鳥のさえずり音に「うつ症状を緩和する効果」があると判明

鳥のさえずりを聴くことで、うつ症状を持つ人の心身に特有の“回復効果”が現れることが、中国・浙江(せっこう)大学の研究で明らかになりました。

さらにこの効果は、マインドフルネス呼吸法というメンタルヘルスの定番対策にも匹敵するほど強力だったというから驚きです。

都会に住む人々にとっても身近な「鳥のさえずり音」が、実は心の健康を支える“天然のサプリメント”になり得るかもしれません。

研究の詳細は2025年9月22日付で学術誌『Applied Psychology: Health and Well-Being』に掲載されています。

目次

  • 鳥のさえずり vs マインドフルネス、気分の回復力を徹底比較
  • なぜ「鳥のさえずり」が“うつ症状の体”に効くのか?

鳥のさえずり vs マインドフルネス、気分の回復力を徹底比較

研究チームは、うつ症状に深く関わる「悲しみ」という感情に注目し、「鳥のさえずり」と「マインドフル呼吸」の効果を直接比較するという、これまでにない実験を行いました。

研究の参加者は187人の大学生。

まず、標準的な質問票によって「うつ症状あり」「うつ症状なし」に分けられ、それぞれのグループをさらに「鳥のさえずり音を聴くグループ」と「マインドフル呼吸ガイドを聴くグループ」に分けて検証が進みました。

実験はまず、全員が6分間リラックスして過ごす「安静フェーズ」からスタートします。

その後、悲しい映画のワンシーンを視聴してもらい、全員が一時的に「気分が落ちた」状態に誘導されました。

その上で「鳥のさえずり」または「マインドフル呼吸」のいずれかを6分間聴いてもらい、気分や生理反応がどう変化するかが測定されました。

興味深いことに、どちらの介入も、悲しみを感じた直後の「気分の落ち込み」や「自分をコントロールできない感覚」を明らかに改善しました。

つまり、「鳥のさえずり」も「マインドフル呼吸」も、同じくらい強力に悲しみを和らげる効果を持つことが示されたのです。

一方で「どちらがより良いか」という細かい違いも明らかになりました。

気分の快適さやポジティブ感情の回復については、「マインドフル呼吸」のほうがやや優れていました。

一方で、鳥のさえずりは、うつ症状がある人の「体の回復力(心拍変動の安定)」を特に強くサポートすることが判明しました。

なぜ「鳥のさえずり」が“うつ症状の体”に効くのか?

では、なぜ「鳥のさえずり」がうつ症状のある人に特有の効果をもたらすのでしょうか?

ヒントは、その「受動的でやさしい体験」にあります。

マインドフル呼吸は、呼吸や身体感覚に積極的に注意を向ける必要があり、意外と「脳のエネルギー」を使うメソッドです。

一方で、鳥のさえずりをただ“聴く”という体験は、頭を使う必要がほとんどなく、自然な形で感覚に寄り添うことができます。

抑うつ状態の人は、複雑な課題や集中を必要とする作業に「とっつきにくさ」を感じることが多いですが、鳥の声を聴くだけなら、気負いなく実践できるのです。

さらに今回の実験では、自己申告の気分評価だけでなく「心拍変動」という生理指標も調べられました。

これは“心の回復力”を反映するもので、抑うつ状態では低下しやすいことが知られています。

チームが注目したのは、「うつ症状がある人」が鳥のさえずりを聴いたときに、心拍変動が特に大きく安定する(=体のストレス調節力が高まる)ことでした。

つまり、「気分が落ちているときほど、鳥のさえずりは体の奥深くから回復を助けてくれる」、それが今回の研究から導き出された新たな科学的知見です。

今回の研究は、「マインドフルネス」のような積極的アプローチだけでなく、「鳥のさえずり」という身近な自然音が、気分の落ち込みやうつ症状のケアに新しい選択肢をもたらすことを示しました。

しかも鳥のさえずりは、都市の公園や自宅のベランダでも簡単に出会うことができます。

「ちょっと疲れたな」と感じたときは、イヤホンやスピーカーから流れる自然音を生活に取り入れてみるのもよいかもしれません。

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参考文献

For individuals with depressive symptoms, birdsong may offer unique physiological benefits
https://www.psypost.org/for-individuals-with-depressive-symptoms-birdsong-may-offer-unique-physiological-benefits/

元論文

Birdsongs and audio-guided mindful breathing: Comparable sadness-reducing effects in the lab
https://doi.org/10.1111/aphw.70081

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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