー」に揃えていますが、ここには「コリアンダー」も含むものとお考えください。

石鹸みたいな匂いの正体は「アルデヒド」

パクチーは非常に古くから食用や薬用として親しまれてきましたが、どうして一部の人々が強い拒絶反応を示すのかは不明でした。

しかしここ十数年の研究で、パクチーの感じ方に「遺伝子」が決定的な役割を果たしていたことが突き止められています。

2012年に米カリフォルニア州を拠点とするバイオテクノロジー企業・23andMeは、約3万人を対象とした大規模研究を行いました。

参加者にパクチーの好き嫌いを評価してもらい、遺伝子を比較分析したところ、パクチー嫌いの多くが嗅覚受容体のひとつである「OR6A2遺伝子」に変異を起こしていることが判明したのです。

さらに調査を進めると、OR6A2遺伝子が変異している場合、パクチーに含まれる「アルデヒド」という匂い成分に敏感に反応して、それと特異的にくっつくことが分かりました。

そしてこのアルデヒドこそ、香り成分として石鹸にも含まれる化学物質なのです。

パクチーと石鹸には同じ「アルデヒド」が含まれている
パクチーと石鹸には同じ「アルデヒド」が含まれている / Credit: canva

パクチー嫌いの人は、この石鹸のようなアルデヒドを強く感じてしまうことで、「パクチーは食べ物じゃない」と認識してしまうと考えられます。

逆にOR6A2遺伝子が変異していない人は、アルデヒドの匂いを強く感じないので、パクチーも難なく食べられるのでしょう。

それからパクチーの風味を「カメムシみたいな匂い」と表現する人がたくさんいますね。

「食材に対して失礼だ」と言われるかもしれませんが、実はこれ正しい感覚なのです。

というのもカメムシの放つ独特な匂い成分の中に、先と同じアルデヒド類が含まれているからです。

なのでパクチー嫌いの人は自信をもって「カメムシ味だ!」と言って問題ないでしょう。

さらに23andMeは、パクチー嫌いが発生しやすい人種も特定しています。

「パクチー嫌い」になりやすい人種は?

先の23andMeの調査では、パクチー嫌いになりやすい人種となりにくい人種が明らかになっています。

それによると、北欧と南欧を含むヨーロッパ系の人々で最もパクチー嫌いが多く、対象者の14〜21%が「パクチーが苦手だ」と報告していました。

次に、アフリカ系アメリカ人が9.2%、ラテン系が8.7%、東アジア系が8.4%でパクチー嫌いが発生しています。

一方で、南アジア系ではパクチー嫌いが3.9%しかいませんでした。

やはりエスニック料理にパクチーを愛用する南アジア系の人々は、パクチーを好みやすいようです。

パクチーはエスニック料理に欠かせない
パクチーはエスニック料理に欠かせない / Credit: canva

これと別にパクチーの歴史を遡ってみると、興味深いことに、1500年代〜1600年代にはすでにパクチー嫌いの報告が記録されています。

しかしその当時は「石鹸」や「カメムシ」ではなく、「トコジラミみたいな匂いがする」という苦情が多かったそうです。

トコジラミもアルデヒド臭を出すことが知られますが、これは当時の衛生レベルが低くて、人々がトコジラミと接触する機会が多かったこと。

それからアルデヒド成分を合成した石鹸がまだなかったことが原因と指摘されています。

逆に社会の衛生レベルが高まって、人々が日常的に石鹸を使うようになってから「パクチー=石鹸の匂い」と変わっていったようです。

シナモンにも「アルデヒド」が含まれている
シナモンにも「アルデヒド」が含まれている / Credit: canva

またアルデヒド成分を含む食材はパクチーの他に、シナモンやバニラなどがあります。

両方ともスイーツの風味づけや香水として人気ですが、苦手な人はおそらく、アルデヒドの匂いに敏感に反応しているのでしょう。

パクチー嫌いの方はもしかしたらシナモンとバニラも苦手なのではないでしょうか?

オシッコが異様に臭くなる現象の原因は「アスパラガス」だった

全ての画像を見る

参考文献

Why do some people think cilantro tastes like soap?
https://www.livescience.com/health/food-diet/why-do-some-people-think-cilantro-tastes-like-soap

Cilantro Love and Hate: Is it a Genetic Trait?
https://blog.23andme.com/articles/cilantro-love-hate-genetic-trait

元論文

Prevalence of cilantro (Coriandrum sativum) disliking among different ethnocultural groups(2012)
https://flavourjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/2044-7248-1-8

Coriander (cilantro): A most divisive herb(2023)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1878450X2300121X

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

タイトルとURLをコピーしました