「健康寿命を延ばすには、足腰を鍛えることが大切」
これは過去の多くの研究で明らかにされていますが、大切なのは足腰だけではないようです。
筑波大学の最新研究で、足腰の筋力やバランス能力に加え、“手や指”の細やかな動き(手指機能)をしっかり保つことが、将来の要介護リスクを下げ、健康寿命を大きく左右することが明らかになったのです。
研究の詳細は2025年9月8日付で学術誌『Annals of Geriatric Medicine and Research』に掲載されています。
目次
- 見過ごされがちな「手指のチカラ」と健康寿命の深い関係
- 健康寿命を伸ばす「指先の機能」
見過ごされがちな「手指のチカラ」と健康寿命の深い関係

健康に長く自立した生活を送るには、転倒しない体づくりや足腰の筋力アップが大事。
そう語られることが多いですが、本当にそれだけで十分なのでしょうか。
実は私たちは毎日、食事、料理、歯磨き、衣服の着替え、薬の服用など、手や指先を細かく使う動作に支えられて生きています。
高齢になると、歩行や立ち上がりといった“下肢機能”が低下しやすいことはよく知られていますが、「手指機能」もまた、加齢とともに少しずつ衰えていきます。
「手指の動きが衰えても、足腰さえしっかりしていれば大丈夫」と思われがちですが、実際には手指の巧緻性が落ちると、日常生活のさまざまな動作で困難が生じます。
たとえば、ボタンを留める・箸を使う・歯ブラシを持つといった動作が難しくなると、食事や身だしなみなど自分のことを自分で行う“自立生活”に支障をきたしやすくなります。
この点に注目し、茨城県笠間市で約1,000人の高齢者を最長14年間にわたり追跡した最新研究では、手指機能が低い人ほど、将来的に「要介護」になるリスクが明確に高いことが判明しました。
健康寿命を伸ばす「指先の機能」
では、手指機能がどの程度低下するとリスクが高まるのでしょうか。
研究では、参加者の「手指機能」を2つのテストで評価しました。
ひとつは“ペグ移動時間”という手作業の速さを測る方法。
もうひとつが“丸付け課題”と呼ばれるテストです。
これは、15秒間で数字一覧表の数字をいくつ丸で囲めるかを計る、ごくシンプルなものです。
この「丸付け課題」で15秒間に21個以上丸を付けられるかどうかが、健康寿命を大きく左右する「分かれ道」だと判明しました。
もし20個以下しか丸を付けられない場合、要介護リスクが約1.5倍に跳ね上がります。
さらに、ペグ移動時間が38秒以上かかる場合はリスクが約2倍に。
つまり、手や指先の巧みな動きを、一定の水準(丸付け課題なら21個以上)で保つことが、健康寿命の“セーフライン”となっていたのです。
一方で、この水準を上回ったからといって、さらにリスクが大きく下がるわけではなく、あくまで“最低限の維持”が重要であることも明らかになりました。
この課題は特別な道具も必要なく、自宅でも簡単に実施できます。
もし測ってみて基準に届かない場合は、日常のなかで意識的に指先を使う作業(例えば折り紙や裁縫、楽器、簡単な工作など)を取り入れてみるのも効果的です。
参考文献
足腰の機能に加え、手指を巧みに動かす機能も健康寿命のカギとなる
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250929140000.html
元論文
Dose-response Association between Hand Dexterity and Functional Disability: A Longitudinal Study from the Kasama Study
https://doi.org/10.4235/agmr.25.0075
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部