頭痛がひどい時すばやく鎮痛剤を吸収させる方法「飲んだ後の姿勢が重要だった」

シミュレーション

頭痛・腰痛・生理痛・歯痛などの痛みを軽減したいときには鎮痛薬が役立ちます。

症状が重ければ重いほど、「一刻も早く薬の効果が現れてほしい」と感じるものです。

アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)医学部に所属するラジャット・ミタル氏ら研究チームは、新しい研究の中で、経口薬を飲んだ祭の薬の吸収のされ方についてシミュレーションし、もっとも効率の良い方法について報告しました。

それによると右側に傾いた姿勢になることで正座状態の2倍早く薬を吸収できるというのです。

研究の詳細は、2022年8月9日付の科学誌『Physics of Fluids』に掲載されました。

目次

  • 薬を飲むときは「右に傾いた姿勢」を維持すべき
  • 薬を飲む姿勢が悪いと「胃の機能不全」と同レベルの悪影響がある

薬を飲むときは「右に傾いた姿勢」を維持すべき

鎮痛薬などの錠剤を飲んでから効果が現れるまでには、ある程度の時間が必要です。

なぜなら、錠剤が胃に流れた後、幽門(ゆうもん)と呼ばれる消化の際に開閉する弁を通過して腸に到着し、そこから血流に吸収される、という長い道のりを経なければいけないからです。

では、この経口薬の消化吸収をできるだけ早める方法はあるのでしょうか?

胃の形と経口薬の経路
胃の形と経口薬の経路 / Credit:Rajat Mittal(Johns Hopkins University)et al., Physics of Fluids(2022)

画像から分かる通り、胃は左右対称ではありません。

そのため、経口薬を飲むときの姿勢が消化吸収に影響を与える可能性があります。

そこでミタル氏ら研究チームは、34歳男性のボディスキャン画像をもとに作成した「胃のコンピューターモデル」を使って、薬を飲むときの4つの姿勢で、消化吸収の速度がどのように変化するかテストしました。

このモデルでは、流体力学と生体力学の観点から、錠剤が胃から十二指腸(栄養の吸収が始まる小腸の最初の部分)に排出されるまでの速度をシミュレーションしました。

4つの姿勢における胃の状態。直立(Upright)、右傾(Posture1)、左傾(Posture2)、後傾(Posture3)。右傾時には胃が重力の向きに対して並行になり、薬が奥に落ちやすい
4つの姿勢における胃の状態。直立(Upright)、右傾(Posture1)、左傾(Posture2)、後傾(Posture3)。右傾時には胃が重力の向きに対して並行になり、薬が奥に落ちやすい / Credit:Rajat Mittal(Johns Hopkins University)et al., Physics of Fluids(2022)

テストされた4つの姿勢は次の通りです。

  • 直立:まっすぐに立った状態。もしくは正座
  • 右傾:右に寄りかかった状態。もしくは体の右側を下にして寝た状態
  • 左傾:左に寄りかかった状態。もしくは体の左側を下にして寝た状態
  • 後傾:後ろに傾いた状態。もしくは仰向けになって寝た状態

その結果、シミュレーションでは右傾姿勢で薬を飲むと、胃の一番深いところに薬が入り込み、直立姿勢で薬を飲むよりも、薬が2倍早く「溶ける」と判明。

また左傾姿勢だと、直立姿勢に比べて薬の吸収に最大5倍の時間がかかることも分かりました。

ミタル氏は、「高齢者や座りっぱなしの人、寝たきりの人にとって、右に傾いているか、左に傾いているか、という違いは大きな影響を与えます」と述べています。

ちなみに今回の結果は、1988年に発表されたアメリカ・ユタ大学(The University of Utah)の「右側に横たわると、胃が食物を腸に排出する速度が向上する」という報告や、2008年に発表されたドイツ・ケルン大学(University of Cologne)の「右に傾いて座ったり立ったり寝転んだりすると経口薬の吸収が促進される」という報告とも合致しています。

ですから、私たちが「一刻も早く痛みを和らげたい」と感じて鎮痛薬を飲む場合、体を右に傾けながら飲み、その状態をしばらく保つと良いでしょう。

薬を飲む姿勢が悪いと「胃の機能不全」と同レベルの悪影響がある

体の傾きを間違えると、胃不全麻痺と同じレベルにまで消化吸収が遅くなる
体の傾きを間違えると、胃不全麻痺と同じレベルにまで消化吸収が遅くなる / Credit:Canva

さらに研究チームは、胃不全麻痺(胃が麻痺して動きが悪くなる病気)の場合に、薬の吸収がどのように変化するかもシミュレーションしました。

その結果、胃の消化力が少し低下するだけで、錠剤を消化して十二指腸に排出する速度が大きく落ちました。

しかもその変化量は、間違った姿勢がもたらす消化吸収の遅延と同レベルだったのです。

ミタル氏は「錠剤の溶解に限ったことですが、姿勢の変化がもたらす悪影響の程度は、胃が大きな機能不全に陥っているケースと同じです」と述べました。

ここからは、薬を飲むときの姿勢が、素早く効果を得るための非常に重要な要素だと分かります。

経口薬を飲むときには体を右に傾けるべきだが、他の要素も関係する
経口薬を飲むときには体を右に傾けるべきだが、他の要素も関係する / Credit:Canva

とはいえ研究チームは、今回のシミュレーションにはいくつかの制限があることも認めています。

錠剤の消化吸収には、胃の中の液体・ガス・食物の量も影響を与えますが、今回はそれらの要素がモデル化されていません。

また遺伝の影響により、同じ薬を飲んだとしても得られる効果には人によって大きな差があります。

姿勢が経口薬の吸収速度に大きな影響を与えるのは事実ですが、関係する要素はそれだけではないのです。

そして研究チームは最後に、「薬の効果を確実にするための最善の方法は、処方されたとおりに薬を飲むこと、服用を忘れないこと」だと付け加えています。

結局、経口薬の正しい飲み方とは、いつも「用法用量を守る」ことなのです。

その点を守れている人は、次に「右に傾くこと」も意識してみましょう。

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参考文献

You’re Probably Taking Your Pills Wrong, New Study Finds
https://www.sciencealert.com/youre-probably-taking-your-pills-wrong-new-study-finds

元論文

Computational modeling of drug dissolution in the human stomach: Effects of posture and gastroparesis on drug bioavailability
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0096877

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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