電動キックボードより電動アシスト自転車の方が事故率が約8倍高かった

近年、日本でも電動キックボードの事故が相次いで報じられ、電動キックボードは「危険な乗り物」というイメージが広がっており、ルール作りの議論も活発化しました。

これは海外でも同様であり、電動キックボードは事故を起こしやすく危険と捉えられています。

ところがヨーロッパで行われた研究は、この認識を揺るがすものでした。

スウェーデンのチャルマース工科大学(Chalmers University of Technology)の研究チームが、電動キックボードと電動アシスト自転車の事故率を公平な条件で比較した結果、意外にも「電動アシスト自転車の方が事故率が高い」という結果が示されたのです。

これまで危険視されてきた電動キックボードよりも、自転車の方がリスクが高いとしたら、私たちの認識は根本から問い直されることになります。都市交通における新しいモビリティの安全性をどう評価すべきか、この研究は重要な示唆を与えているかもしれません。

この研究の詳細は、2025年9月に科学雑誌『Journal of Safety Research』で公開されています。

目次

  • 思い込みを崩す「公平な比較」
  • 意外な結果「自転車の方が8倍危ない?」

思い込みを崩す「公平な比較」

電動キックボードは危険というイメージが広がった背景には、「自転車より4〜10倍も事故率が高い」という従来研究の数字がありました。

この数字は各地の規制強化の根拠にもなりましたが、比較の条件がそろっていないという弱点が指摘されてきました。

たとえば、自転車は私有、キックボードはレンタルという違いが混ざっていたり、どれくらい乗ったかという“乗車量”の差(暴露量)を十分に調整していなかったりという問題があったのです。

そこで研究チームは「不公平な比較になっていないか」をあらためて問い直し、同じ土俵での公平な比較に挑みました。

調査はヨーロッパ7都市で行われ、期間は2022年7月から2023年8月までです。比較対象は同じシェアリング会社のレンタル車両に限定し、電動キックボードと電動アシスト自転車を「同じ街・同じ運用ルール」で走らせました。

レンタル車両はGPSにより指定エリアの外に出ると電動駆動が停止する仕組みで運用されており、走行データはGPSを高頻度で記録し、走った距離・時間・利用回数を正確に把握しました。

分析に用いた“暴露量(exposure:どれくらい乗ったかの指標)”は「距離」「時間」「利用回数」の3種類で、事故件数をそれぞれで割って事故率を出しました。

対象としたのは「けがを伴う事故」に限り、車両故障が主因のケースは除外しました。両者の事故率の差は発生率比(IRR)で比べ、都市ごとのデータ量の偏りは混合効果モデルでならしました。

このように、場所・車両の所有形態・利用状況・“どれくらい乗ったか”をそろえたうえで、フェアな比較をめざした点がこの研究の特徴です。

意外な結果「自転車の方が8倍危ない?」

今回の調査では、電動キックボードで686件、電動アシスト自転車で35件の事故が報告されていました。この数字だけを見ると電動キックボードの方がかなり危険そうに思えます。

しかし論文が「10万回の利用あたり」「1,000時間あたり」「1万kmあたり」などの統一したデータで事故率で公平に比較した結果、利用回数を基準にすると、電動アシスト自転車の事故率は電動キックボードの約5倍となったのです。

さらに走行距離を基準にすると、電動アシスト自転車の事故率は約8.3倍走行時間を基準にしても約4.8倍と、いずれも電動アシスト自転車の方が事故率がずっと高い傾向が示されたのです。

つまり、単純な件数比較では利用者が以上に多い電動キックボードの事故件数が非常に多くなるため、「電動キックボードという乗り物は危ない」ように見えますが、同条件の事故件数を比較すると、むしろ事故を起こしやすい乗り物は電動アシスト自転車の方だったのです。

これまで「電動キックボードは危ない」というイメージが強調されてきましたが、今回のデータは必ずしもそれを裏づけるものではありませんでした。

研究者たちは、電動アシスト自転車の方が事故率が高く出た背景として、いくつかの要因を指摘しています。

まず、レンタル用の電動アシスト自転車は車体が重く、ブレーキや取り回しが難しいため、慣れていない人にとって操作性が低い可能性があります。さらに、観光客など普段あまり自転車に乗らない人が利用するケースも多く、土地勘のなさ、経験不足が事故につながると考えられます。

一方で、今回の調査は、怪我を伴う事故報告に限定されているため、軽いケガやヒヤリとした場面が見落とされている可能性も残ります。

もちろん利用者が多いために事故件数が多いという問題自体が無視できるわけではありません。人気が高く利用者が集まっている乗り物に対する警戒や、厳格なルール作りは、引き続き必要になるでしょう。

ただ重要なのは、これまで広まっていた「電動キックボードだから危ない」という考え方は、データの取り方や比較の条件の違いによる思い込みだったかもしれない、という点です。

実際は電動アシスト自転車の方が、レンタル利用者が事故を起こしやすいという事実は、周知されるべきであり注意を呼びかける必要がある問題でしょう。

報告の精度を上げるためには今後は、さらに多くの都市や国で同様の調査を行い、データを積み重ねる必要がありますが、そうした取り組みを通じて、都市交通政策やマイクロモビリティの安全対策をより高いものにしていけるでしょう。

日本でも電動キックボードの事故は大きく報じられていますが、今回の調査は「どちらが危険か」を決めつける前に、データの取り方を工夫することが欠かせないと教えてくれます。

電動キックボードに関しては利用者の多さから実際に事故件数が伸びているため、電動キックボードが危険というイメージが偏見であるとは言いません。しかし利用者が少ないために、電動キックボードの影に隠れてより事故を起こしやすい乗り物が見落とされてしまうとなると問題があります

「電動アシスト自転車だから大丈夫だろう」というような注意点の見落としを避けるためにも、今回のような比較は重要となるでしょう。

乗り物を自ら運転するときは、その危険性を利用者が正しく理解することは欠かせないことです。自転車なら大丈夫、という安易な考え方はしないように注意しましょう。

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参考文献

Rented e-bicycles more dangerous than e-scooters in cities
https://news.cision.com/chalmers/r/rented-e-bicycles-more-dangerous-than-e-scooters-in-cities,c4233450

元論文

Is e-cycling safer than e-scootering? Comparing injury risk across Europe when vehicle-type, location, exposure, usage, and ownership are controlled
https://doi.org/10.1016/j.jsr.2025.06.015

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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