食品廃棄量が少ないのは「持続可能性」志向より「健康」志向の人だった【なぜ?】

オーストラリア

地球温暖化や環境問題への意識が高まる現代、私たちは日々の生活の中で”持続可能性”を強く意識するようになりました。

エコバックを手に持ち、オーガニックな食材を選んだり、環境負荷の少ない食品を手に取ったりする人が増えています。

しかし、「持続可能な商品を選ぶ」という意識は、持続可能とは切り離せない「食品ロスの軽減」にまで繋がっているのでしょうか?

この素朴ながら重要な疑問に答えたのが、オーストラリア・アデレード大学(University of Adelaide)の研究チームです。

彼らは、”持続可能性”と”栄養重視”という2つの意識が食品廃棄行動にどう影響するかを科学的に分析し、予想外の結果になったことを報告しています。

研究の詳細は、2025年4月13日付で『Resources, Conservation & Recycling』誌に掲載されました。

目次

  • 持続可能性を意識することは「持続可能な世界」をつくるのか?
  • 「持続可能性を重視する人」よりも「栄養を重視する人」の方が食品廃棄が少ない

持続可能性を意識することは「持続可能な世界」をつくるのか?

最近、スーパーでこんな光景を見たことはありませんか?

オーガニック野菜や地産地消の食品、またフェアトレード認証(生産者に公平な取引を行っている証拠)のチョコレートをカゴにたっぷり入れている人。

これらの食品はサステナブルフードの一例であり、持続可能性を意識し、環境への負荷を最小限に抑え、社会に良い影響を与えると考えられています。

確かに、こうした選択は素晴らしいものです。

でも、ふと疑問が湧くかもしれません。

こうした意識は、本当に持続可能な世界に繋がっているのかな?」と。

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毎年、世界中で大量の食品ロスが生じている / Credit:Canva

農林水産省によると、世界では毎年およそ13億トン(日本は612万トン)もの食品が廃棄されており、その多くは家庭から出ています。

これは、持続可能な社会づくりへの大きな障害です。

たとえば、買ったはいいけど冷蔵庫の奥に放置されて、しおしおになったほうれん草や、気づけば水分が抜けてカピカピになったミニトマト──そんな”食品ロスあるある”、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか?

そこでアデレード大学の研究チームは、オーストラリア・アデレード市の1030人を対象にオンライン調査を実施しました。

質問内容はシンプルですが本質的なものでした。

たとえば、「あなたは食べ物を選ぶとき、どれだけ栄養を重視していますか?」「環境への配慮をどれだけ重視していますか?」「そして、どれくらい食べ物を捨てていますか?」といった質問が投げかけられました。

さらに、買い物や料理における”計画性”や”つい買いすぎる傾向”についても調査し、これらと食品廃棄量の関係を統計的に分析しました。

その結果、予想外の結果が導き出されました。

「持続可能性を重視する人」よりも「栄養を重視する人」の方が食品廃棄が少ない

分析の結果、栄養を重視する人ほど食品を無駄にしないことが明らかになりました。

具体的には、健康意識が高い人は買い物前に冷蔵庫の中身をチェックし、献立を立てて必要な分だけを買い、余った食材をリメイクして活用していました。

たとえば、余った野菜でスープや炒め物を作るといった工夫です。

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持続可能性志向の人は、そこまで食品ロスを減らせていなかった / Credit:Canva

一方、持続可能性を重視する人たちは、必ずしも食品廃棄を減らしていないことが判明しました。

環境を意識してオーガニック食品を購入しても、買っただけで満足してしまい、料理の計画を立てずに腐らせる傾向が見られたのです。

たとえば、せっかく買った無農薬のセロリを数日でしなしなにしてしまうといったケースです。

つまり今回の研究では、良いものを買うだけでは「無駄にしない」ことにはつながらない、という厳しい現実が浮かび上がったのです。

では、これから私たちはどうすればいいのでしょうか。

答えは明快です。

栄養を意識し、計画的に食べることこそが、持続可能な食生活への近道です。

サステナブルな買い物と健康的な食べ方を意識することで、環境にも体にも優しい生活が実現できます。

……とはいえ、買い物のたびに「今日は栄養バランスも食品ロスも完璧!」と気負いすぎると、かえって疲れてしまうかもしれません。

そんなときはこう考えてみましょう──

まずは今日、冷蔵庫の奥でしんなりしている”あの野菜”を救おう

そうした一歩が、やがてより”大きな範囲を救う”ことになり、持続可能な世界に繋がるかもしれないのです。

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参考文献

Reducing food waste: Is focusing on nutrition or sustainability better?
https://newatlas.com/environment/food-waste-nutrition-sustainability-focus/

Seeking nutrition, not sustainability, reduces food waste
https://www.adelaide.edu.au/newsroom/news/list/2025/04/22/seeking-nutrition-not-sustainability-reduces-food-waste

元論文

Sustainable food consumption: Sustainability-conscious consumers do not reduce food waste but nutrition-conscious consumers do
https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2025.108296

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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