金鶏と銀鶏の雄は派手な冠羽のせいで「周りがよく見えていない」

キジ科のオスたちは、派手な羽毛を使ってメスの気を引きつけます。

鮮やかな色の冠羽や首まわりの飾り羽を大きく広げてアピールする姿は華やかですが、その代償として「自分の周りが見えにくくなっている」可能性があると、研究者たちは指摘します。

イギリスのロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ(RHUL)の研究チームは、キンケイ(Chrysolophus pictus)ギンケイ(Chrysolophus amherstiae)のオスとメスの視野を正確に測定し、派手な飾り羽が視界をどれほど遮るのかを明らかにしました。

この研究成果は、2025年11月26日付の『Biology Letters』に掲載されています。

目次

  • キンケイとギンケイのオスは飾り羽のせいで「視野が狭い」
  • メスへのアピールのためには「捕食リスクが高まるのを辞さない」オスたち

キンケイとギンケイのオスは飾り羽のせいで「視野が狭い」

研究チームが着目したのは、キンケイやギンケイのオスだけが持つ「冠羽」や「ケープ状の飾り羽」が、求愛の際だけでなく日常でも頭部の周囲を覆うように伸びている点です。

鳥類にとって視覚は、生存に直結する最も重要な感覚であり、餌を探したり、捕食者の気配を察知したり、仲間やライバルの動きを確認するために欠かせないものです。

これまで視野の研究は約300種で進められてきましたが、鳥類では「オスとメスで視野に差はない」という結論が一般的でした。

しかし研究者たちは、派手な羽が大きく発達したこれらのキジ科のオスでは、羽そのものが視界を遮る物理的な妨げになっている可能性があると考えました。

そこで研究チームは、キンケイとギンケイのオスとメスを対象に、目に光を当てて視野を判定する手法を用いて視野全体の形を精密に測定しました。

さらに比較対象として、同じキジ科でありながら派手な冠羽を持たないハッカン(Lophura nycthemera)キジ(Phasianus versicolor)についても同様の測定を行い、頭の飾り羽の有無が視野の差につながるかどうかを確かめました。

そして測定の結果、キンケイとギンケイのオスはメスに比べて垂直方向の両眼視野が30〜40度も小さく、前上方や後方の盲点が大きいことが明らかになりました。

これに対してハッカンとキジではオスとメスの視野に違いは見られませんでした。

つまり、キンケイとギンケイの冠羽そのものが視野の差を生んでいることが示唆されたのです。

では、より具体的な調査結果を見てみましょう。

メスへのアピールのためには「捕食リスクが高まるのを辞さない」オスたち

視野の詳細な解析から、キンケイとギンケイのオスはメスに比べて垂直方向の両眼視野が著しく狭く、キンケイではオス75度に対してメス105度、ギンケイではオス70度に対してメス110度と、30〜40度の大差があることが確認されました。

これは鳥類の視野研究300種以上の中で前例がなく、視野に明確な「性差」が確認された最初のケースです。

また、盲点の面積はオスが114平方センチメートル以上であったのに対し、メスは約21平方センチメートルと大きく異なっていました。

オスでは特に、頭の上方から前上方にかけての領域が広く見えない構造になっていたのです。

さらに、背後の盲点もオスが10度ほど大きく、捕食者に背後から接近された場合に気づきにくい可能性があると分かりました。

これらの差は、比較対象としたハッカンやキジでは全く確認されなかったため、視野の制限はオス特有の冠羽や飾り羽が頭部周囲に張り出していることが原因であると考えられます。

では、キンケイやギンケイのオスには、どうしてそのような”ハンデ”があるのでしょうか。

研究チームは、派手な羽によって捕食リスクが高まるにもかかわらず、それでも生き残り繁殖できるオスは、「強く健康な遺伝子を持つこと」をメスに誠実に示している可能性があると考えています。

また、キンケイやギンケイでは秋に冠羽とケープ状の飾り羽が換羽で落ちることが知られているため、繁殖期には視野が狭まり、換羽後には視野が回復するという「季節で視野が変化する鳥」である可能性も示唆されました。

研究チームは今後、頭部の飾り羽を持つ他の鳥類でも同じ現象が見られるかどうか調べる必要があると述べています。

今回の研究は、派手に着飾るオスの優雅な姿の裏には、生き残りをかけた視覚の制約が存在していることを明らかにしています。

メスへのアピールと生存戦略の複雑なバランスがまたひとつ浮き彫りになったのです。

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参考文献

Love hurts: Flashy feathers may put some male pheasant species’ lives at risk
https://phys.org/news/2025-11-flashy-feathers-male-pheasant-species.html

元論文

The visual impediment of cranial ornamentation in male Chrysolophus pheasants
https://doi.org/10.1098/rsbl.2025.0405

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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