車にぶつかる虫の数は昔より減っているのか?実際数えて検証した研究

イギリス

今年の夏は連日30℃を超えるような猛暑だったため、蚊やセミも暑すぎてあまり見かけなかったという感覚を持つ人は多いかもしれません。

しかし、こうした傾向は今年だけの問題ではなく、もう何年も前から報告されている減少となっています。

その代表的なものが夏のドライブで車のフロントガラスにぶつかり飛び散る虫たちの存在です。

車を運転する人なら、長距離のドライブ後は洗車を余儀なくされ、うんざりするような現象ですが、実はここ数年、この車に虫がぶつかり汚れることさえも少なくなっていると言われています

もしかすると、これを読んでいる方の中にも、お盆の帰省時に実感している人がいるかもしれません。

ではフロントガラスにぶつかる虫の数は、本当に減っているのでしょうか。

実は2019年に、イギリスの自然保護慈善団体『ケント・ワイルドライフ・トラスト』が実際に車にぶつかる虫の数を調査した研究があります。

これによると年々虫の数は減少し続けているようです。

目次

  • 車にぶつかる虫の数15年で半分も減少していた
  • 昆虫が危機に直面している可能性

車にぶつかる虫の数15年で半分も減少していた

ここ数年、日本でもドライブ中に車にぶつかる虫の数が減ったと感じている人は少なくないようで、X(旧Twitter)でも、ちらほら報告されています。

しかし、偶然や勘違いなどではなく、本当に減少しているのでしょうか?

ケント・ワイルドライフ・トラストが行った調査によれば、2019年の時点で車にぶつかる昆虫の数が、15年前と比べて半分に減少していることが明らかになっています。

この調査は、2019年夏、6月から8月の間にイギリスのケント州を中心に650台以上の車を対象に実施されました。

調査は参加したドライバーたちが、自分の車のナンバープレートについた昆虫の数を報告する形で行なわれました。

この調査結果を、2004年に英国王立鳥類保護協会(RSPB)が行った同様の調査結果と比較したところ、1マイル(約1.6km)走行するごとの昆虫の飛散数の平均が、0.2匹から0.1匹に減少していることが確認されたのです。

これは、昆虫の数が半分になったことを示しています。

しかし、本当に昆虫の数が15年の間に半分も減ったのでしょうか?

当初、研究者たちは、ぶつかる昆虫の数が減少した理由として、車がより流線型のデザインになり、虫と衝突しづらくなったのではないかという仮説を立てました。

そして、この仮説を検証するため、古いデザインのクラシックカーの所有者を特に多く調査に参加してもらうよう募集したのです。

しかし、その結果を見ても、車にぶつかる昆虫数の減少傾向は変わりませんでした。

昆虫が危機に直面している可能性

別の調査でも昆虫は減っていることが確認されています
別の調査でも昆虫は減っていることが確認されています / Credit:canva

このような調査結果が出たのは、実は初めてではありません。

2000年代の初頭から、人々の間で、車のフロントガラスにぶつかる昆虫が少なくなったと囁かれていました。

そして、ここ20年間でこの現象に関する科学的な研究が増加し、人々が感じていたものが、ただの噂や思い違いではないことが次第に明らかになってきたのです。

デンマークでは1997 年から 2017 年の間に、 2 つの地区を移動する車のフロントガラスで死んだ昆虫の数が調査されました。この研究では計1375 件の報告から、この期間で虫の数が80%から97%も減少していると報告しています。

また、2018年にプエルトリコのエル・ユンケ国立公園周辺で行われた別の調査では、昆虫の量が1970年代に比べて10分の1から60分の1に減少したことが確認されています。

世界中でこれだけ多くの研究が、車のフロントガラスにぶつかる虫の数を気にしているというのは面白い事実ですが、これはそれだけ多くの人がこの問題を実感している証拠でもあるのでしょう。

これらの調査結果は、昆虫が世界中で大きな危機に直面していることを示しているのかもしれません。

実際、一部の専門家たちは、今後数十年のうちに地球上の昆虫の約40%が絶滅する可能性がある、深刻な「昆虫の終末」という状況を警告しています。

昆虫の数が減少している原因としては、気候変動、農薬の過度な使用、生息地の喪失、病気などが挙げられています。

昆虫は環境変化に対して非常にしぶとい印象がありますが、実際は環境の変化に耐えられないものも多いようです。

人間の暮らしは昆虫に悩まされることが多いため、昆虫が減ることを問題だとは考えにくいかもしれません。

しかし、どのような理由であれ、昆虫の数が減少傾向に向かうことは、私たちにとって決して良いことではありません。

実際、世界の植物の3分の1は、昆虫に受粉を媒介してもらわなければ繁殖できず、これは農業にも影響を与えます

また、昆虫は食物連鎖の基盤ともなっており、鳥や小動物、一部の哺乳類など、多くの動物が昆虫を主食としています。昆虫が消えると、これらの動物にも影響を及ぼし、生態系全体のバランスが崩れる可能性もあります。

もし世界から昆虫が消えてしまったら、私たちの生活に大きな影響が出ることは明らかです。

車のフロントガラスにぶつかり飛び散る虫がいないことは、必ずしも喜ばしいことではないのかもしれません。

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参考文献

Why You See Fewer Bugs Splattering On Car Windshields Nowadays
https://www.iflscience.com/why-you-see-fewer-bugs-splattering-on-car-windshields-nowadays-70565

Bugs Matter | Kent Wildlife Trust
https://www.kentwildlifetrust.org.uk/get-involved/our-projects/bugs-matter

元論文

Parallel declines in abundance of insects and insectivorous birds in Denmark over 22 years
https://doi.org/10.5061/dryad.gq73493

ライター

榊田純: (さかきだ じゅん)動物、歴史・考古学、地球科学など、身近な疑問からロマン溢れる話題まで広く興味があります。どなたにでもわかりやすい記事を書くのが目標。趣味は映画、ゲーム、ウォーキング、ホットヨガ。とにかく猫が好き。

編集者

ナゾロジー 編集部

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