子供を愛する親の行動が、必ずしも子供を幸せにするとは限りません。
「失敗してほしくない」「危険から守りたい」「将来うまくいってほしい」
こうした親の願いは、ごく自然で健全なものです。
でも、少し思い出してみてください。
あなたは子どもの頃、「それやめなさい!」と何度も言われたことはありませんか?
それは「本当に自分のためだった」と思えたでしょうか?
そうした行動の裏側に潜む“ある感情”が育児に入り込むと、逆に子供の発達を阻害してしまうことがあります。
その“ある感情”とは「不安」です。
心理学者ジェフリー・バーンスタイン博士(Jeffrey Bernstein, Ph.D.)は、親の不安が過保護や過干渉という形で子供に悪影響を与えている現状を報告しました。
本記事では、親の愛が暴走する4つの実例と共に、子どもへの影響を解説します。
目次
- 親の不安が育児に与える影響とは?
- 親は「コントロール」ではなく「信頼」を愛の形だと知るべき
親の不安が育児に与える影響とは?
親が「心配性」になるのは仕方のないことです。
現代は、治安、進学、就職など、あらゆる競争と不確実性に満ちています。
その中で、「わが子が失敗しないように」と願うのは、ある意味当然の行動とも言えます。
しかし問題は、この「不安」が親の行動にどう表れるかです。
時に不安は、お世話の域を超えて、子どもをコントロールするよう促します。
これは子どもにとって辛いことです。
これから、様々な年齢の子供たちに対して、親の不安がどのように悪影響を及ぼすか見ていきましょう。
ケース①:マヤ(4歳)──「登っちゃダメ!」で萎縮する探究心

マヤの母・リサは、娘を思うあまり、いつも公園や子供向け遊具で口を出します。
「危ないよ!」「そこ登っちゃだめ!」「気をつけて!」
確かに、転んだり、ぶつけたりすれば危険です。
でもリサのように、子どもが何かをするたびに否定や警告を繰り返してしまうと、子どもは「挑戦」そのものを避けるようになります。
バーンスタイン博士は、「このような干渉は、子どもの好奇心を萎縮させ、結果的に“自分には無理かもしれない”という自己イメージを形成する」と指摘しています。
代わりに、「そばで見守ってるよ」「困ったら言ってね」といった信頼ベースの声かけをすれば、子どもは安心してチャレンジできます。
つまり、危険を防ぎたい気持ちは大切ですが、それを“監視”で表現してしまうと、子どもの自立心を押しつぶすことになるのです。
ケース②:ジョーダン(10歳)──「習い事づくし」で奪われた自由
ジョーダンは毎日多忙です。放課後はチェス、数学塾、水泳と、1分も無駄にしないスケジュールがびっしり。
親はこうした活動を「将来の成功につながる経験」と考え、善意で与えています。
しかし、そこには「この子が自由にしていたら損をするかも」という強い不安と焦燥感があるのです。
結果、ジョーダンは自分の時間を持てず、「何が好きか」「何をしたいか」を感じる力を失ってしまいます。
自由な遊びや無目的な時間は、創造性や自立心、内省力を育むのに不可欠な要素です。
バーンスタイン博士も、「予定を詰めすぎた子どもは反抗的・無気力になりやすい」と指摘しています。
成功への道を敷くつもりが、自己決定力を削ぎ、反発する心を育ててしまうのです。
親は「コントロール」ではなく「信頼」を愛の形だと知るべき
親の不安が子供に悪影響を及ぼすケースの後半も考えてみましょう。
ケース③:エヴァ(16歳)──“信頼されない”ことの絶望

エヴァは学校のダンスパーティに行きたがっています。
しかし、父親は「絶対にダメだ」と言い、他の親に連絡を取ったり、細かすぎるルールを課したりして、エヴァの社会的体験を“事前に制御”しようとします。
その結果、エヴァは参加をあきらめ、「どうせ何を言っても無駄」と口を閉ざしていきます。
これは、子どもの自己表現と親子の信頼関係の両方を損なう典型的なケースです。
バーンスタイン博士は、「ティーンエイジャーは、少しずつ社会的リスクに直面しながら、自分なりの判断力と責任感を育てていく必要がある」と説きます。
親が何もかも決めてしまうと、子どもは自立のために“反抗”するか、または“秘密主義になって内にこもる”ようになってしまうのです。
大切なのは、親が子供と懸念点について率直に話し合い、合意できる点を見つけることです。
ケース④:マーカス(25歳)──「親離れ・子離れ」ができない親子
社会人1年目のマーカスに、母親は毎日連絡してきます。
「ちゃんと食べてる?」「会社うまくいってる?」「上司とうまくやれてる?」
一見すると微笑ましいやり取りですが、マーカスにとっては「監視されている」「信用されていない」という感覚が強く、だんだん距離を取り始めます。
ここで問題なのは、親が子を「独立した一人の人間」として見ていないことです。
“見守る”のではなく“管理する”姿勢が続くと、成人後も子どもが自己決定する機会を失いやすくなります。
博士は、「親はモニタリング(監視)ではなく、メンタリング(助言)の立場に立つべき」と提言しています。
「何か困ったことがあったら話してね」「あなたなら大丈夫」などの信頼に基づく声かけこそが、健全な親子関係の鍵となります。

ここまでで、愛情深い親がどのように子供をコントロールし、悪影響を及ぼしてしまうか考えました。
親が子どもに干渉してしまう背景には、強い「不安」があります。
そしてその不安は、親に「コントロールすること」と「世話」が同じことだと勘違いさせます。
しかし、バーンスタイン博士が繰り返し強調するのは、次の点です。
「親の不安が強ければ強いほど、子どもは“あなたは一人じゃ生きていけない”というメッセージを受け取ります。」
これは、子どもに“依存”か“反抗”という不健全な選択肢しか残さない危険なメッセージです。
子どもに本当に伝えるべきは、「あなたは自分で考え、選び、成長できる存在だ」という信頼のメッセージです。
その信頼が、子どもに“自信”と“挑戦する勇気”を与えるのです。
参考文献
The Hidden, Harmful Way Loving Parents Undermine Their Kids
https://www.psychologytoday.com/us/blog/liking-the-child-you-love/202508/the-hidden-harmful-way-loving-parents-undermine-their-kids
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部