アメリカのノースウェスタン大学(NU)で行われた研究によって、「お茶を入れるだけで飲み水に含まれる重金属をある程度除去できる」という驚きの結果が明らかになりました。
市販のティーバッグでも効果があるという報告で、毎日の暮らしの中で手軽に水質を改善できるかもしれないという注目の内容です。
いったいどのようにして、お茶の葉は有害な重金属を取り除くのでしょうか?
研究内容の詳細は『ACS Food Science & Technology』にて発表されました。
目次
- 重金属汚染が忍び寄る…あなたの飲み水は本当に安全?
- 茶葉が重金属を除去するメカニズム
重金属汚染が忍び寄る…あなたの飲み水は本当に安全?

近年、水道管の老朽化や土壌汚染、工場排水などが原因で、飲み水に鉛やカドミウムなどの重金属が混入する問題が世界中で懸念されています。
これらの重金属は体の中に蓄積すると、神経や腎臓などに悪影響を及ぼす可能性があるため、長期的な健康リスクとして無視できません。
特に子どもや妊婦など免疫が弱い人ほど、その影響を受けやすいといわれています。
こうした背景の中で、少しでも重金属汚染を減らす手軽な方法があれば、大勢の人の健康を守る助けになるかもしれません。
そこで注目を集めているのが「お茶」です。
世界で最も多く飲まれている飲料の一つであり、日々の習慣として多くの人が摂取しています。
実は、従来から一部の研究者や専門家の間では「茶葉に重金属が吸着しやすい」可能性が示唆されていました。
しかし、その吸着力が普段の飲み方でどの程度効果を発揮するのかは、はっきりと証明されていませんでした。
今回、ノースウェスタン大学の研究によって、その疑問に対する具体的な実験結果が示され、お茶の葉が重金属を取り込む仕組みや、その効果の大きさについて新たな知見が得られました。
ここからは、その研究でどのように実験を行い、どんな結果が出たのかを詳しく見ていきましょう。
ノースウェスタン大学の研究チームは、まず鉛などの重金属を含む水を用意し、市販されているさまざまなお茶の葉(紅茶や緑茶、ウーロン茶など)やティーバッグの素材(セルロース、綿、ナイロン)を使って実験を行いました。
具体的には、重金属を含む水を加熱し、そこにティーバッグを一定時間浸してから、残った重金属の量を計測するという方法です。
その結果、条件によっては約15%ほど鉛の濃度が低下したケースもあり、特に長めに抽出するほど除去率が高まる傾向が見られました。
また、セルロース製のティーバッグのほうが綿やナイロン製に比べて、より効率的に重金属を吸着することがわかったそうです。
研究チームは、「市販のお茶を普段通りに淹れるだけで、わずかでも水中の有害物質を減らす可能性がある」と述べており、重金属除去における“身近な効果”に注目が集まっています。
茶葉が重金属を除去するメカニズム

お茶の葉が重金属を取り除く大きな理由は、葉の表面構造と化学成分にあります。
実際研究では紅茶の製造過程で葉が“しわしわ”になったり、小さく砕かれたりすると、表面積がぐんと増加し、重金属イオンが“くっつきやすい場所”が多くなることが示されています。
さらに、茶葉に含まれるポリフェノールなどの成分は、金属イオンを抱え込む性質(キレート作用)を持っています。
こうした仕組みによって、茶葉の表面や成分に重金属が吸着され、水中の有害物質が減少するというわけです。
また、長く浸すほど茶葉と水がじっくり接触し、より多くのイオンが茶葉にとらえられます。
そのため、一晩かけてアイスティーを作るような方法だと、さらに除去率が上がる可能性があると考えられています。
こうした“自然のフィルター”としての働きは、普段何気なく使っているティーバッグでも機能するという点が、今回の研究で示唆された興味深いポイントです。
ただ今回の研究結果は、お茶を淹れるだけで重金属をある程度除去できる可能性を示したものの、深刻な水質汚染地域での完全な対策にはなりません。
あくまで市販のお茶を使って“少しでも水質を改善できる手軽な方法”という位置づけです。
それでも、世界中で毎日たくさん飲まれているお茶を活用できるというのは、公衆衛生にとって大きな意味を持ちます。
もしかすると、お茶が普及している地域では、重金属にさらされるリスクが幾分か下がっているのかもしれません。
今後は、茶葉の種類や抽出時間などによる最適条件を探りながら、より多くの重金属を除去できる応用策が検討されるでしょう。
また、使用済み茶葉の再利用――たとえば家庭での簡易フィルターや肥料としての活用――など、自然素材ならではの可能性も広がります。
お茶の“嗜好品”としてだけでなく、“ちょっとした浄化機能”にも目を向けることで、私たちの日常はより健康で安心なものになっていくかもしれません。
元論文
Brewing Clean Water: The Metal-Remediating Benefits of Tea Preparation
https://doi.org/10.1021/acsfoodscitech.4c01030
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部